幸運には皆あやかりたい
座敷童になれたことが、ものすごく嬉しかったと銀河は言った。
「座敷童とは、なんと幸せな存在なのかと……。自分がそうなれたことに、あの頃はただ喜んでおった……」
銀河は言う。
「悲しみなど知らなかった、苦しさを感じることもなかった。ただ、大好きな心地よい家族と共にあるだけで良いのだぞ?自分がそこに居るだけで、大切な者たちは護られ、健やかに暮らして行けるのだ――。座敷童はなんと安易で、気楽な存在なのかと思ったものだ……」
「それは……」
「ああ、無知ゆえの勘違いだがな……」
確かに座敷童が家にいるだけで、そこに属する人には幸運が訪れる。
座敷童は居るだけでいい……というか、居ること以外してはいけないのだ……。
もし人の身に余る、過ぎた幸運をうっかりもたらしてしまったら、それはいつか悪運を呼び込むことになってしまうから――。
そんなこと、あの頃は知らなかった――。銀河は大きくため息をついた。
「ワシは無知なまま……勘違いしたまま、あの家の座敷童として在り続けた。もしただあるだけのものとして居ったのなら、ワシはもう少し長く、あの家の者たちと共に暮らせたのかも知れん」
「何があったんだ?」
「……積み重ねだ」
「積み重ね?」
「ああ、一代ではワシの罪は暴かれなかった……」
「罪?」
「だと、思う……」
と、銀河は言った。
「ほとんどは些細なことだ。家の子供たちが、紙芝居に行くと騒いでおったときに、何か嫌な気がして草履を隠して行けなくしてやったら、そこに集まっていた者の中に流行り病にかかった者がおって、行った者は皆病に倒れ、何人か亡くなったとか。
山に遊びに行ったときに、うちの子らだけなんもない所で迷って途中で引き返してきたが、先に進んだ連中は熊に追われて命からがら逃げかえってきたとか……」
「…え、そういうの、俺ら的には普通のことだよな?」
座敷童のついた家に良くあるちょっとした幸運だ。
「そうだ。どれもこれも些細なことばかりだ。だが、それがいくつも積み重なると、他からはあの家ばかりなぜ幸運が来るのだ?と言う話になってしまう……」
「やっかまれた?」
「それならまだ対処のしようもあったのだがなぁ……」
うんざりとした声を銀河は上げた。
「ある日な、家の窓から大岩――ワシの本体を見たら、しめ縄が巻かれておった」
「え……」
クロは眉をしかめる。
しめ縄は神域を示すものだ。
「奉られちゃったのか?」
「ああ……」
気まずそうな顔をする銀河。
「あの家ばかりに運の良いことが起きる――と、噂になっとったのだが、いつの間にかそれが村の外にまで広がっておったのさ……。そうなると当然のように、村長であるスエノの実家に、色々言ってくる者が出てきてしもうてな……」
「村外に噂が回るほど、運もたらしちゃったんだ……。銀河、力使ってなんかした?」
「あやつに水脈を教えて井戸を掘らせたり、病によく効く薬草を教えたり、嵐の前には警告もしておったかな……」
うそぶくように宙を見ながら銀河は言う。
「それだけ?てか、それだけでも、他の人からすれば大概な恩恵だけど……」
後半つぶやくようになったクロの言葉だが、しっかり銀河は聞き取り苦笑いする。
「……他にも色々教えておったような気はするなぁ…」
「えー……」
家の者を座敷童が好むのは仕方が無いこと……だが、どうやら銀河は若干贔屓が過ぎたようだ。
広く噂になっても仕方が無いほどに――。
「噂になりすぎて、村長である父親に理由を聞かれたスエノは、ワシのことを話してしまった。大岩のところに精霊がいて、仲良くなったサクについて家に来たのだと……。そして、それが自分たちの家に幸運を呼んでいるのだと……」
「だからしめ縄か……」
銀河は頷く。
「元々、あの家の婆さまは村一番の知識者で、座敷童の話もどこかで聞き及んでおってなぁ、スエノにワシを連れ帰れたら幸せになれると教えておったそうだ」
「ふーん……」
「で、それだけで話が終われば良かったのだが……」
大岩のところに精霊が湧き、それを連れ帰ることが出来れば幸運が訪れる――。
そう聞きつけた人々が何もしないわけがない。
「それからは毎日のように、大岩を訪れる者が絶たなかった。拝んだり、叩いたり、大きな声で呼ばわったり、しまいには槌で叩いて岩を砕き、それを持ち帰る者すら現れた……」
このままではせっかくの精霊が下りる大岩が汚されてしまう――。
村長はそんな危機感を抱いたらしい。
銀河からしたら、たとえ人が何人あの岩に集ろうと、砕こうと、所詮は人の力……もし、自分以外の精霊が宿るにしても、何の差し障りも無いと思っていたが……。
「村長は大岩を村のご神体と定め、その世話役にあやつを定めおったのさ……」
「世話役?」
「最初はそう呼んでいた……。だが、途中で神主に呼び名が変わっとった……」
「えー……」
座敷童は神様じゃない。
当然、座敷童となった大岩の精霊――銀河が宿ったその岩も違うのだが……。
「あやつらはなぁ…それまでは、自分達が食べるだけを畑で育て、たまに川や山に幸を求めて行ったりする……呑気で豊かな暮らしをしとったのだ……」
贅沢をせず、平和に幸せに暮らしていた。
なのに、村から仕事を与えられてしまった――。
「村長は自分たちの村の聖域が荒らされるのが嫌で大岩をご神体にし、サクを見張りに置いたってことか……?」
「まぁ、仕方が無いことがあったのだがな……」
「とは?」
「遊びに来ていた風の精霊の一体が、集まっていた人の中に気にいった者をみつけてなぁ……」
「え……」
銀河以外にも座敷童になった精霊がいたと言う。
「神域化されても仕方ないか、それは……」
「ああ……」
銀河はため息を付いた。
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