必然
「えーっと……。ここに居るの?サクと仲良くなった精霊様…」
その日、サクに大岩のところに連れてこられ、挙句にその上に引き上げられた嫁は、ぺたんと座った状態できょろきょろした。
大岩は大人五人分くらいの高さがある。
一番てっぺんは尖っていて人が上がれるような場所では無いが(銀河はたまに上がっていた)、棚になっているところが何か所かあった。
その中でも、畳一畳分くらい川側にせり出した棚が、銀河お気に入りの場所で、サクが銀河に会いに来るのはそこだった。
高さ的には、地上から四、五メートル。
落ちて即死するような高さでは無いかも知れないが、大怪我は免れない高さ――。
極々普通の娘にとったら、とんでもない所に連れてこられたと思ったことだろう。
「あ、ああ…銀河はそこ……。え?あれ、駄目…か?」
きょろきょろする嫁にサクは困った顔をした。
と言うのも、探す嫁のすぐ横に銀河がいたからだった――。
サクの嫁に銀河を見る力は無かった……。
※ ※ ※ ※ ※
「どうもあやつは、自分に嫁入りすれば、スエノもワシを見えるようになると思っていたようだ」
その日のことを思い出すように、銀河は軽く目をつぶる。
「スエノって、サクの嫁の名か?」
「そうだ。村長の末娘だった」
「ほー、村の権力者の子ってことか!てか、末娘だからスエノ……。よく聞く話だが、安易な名づけだよなぁ……」
因みに末っ子のつもりだったが、その後も子が増えてゆき、『末』と名につくのに真ん中の子――と言うのは結構あることだ。
銀河は苦笑いしながら、スエノは確かに末っ子だったと言った。
「上が男ばかりで、やっと女子が出来て嬉しかったそうだ。親は大事にしとったよ」
「それでよく嫁に出したなぁ……」
話を聞く限り、サクは所帯を持つにはあまりいい条件とは思えない。
親兄弟のいない一人者で、毎日釣れもしない釣りを日がな一日しているような男――。
普通に考えたら、怠け者の甲斐性無しだ。
「理由の一つとして、スエノの親が村長と言うのが大きかった」
「なんで?」
いい家の子なら、むしろ余計に村の半端もののような男は避けそうな気がするが……。
「半端ものなんかじゃなかったからだ。あやつの家族が流されたのは、村総出での作業をしていたせいだからな」
もっともサクの家族だけでなく、多くの村人がその災害に巻き込まれ命を落としたのだが……。
「一人きりになったのはあやつだけだった……」
他の家は全員が流されたか、もしくは二人以上が残っていた。
「全員いなくなったのなら、家族を失う悲しみを背負う人は残らない……。二人以上いれば、残った家族で支え合える……。でも、一人きり…か……」
寂しすぎるね……と、クロはつぶやいた。
「土嚢積みは村を守るためのものだった。村を守るために、その作業を指示したのは村長だ」
「責任を感じた?」
「そういうことだ。村でのことなので、他の村人たちもあやつを気遣ってはいたが、やはりスエノの親である村長が、一番あやつを気にかけていた……」
「結構良い村長さんだった?」
クロの言葉に銀河は「さてな…」と首を傾げる。
「まぁ、本人同士も幼いころから仲が良かっただそうだ。あやつの親が健在の頃から、他にいい相手がいなければ……と言う話があったという話もしておった」
「ふーん……。なるほど…それこそ必然?」
「かもな……」
クロの問いに銀河は頷く。
「あの二人の持つ気は気持ち良かったぞ……」
その時の二人の様子を銀河は思い出していた――。
※ ※ ※ ※ ※
「え、居るって?…ここ?」
スエノは、サクに自分の目の前に銀河が言われておろおろしていた。
サクに大岩の上に精霊が見えること、サク以外の人にそれを見れた人がいないことは、ここに来る前から聞いてはいたが……。
(嫁入りしたら見えるかも…って思ったけど、駄目なの……?)
スエノはがっくりしていていた。
サクだけではなく、スエノも、サクに嫁入りすれば、自分にも精霊を見る力を得るかもしれないと思っていたのだ。
村長の家であるスエノの家には、村の長老とされる祖母がまだ健在だった。
その祖母はただ長生きなだけではなく、若いころから知識欲が旺盛で活発でもあり、色々な場所に行って話しをし、情報を得ている村一番の知識者だ。
スエノはその祖母から、もしその大岩の精霊を家の守護に迎えることが出来たら、スエノはサクと末永く幸せに暮らせるだろうと教えられていた。
(気持ちが綺麗じゃないと駄目だって、ばあちゃんに言われたけど……、うちはだめだってこと?!)
誰かに意地悪したり、仕事をさぼったりしたことは無いが、自分の気持ちが特別綺麗かと言われると自信は無かった。
しんどい時はどうしても愚痴が出るし、腹が立って家族に八つ当たりすることもある、良いことがあった人を羨んで、妬みの気持ちを持つこともある…。
何か意識的に悪いことをしたということは無いが……。
「あー、スエノ……」
「ごめん、サク…うち、見えん」
「そっかー」
「ごめんね」
「いや…。嘘つきって言わないか……」
「え?」
「いや…だから、スエノには見えんのだろう?儂が嘘をついているとは、思わんか?」
「思わないよ?」
「そ、そうか?じゃあ、まあ…信じてくれてありがとう」
頭を下げるサクにスエノは笑った。
「変なサク!ありがとうを言うのはうちの方よね?サクの大事な精霊様に、うちを紹介してくれようとしたんだから……。見えなくって、ごめんね。でも、ここに連れてきてくれてありがとう!」
スエノはそう言ってサクに頭を下げた。
「な、なんだよ…謝るなって!それより精霊様はやめろって!銀河って名前あるんだから、銀河って呼んでくれよ」
「え…いいの?サクが精霊様につけた名前なんでしょ?」
「銀河は気に入ってくれてるから…。名前で呼んだ方が喜んでくれるんだ」
「え、じゃあ、うちもそう呼ぶ!よろしく銀河ちゃん」
「えっ!ちゃんはやめてくれ!確かに見た目は三つくらいなんだが、ちゃんって雰囲気じゃ無いんだ」
「せ、精霊様を呼び捨てするなんて無理!…じゃあ、銀河様?」
「様もなんか、違う!」
「ええー?なら…さん?殿?」
初めて銀河のところに現れたスエノは、なかなかににぎやかな娘だった……。
因みに敬称はサクの主張通りに略され、スエノも銀河と呼ぶようになった。
※ ※ ※ ※ ※
「見えなかったのは残念だったね」
「大したことじゃない」
銀河は肩を竦める。
「スエノに見る力が無くとも、あやつらの放つ気は心地よかった……」
軽く目を閉じてそう言う。
「あの時、ワシはまだ精霊だった。なのに、家族となったあやつらの放つ気の心地よさに惹かれた……。だからだろうな……」
その後、家に帰る二人について行く気になってしまった……。
「あー、座敷童になる気になったんだ?」
クロの問いに銀河は首を振る。
「あの頃のワシは、精霊が座敷童になるなど知らんかったと言ったろうが……」
知らぬまま、気づかぬまま――。
「ワシはあの二人が暮らすという家について行った。あの時思っておったのは……ワシの本体となっているあの大岩が良く見える近くに建てたと言うので、どんな風に見えるのか?人の家とはどういうものか?人はどうやって暮らしておるのか………」
それまでは何かに興味を持つということも無かったのに、あの二人の『家』に惹かれて……。
「あやつの後について、一歩家に入った途端ワシは変わっておった――」
驚いたと同時に、自分に何が起こったかを察した。
「まさか自分が座敷童になるなど、あの瞬間まで思いもしなかった……」
そして言う。
「嬉しかったぞ」
銀河は笑ってそう言った。
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