なりゆきで・・・
「それにしたって、身勝手すぎる!」
「そういうな。今とは違いあの頃は、人が一人で生きていくことは難しい……」
家族を作り、それ以外の人の手も借り、それでやっと生きていける世の中だった。
昔は今より色々な環境が人に対して厳しかった、そうそう一人で生き抜けるような時代ではなかった。
「だからこそ、家族の繋がりが大事で強かった。だから、それが失われて深く傷ついた……」
そう言う銀河に、クロはふくれっ面を向ける。
「そういう事情も分からなくはないけどさ。だからって、人外の精霊を家族に望むなんて身勝手だ!」
「まぁ、あやつの下心については、ワシも思うところがなくも無いではないが……」
「あって当たり前だろ!」
家族を失う悲しみを二度と味わいたくないなんて理由で、死なない(と、思われている)精霊を家族に望むのは間違っている。
それってつまりは、精霊側が常に見送る側――悲しみを受ける側に置かれるということなのだから!
「そうなっちゃうのは仕方ないけど、あえてそこ狙って、家族に望むなんて……俺は許せん!むっちゃ腹立つ!」
怒るクロに銀河は苦笑する。
「そうだな……。だが、その下心をそうと理解できたのは、ワシが座敷童としてあやつを見送ったときだった……」
共に一つ家に暮らし、座敷童として護り続け、サクが人としての命潰える様を見送ったとき――。
「悲しくて、苦しくて……。逝くなと、ワシはあやつに怒った……」
ぽつぽつとつぶやくように銀河が言った。
「……俺もタロが逝くとき、そんなだったな……」
大切な者を失う辛さは、人も座敷童も同じだ。
ただ……。
「まぁ、俺の場合、そのうち見送ることに、多分少し慣れていったけど……」
タロを見送ったときほどの喪失感や、悲しみを、その後の家の者に感じたことは無い。
タロ以降の家の者も大切ではあったが、やはり最初のタロが一番大切だったからだろうと思っている。
大切な者に先に逝かれることに、慣れることが良いのか悪いのか……人より長く生きる座敷童としては仕方ないと思いつつも、クロはそんな自分に疑問を持っていた。
「いや……慣れることが大事なんだと、ワシは思うぞ。そうで無ければ、座敷童として長く家を護ることなどできんだろう」
「そうなのかな……」
クロは人の死に慣れる自分が冷酷な気がしていた。
「馬鹿なことを!座敷童が冷酷になどなれはせん。人が座敷童より短命なのは決まっておるのだから、その慣れは、座敷童として存在してゆくために必要な慣れだ。ワシはそう思う」
「そ、かな……」
クロが緩く頷くと、銀河は「もしかしたらの話だが……」と、人の死に慣れる座敷童を良しとする理由を言う。
「ワシらがもし人の死に慣れなんだら、ワシらは狂ってしまうのではないか…と、ワシは思う」
「狂うって、それは……」
そんなことは無い…とは、家の者を失う辛さを覚えている身では言えなかった。
人より長く生きるから、その分多く見送ることになる。
その都度、大きな悲しみに打たれていては、耐えきれずにそのうち壊れることもあるかもしれない。
「元の身は精霊だったり、付喪神だったり、死に臨んだ人だったりはするが、座敷童は人によっては神と勘違いしてしまうほどに力ある人外……。もし壊れて狂えば、人に害なす悪鬼になることもありえよう…」
そうならないために、慣れを覚えるのではないかと銀河は言った。
「慣れたくなんか、ないけど……」
クロは言う。
慣れると言うことは、それだけ見送ったということなのだから……。
「それは仕方あるまいよ。我らの寿命は人よりずっと長いのだから。ああ……慣れと言うか、諦め――と言ってもいいのかもな?」
座敷童は状況によれば不老不死と言えるのだろう。
良の気に恵まれた家にさえいれば、その身や力は損なわれない。
が――。
実際は、力を使いすぎればあっという間に年老いるし、人の死とは形が違うが、消滅という形でこの世から消えることだってよくある。
そうで無ければ、今の世にこんなに座敷童が少ないはずがない。
「とりあえずは…まぁ、ワシはあやつ――サクが所帯を持ったとき、つい惹かれて家に行き、その家に入った途端、座敷童になっておったのよ……」
我ながらびっくりしたと銀河は言った。
「あれ?(座敷童に)なろうと思ってなったわけじゃ無かった?」
「なかったな…。いつかあの大岩が砕けて岩になり、石になり、砂利になり、バラバラになって川から海に流れゆくまで、ワシは精霊であると思っておったよ」
恐らくは石か砂利に砕けた辺りで、大岩の精霊ではなくなり、山か川に属するものに変わっていただろうが…生まれたばかりの銀河には、そこまでの知識は無かった。
生まれたそのままで、存在していくものとその時は思っていた。
「つまりは……いわゆる、なりゆきで……と言うヤツだな」
「…なりゆきで存在変えちまうって、どうなんだ?」
「なったものは仕方あるまい?」
飄々とそう言う銀河に、クロはむーっと気に食わない気な顔を向ける。
「なんか、ムカつく……」
クロは精霊を自分の都合の良いように利用しようとした…と言うのがどうにも気に食わないのだが、銀河はその切っ掛けがあったからこそ、自分は座敷童となりその後の楽しい時を過ごせた――。だから、切っ掛けとなったズルさは許せという。
「最初はな、ワシもこやつどうしてやろうか……と思ったこともあったぞ?なにしろ散々、どうしようか…と、ワシのところで悩みごとを吐き散らした後、不意に数日姿を見せなくなったかと思ったら、いきなり所帯を持ったと、件の娘を連れて来おったのだぞ」
「は?嫁とりどうしようかー?って悩み吐き散らしといて、「決めました」の報告なしに、事後報告に来たっての?」
「そうだ。失礼だろう?」
何も思うことの無い生まれたばかりの頃ならまだしも、名づけされ力を増した銀河は、毎日やってくるサクの相手をすることで、様々な感情や感覚を学んでいるところだった。
人としての寂しさや苦しさを訴え、人でない銀河の存在に救いを求め、新たな縁――嫁とりに戸惑うサクは、その頃の銀河にとってかなり大きな存在だった。
なのに、戸惑い、恐れる気持ちを散々吐き出したあと、その後の過程を何も知らせずいきなり「嫁だ」と連れてきてしまうのだから……。
「さすがに少々ムッとしたものだ」
「なんでそんなヤツのところの座敷童になったんだよ!」
「そりゃ、あの二人が持つ気が心地よかったからだ。腹立たしい気持ちもあったが、あの二人の間には、確かに良の気があった」
家族として互いが思い合う良の気。
座敷童を育み、糧となるもの――。
それが、新しい『家』となったその二人にあったから――。
「だから、ワシが座敷童になるのは、必然だったのだろうなぁ……」
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