失いたくないから・・・
「ま、嫁候補ってとこかね?」
クロがそう言うと、銀河は頷いた。
「そうだ。あやつがそう言って来たしばらく後、所帯を持つことになりそうだと、困り顔で申告してきた」
「ん-?話を聞く限り、困ることはなさそうだけどなぁ……」
ちょっとおせっかいなご近所の娘…。
畑の手入れを怠けてはいけないのは当然のこと。
当たり前のことをわざわざ説教してくれるなんて、ありがたいことだ。
「あやつに構いたいたいが為の忠告だろうと、深く考えずともわかるし、それをあやつも憎からず思っておったのもわかったからな…」
「よくある話しだよなぁ……」
「ああ、だがあやつは迷っておった」
「なんで?」
「家族を持つのが怖かったからだ……ああ、少し違うな…」
銀河は口にした自分の言葉に首を傾げてから言い直す。
「あやつは、人――命の有るものを、また家族とすることに怯えておった」
「は?なぜ?」
「一人になってしまったからだ……」
銀河はため息をついた。
「ワシが何の用かと聞いた時、あやつはなにも無いなどと言っておったが、実はあやつ、ワシを家族に出来ないか……?と、考えておったのよ」
「へ?その時の銀河はまだ精霊で、座敷童になってたわけじゃ無いんだよな?精霊が座敷童に変化することがあるって知ってたのか?」
座敷童ならば、家に迎えたいと望む人は多いが、自然の中にいる精霊を、家族として家に引き入れようとする人間なんてあまり聞かない……というか、クロは初めて聞いたと思う。
だがクロの言葉に銀河は首を振る。
「そんなのはワシだって知らぬことだった」
生まれたばかりで、他の精霊とほとんど交流が無かった銀河は、精霊が座敷童に変化する可能性を持つなんて知りもしなかった。
「だいたい、あとでわかったことだが、あやつは座敷童自体を知らなかった……。あやつは一人で生きるのが寂しくて、ワシを家族にしたいと望み、口説く隙を狙って、毎日釣竿を持って通って来ておったのさ」
「なんだそれー。寂しいなら、とっととその近所の娘とやらと人同士で所帯持てばいいことだよな?なんなんだよ、命あるものを家族にするのが怖いって!困り顔で銀河のとこに来る暇あるなら、その娘に会いに行けばいいのに……」
当然と思えるクロの意見に、銀河は苦笑いする。
「…あやつはな、ワシが人でないから、自分より先に死ぬことは無い……。ワシを家族にしたなら、もう家族に置いて逝かれることは無い。そう考えたのよ」
「……死ななきゃいいってもんでも無いだろ。そんな理由で、人が精霊と家族になりたいなんて望んでどーすんだよ!」
安易に人が人でないものと家族になって、幸せになれるとは思えない。
生きる時間が違うというのは、基準となるものすべてが違うということだ。
「仕方あるまい。あやつは家族を一気に失った……。それまでは…その前日までは、両親や兄弟、祖父母もともに暮らす大家族だったのだそうだ。それが、ほんの数刻の間にすべて失われ、自分一人になってしまったのだぞ?」
「それは……」
大雨の日、村人総出で川の決壊を防ぐ土嚢を積んでいたが、力及ばず鉄砲水が発生し、土嚢ごと多くの村人が流されたのだという。
「ワシは知らんかったが、流される途中であやつは父親に大岩の上に押し上げられて生きながらえたが、その父親も他の家族もあやつの目の前で流されてしまったそうだ……」
銀河の語る状況を想像し、クロは二の腕の肌がぞわりとする。
「もう二度と家族を失いたくないと思うのは当然ではないか?」
「それは……」
わからなくはない……。
クロも家の者を見送るとき、いつも辛くて、こんな苦しい思いはしたくないと思ってしまう。
だから……。
一瞬気持ちを飲み込もうとしたクロだが……ハッとした。
「わからなくはないけど、やっぱり腹立つぞっ!」
精霊や座敷童は人のような寿命を持つわけではない。
そして大概の場合は、人より長くその存在を保っている。
それゆえに、気持ちを惹かれ、好意を持った相手を見送る立場になることが当然多い――。
でもそれは、いわゆる 仕方ない というヤツだ。
仕方ないってだけで、その立場に好んで立つわけではない。
大家族を一気に失い、いきなりたった一人になって、もう家族を失くす悲しみを受けたくないという気持ちはわかるが、それを理由に、精霊を家族に望むのは間違ってる――というか、卑怯だとクロは思う。
「そいつ、ちょっとズルくないか?!」
一瞬、同情から「仕方ないか…」と思いかけたクロだったが、思い直して憤慨した。
「そうだな…ズルいかもしれんな……」
「しれんじゃなくて、絶対ズルいっ!」
思わず握りこぶしで強調してしまうクロ。
そんなクロを銀河は苦笑いで見ている。
「あれ?でも、銀河はそいつのとこの座敷童になったんじゃないのか?」
「ああ…。しばらくもたもたしておったが、結局その娘と所帯を持ったのでな……」
「はっ?」
サクが所帯を持ったときに、座敷童としてついて行ったと銀河は言った。
「なんだそれ!」
「人とは身勝手で、したたかなものだからな」
思わず怒鳴ったクロに銀河はニヤリと笑った。
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