↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/39

第04話 大樹と大精霊の創世神話

――本国魔法学園指定教本『精霊史序説』第一章より抜粋。


一 大樹のこと


 はじめに、大樹があった。


 いずこより来たりしか、いつより在りしか、これを知る者はない。ただ、世界の中心に根を下ろし、天を衝いて立っていた。


 その頃、大地はことごとく岩であった。


 風は削るばかりで育てず、日は照らすばかりで潤さず、水は流れるばかりで留まらなかった。命と呼べるものは、ひとつとして無かった。


 大樹は根を伸ばし、大地の底に眠る力を吸い上げた。


 そして枝を張り、吸い上げたものを遠き地の果てまで送り出した。


二 大地の形


 力の通った跡には、変化が生じた。


 強く注がれた地は、身を起こして山となった。深く沈んだ地は、水を受けて海となった。流れが分かれたところには谷が刻まれ、流れが留まったところには湖が生じた。


 かくして、平らかであった岩の大地は、今我らが見るところの形を得た。


三 大精霊の遣わし


 されど、大樹の送る力は、あまりに強かった。


 そのままに注げば、地は割れ、水は沸き、いかなる芽も焼かれて育たなかった。


 大樹は思い至った。


 強き流れを、そのままに与えてはならぬ。土地ごとに、その地に合う形へと整えて渡さねばならぬ、と。


 そこで大樹は、己が力より幾柱かを分かち、これを各地へ遣わした。


 これを大精霊という。


 大精霊は、任された土地の力を預かった。あるいは細く長く、あるいは太く短く。乾いた地には水を巡らせ、冷えた地には温もりを通し、それぞれの土地にふさわしいやり方で、その力を整え、配った。


 ひとつとして同じやり方は無かったという。土地が同じでない以上、整え方もまた同じであろうはずがないからである。


四 命の生い立ち


 やがて、整えられた地に芽が出た。


 苔が生じ、草が生じ、木が生じた。次いで、それらを食む虫が生じ、獣が生じ、鳥が生じた。


 水には魚が満ち、空には翼あるものが満ちた。


五 精霊の生い立ち


 命が満ちるにつれ、大地は声を持つようになった。


 草の伸びる声、水の流れる声、火の爆ぜる声。それら数えきれぬ声は、長い年月のあいだに互いに響き合い、重なり合い、やがて一点に凝った。


 凝ったものは、形を得た。


 これを精霊という。


 精霊は、命でありながら肉を持たなかった。生まれ出た土地の声そのものであったからである。土に生じた者は土の声を、水に生じた者は水の声を、風に生じた者は風の声を、その身に宿した。


六 人の生い立ち


 そして最も後に、人が生じた。


 人は弱かった。爪もなく、牙もなく、翼もなく、鱗もなかった。されど人は、見たものを覚え、覚えたことを他に伝え、伝えられたものをさらに次へと渡すことを知っていた。


七 手を取り合うこと


 このとき、大地はまだ定まっていなかった。


 山は今なお隆り、海は今なお退き、流れは日ごとに道を変えていた。整えられたとはいえ、力は依然として強く、命はいつ失われてもおかしくなかった。


 精霊は、土地の声を知っていた。いずこに水の脈が走り、いずこに火の気が溜まるかを知っていた。されど、みずから土を掘ることも、水を導くこともできなかった。肉を持たぬ身であったからである。


 人は、手を持っていた。掘ることも、運ぶことも、積むこともできた。されど、土地の声を聞くことができなかった。いずこを掘れば水が出るかを知らなかった。


 一方は知って、行うことができず。


 一方は行うことができて、知らなかった。


 ゆえに、両者は手を取った。


 精霊は人に、掘るべき場所を告げた。人は精霊に、名を呼び、礼を述べた。呼ばれた声は、精霊にとっての糧となった。土地の声より生じた者にとって、声を向けられることこそが、己の在ることの証であったからである。


 かくして、命は根を下ろした。


 繁栄は、どちらか一方の力によるのではない。この一事を、我らは初めに学んだのである。


八 大精霊の退き


 命は増えた。増えて、溢れた。


 草は他の草を覆い、獣は他の獣を追い、人は他の人と争った。大精霊が力を整えようとしても、その傍から、命どもが勝手に伸び、勝手に枯れた。


 大精霊は、二つの務めを同時に果たすことができなくなった。


――我は、地の力を預かる者である。


――命どもの間を取り持つ役は、我が務めにあらず。


 そこで大精霊は、人を呼んだ。


 命の中で、ただ人のみが、見たものを覚え、覚えたことを伝える術を持っていたからである。


「地の上のことは、そなたらに任せる。数え、分かち、諍いを収めよ。我は地の底へ退き、力を巡らせることに専らとする」


 人は、これを受けた。


 そして大精霊は、地の底へと帰っていった。


九 結び


 これが、我ら人が地の上を治めるようになった始まりである。


 そして、我らが大精霊を敬うべき理由でもある。


 大精霊が退いたのは、我らを見放したからではない。我らに任せたからである。その間も、地の底では力が巡り続けている。一日として、絶えたことはない。


 また、我らの傍らには、なお精霊たちが在る。


 彼らは地の声そのものである。呼べば応え、忘れれば薄れる。その在り方は、初めよりただの一度も変わっていない。


 我らは、見えぬものに支えられて、地の上に立っている。


 この一事を忘れたとき、人は己の力のみで立っていると思い違える。


――『精霊史序説』第一章、結び。


 (欄外に、誰かの落書きらしい走り書きがある)


〈大精霊さま、明日の試験がうまくいきますように〉


〈それ、たぶん違う〉

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

明日の22時に次話を更新します。


少しでも「先が気になる」「雰囲気が好きだ」と思っていただけましたら、下部よりブックマーク登録や評価(☆☆☆☆☆)をいただけますと、執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。