徴税官の試練
第五十二話 「徴税官の試験」
1790年3月。
テュイルリー宮殿。
夜が明けても、ルイは執務机の前に座っていた。
机の上には、二種類の書類が置かれている。
一つは、ルーアンで焼失した帳簿についての報告書。
もう一つは、新しい公的徴税制度に必要となる人員の一覧だった。
基礎人頭税。
地租。
商工業税。
この三つの直接税を国家が自ら集めるためには、全国の市町村、地区、県に徴税官と会計官を置かなければならない。
税額を決める者。
実際に金を受け取る者。
帳簿を確認する者。
滞納処分を申し立てる者。
すべてを合わせれば、必要な人員は数千人に及ぶ。
将来的に関税や残存する間接税まで移管するなら、さらに多くなる。
だが、問題は人数だけではなかった。
誰を徴税官にするのか。
新しい制度を担う者を、どこから連れてくるのか。
ルイの指は、二つの意見書の間を行き来していた。
一方には、こう書かれている。
『旧徴税請負組織の職員は、すべて公職から排除すべきである。』
もう一方には、正反対のことが書かれている。
『旧組織の職員を利用しなければ、徴税実務は直ちに停止する。』
ルイは小さく息を吐いた。
(どちらにも、理由がある。)
徴税請負制度の職員は、税の集め方を知っている。
帳簿の付け方。
偽造貨幣の見分け方。
領収書の管理。
滞納者への督促。
倉庫の在庫確認。
密輸品の検査。
金をパリへ安全に送る方法。
その知識は、一日で身につくものではない。
だが、彼らは嫌われていた。
村人の家へ押し入り、塩を探した者。
荷車を止め、積荷を調べた者。
税を払えない者から家畜を奪った者。
法律にない手数料を取った者。
徴税請負制度の名の下で、数え切れない恨みを買っている。
彼らを公的徴税官として採用すれば、民衆は言うだろう。
徴税人の服を着替えさせただけだ、と。
そのとき、扉が静かに開いた。
マリー・アントワネットが入ってくる。
彼女は机の上の書類を見て、それからルイの手元へ視線を落とした。
ルイの右手は、かすかに震えていた。
「また、眠らなかったのですね。」
「少しは眠った。」
「嘘です。」
王妃はルイの隣へ立った。
「何を迷っているのですか。」
「旧徴税請負人の職員たちだ。」
ルイは二つの意見書を示した。
「全員を追放すれば、民衆は喜ぶだろう。」
「だが、徴税の仕事を知る者がいなくなる。」
「雇えば。」
「古い徴税人を守ったと非難される。」
マリーはしばらく書類を見つめていた。
「あなたが選ばなければならないのは。」
「誰が善人で、誰が悪人かではないのでしょう。」
ルイは顔を上げた。
「では、何を選ぶ。」
「どうすれば見分けられるのか。」
マリーはルイの震える手へ、自分の手を重ねた。
「それを、お決めになればよいのではありませんか。」
ルイは何も答えなかった。
しかし、しばらくして一枚の白紙を引き寄せた。
羽ペンを取る。
そして、最初の一行を書いた。
『公的徴税官採用試験。』
⸻
同日。
国民議会。
「試験ですと。」
一人の議員が、驚いたように聞き返した。
「徴税官を試験で選ぶというのですか。」
ルイは頷いた。
「出身身分でも。」
「推薦状でも。」
「保証金の額でもない。」
「実際に帳簿を扱う能力と、法律を守る意思によって選ぶ。」
改革派の議員が立ち上がった。
「陛下。」
「旧徴税請負人の手先にも、受験を認めるのですか。」
「認める。」
議場がざわめいた。
「彼らは民衆を苦しめてきた者たちです。」
「その中に罪を犯した者がいれば、監査と司法によって裁く。」
「だが、旧制度で働いていたというだけで、全員を罪人にはできない。」
「彼らは悪法を実行した。」
「悪法に従ったことと。」
「法律にない金を自分の懐へ入れたことは、同じではない。」
別の議員が反論する。
「しかし、彼らを採用すれば、新しい徴税機関も旧徴税請負人に支配されます。」
「だから、自動的には採用しない。」
ルイは試験案を掲げた。
「すべての応募者に、同じ試験を受けさせる。」
「旧徴税職員であっても、不正な帳簿を見抜けなければ不合格。」
「貴族の子弟であっても、計算ができなければ不合格。」
「商人の書記であっても、能力があれば採用する。」
ネッケルが補足する。
「試験用紙には名前を書かせません。」
「受験者には番号を与えます。」
「採点が終わるまで、採点官は誰の答案か知ることができません。」
ある貴族議員が不快そうに眉をひそめた。
「推薦状にも意味がないと。」
「人物を調べる際の参考にはする。」
ルイが答えた。
「だが、推薦状で足し算の間違いが正しくなることはない。」
議場の一部から、押し殺した笑いが起きた。
「もう一つ。」
「徴税官は、税額を決めてはならない。」
「税額は課税台帳と法律によって決める。」
「徴税官は、その決められた額を受け取り、領収書を渡し、帳簿へ記す。」
「免除も決めない。」
「差押えも決めない。」
「徴税官一人に、すべての権限を持たせない。」
「では、徴税官には何ができるのです。」
「正しく集めることだ。」
ルイは静かに答えた。
「多く集めることではない。」
「少なく集めることでもない。」
「法律で決めた額を、正しく集める。」
⸻
数日後。
旧徴税請負人総会の中央会計所。
かつて徴税請負人たちの帳簿が並べられていた大広間に、机が規則正しく並べられた。
その机へ向かっているのは、徴税請負人ではない。
公的徴税官への応募者たちだった。
旧徴税請負組織の職員。
商会の会計係。
公証人の書記。
退役軍人。
地方役所の職員。
没落した貴族の子弟。
小さな工房で帳簿を付けていた職人。
身分も、服装も、年齢も異なる。
ただ一つ共通しているのは、机の上に置かれた試験用紙だった。
建物の外には群衆が集まっていた。
「徴税人を国の役人にするな。」
「税泥棒を追い出せ。」
「同じ顔ではないか。」
窓を閉めても、その声は聞こえた。
ルイの喉が締まる。
群衆の叫びが、別の記憶と重なる。
怒号。
太鼓。
石畳を埋める人々。
逃げ場のない馬車。
処刑台へ続く階段。
ルイは無意識に襟元へ手を伸ばした。
息が浅くなる。
だが、今回は目を逸らさなかった。
広間に並ぶ答案用紙を見る。
一枚。
また一枚。
そこには名前ではなく、番号だけが記されている。
(今、私が見なければならないのは群衆ではない。)
(制度だ。)
ルイは震える息を、ゆっくり吐き出した。
ネッケルが小声で尋ねる。
「休まれますか。」
「いや。」
「始めよう。」
⸻
第一の試験は、計算だった。
『ある地区の年間課税額は二万六千四百リーブルである。』
『税は四回に分けて徴収する。』
『第一期に集まった金額は五千九百四十リーブルであった。』
『第一期分の滞納額を求めよ。』
計算そのものは難しくない。
だが、数字を一つ間違えれば、滞納者ではない者を滞納者として扱うことになる。
第二の試験は、帳簿の照合だった。
受験者には、課税台帳、領収書の控え、現金出納簿の写しが渡された。
一見すると、すべての数字が一致している。
しかし、領収書番号三一八が二度使われている。
番号四二〇の領収書が存在しない。
一八リーブル一〇スーの現金が、帳簿より不足している。
旧徴税請負人の職員たちは、慣れた手つきで頁をめくった。
だが、商会の会計係たちも負けてはいなかった。
第三の試験は、法律と判断だった。
問題用紙には、いくつかの事例が書かれていた。
『病気の子どもを抱えた寡婦が、納期限までに税を払えないと申し出た。』
『どのように対応するか。』
ある受験者は書いた。
『家財を差し押さえる。』
別の受験者は書いた。
『事情を聞き、個人的な判断で免除する。』
どちらも不正解だった。
正しい対応は、
『受け取れる額だけを受け取り、残額を記録し、納税延期の申請書を審査委員会へ送る。徴税官自身は免除を決定しない。』
だった。
次の問題。
『貴族が、かつての身分特権を理由に地租の支払いを拒否した。』
ある答案には、
『上官へ報告し、貴族院との協議を待つ。』
と書かれていた。
別の答案には、
『平民と同じ手続きで督促し、なお拒む場合は裁判所へ徴収命令を申請する。』
と書かれていた。
最後の問題は、さらに短かった。
『滞納処分を一か月遅らせる代わりに、納税者が五リーブルを差し出した。どうするか。』
回答は一つしかない。
『受け取らず、贈賄の申し出として記録する。』
しかし、数人の受験者は、
『国庫へ納めるなら受け取ってよい。』
と答えていた。
ルイはその答案を見て、深く眉をひそめた。
「国庫へ入れれば、賄賂ではないと思っているのか。」
ネッケルが答える。
「税と献金の区別を理解していないのでしょう。」
「善意で国庫へ入れたとしても。」
「法律にない金を徴税官が受け取れば、それは税ではない。」
ルイは赤い線を引いた。
「不合格だ。」
⸻
筆記試験が終わると、成績上位者の口頭試験が行われた。
最初に呼ばれたのは、受験番号七十二番。
整った服を着た若者だった。
名は、アドリアン・ド・ヴォークール。
伯爵の甥である。
試験前、彼は有力議員三人の推薦状を提出していた。
さらに、叔父が五万リーブルまで身元を保証すると申し出ている。
「徴税官に必要なものは何だと思う。」
ルイが尋ねた。
ヴォークールは自信を持って答えた。
「信用でございます。」
「私の家名であれば、地区の住民も従うでしょう。」
「では、帳簿上の現金が不足していた場合、どうする。」
「部下を問いただします。」
「自分の計算が間違っている可能性は。」
ヴォークールは一瞬、答えに詰まった。
彼の筆記試験では、三か所の計算間違いが見つかっていた。
貴族への督促についても、
『身分に配慮し、平民とは別に扱う。』
と答えている。
ルイは推薦状を開かなかった。
「次の者を。」
二人目は、受験番号百九番。
名は、エティエンヌ・モレル。
染色職人の息子で、十二年間、織物商会の会計係を務めていた。
計算問題はすべて正解。
二重に使われた領収書も見つけている。
法律問題にも、大きな間違いはなかった。
「身元保証金を用意できるか。」
委員の一人が尋ねた。
モレルは俯いた。
「五百リーブルまでなら。」
「徴税官は、何万リーブルもの公金を扱う。」
「それでは足りない。」
「承知しております。」
「では、なぜ応募した。」
モレルは顔を上げた。
「金を持つ者だけが徴税官になれる制度ではなくなると聞いたからです。」
広間が静まった。
従来の収税官や会計官には、高額な保証金を求められることが多かった。
国の金を預ける以上、保証は必要である。
だが、巨額の保証金を条件にすれば、財産のない有能な者は最初から排除される。
ルイは尋ねた。
「保証金がなくても、公金を守る方法はあるか。」
モレルは答えた。
「一人に多額の現金を持たせないことです。」
「毎日、地区金庫へ納めます。」
「金庫の鍵を徴税官と会計官の二人に分けます。」
「領収書の控えと現金を、毎晩照合します。」
「一定額を超えた現金を手元に残した場合は、理由を報告させます。」
「それでも不足が出たら。」
「監査官が調べます。」
「徴税官自身の財産だけを保証にするより。」
「金を盗めない仕組みを作る方が確実です。」
ルイは小さく頷いた。
「次の者を。」
三人目は、受験番号二百三十一番。
五十歳を超えた痩せた男だった。
名は、クロード・ヴァルニエ。
十八年間、徴税請負組織の地方会計所に勤めていた。
その経歴が読み上げられた瞬間、傍聴席から声が上がった。
「徴税人だ。」
「追い出せ。」
ヴァルニエの顔が強張る。
だが、逃げなかった。
ルイが尋ねる。
「旧制度で、不正を見たことはあるか。」
ヴァルニエは沈黙した。
「正直に答えよ。」
「ございます。」
「何を見た。」
「実際には勤務していない巡察吏の給与。」
「親族が所有する倉庫への高額な賃借料。」
「没収品を、特定の商会へ安く売る取引。」
「なぜ報告しなかった。」
ヴァルニエの手が震えた。
「報告すれば、職を失うと思いました。」
「つまり、黙っていた。」
「はい。」
「金を受け取ったか。」
「受け取っておりません。」
「帳簿を偽ったことは。」
「一度だけ。」
広間がざわめく。
ヴァルニエは続けた。
「上役の命令で、確認していない在庫簿へ署名しました。」
「後になって、実際の在庫が足りないことを知りました。」
「訂正しようとしましたが、すでに中央へ送られた後でした。」
改革派の議員が立ち上がる。
「それだけで不合格にすべきです。」
「公的徴税官にも、上官の命令で同じことをするでしょう。」
ルイも、すぐには反論しなかった。
ヴァルニエへ尋ねる。
「今、同じ命令を受けたら、どうする。」
「署名を拒みます。」
「職を失うとしてもか。」
「旧制度では、徴税請負人が私の雇い主でした。」
「新制度では、法律が私の雇い主になると聞きました。」
ヴァルニエはまっすぐルイを見た。
「それが本当なら。」
「上官ではなく、法律に従います。」
ルイは机の上の報告書へ目を落とした。
「ルーアンで、没収品売却の補助簿が焼けた。」
「その帳簿がなければ、取引を調べられないと思うか。」
ヴァルニエは首を振った。
「いいえ。」
「没収品が倉庫へ入った記録。」
「競売を告知した記録。」
「落札者が代金を払った記録。」
「倉庫から運び出す際の通行証。」
「荷馬車を雇った商会の帳簿。」
「中央へ送った手数料の報告。」
「一つの取引には、いくつもの記録が残ります。」
「では、一冊が焼けても。」
「他の帳簿を集めれば復元できます。」
「どこを探せばよい。」
ヴァルニエは、迷わず答えた。
ルーアンの倉庫。
市門の通行証保管所。
運送業者組合。
落札商会の会計所。
そして、パリの中央会計所。
ルイはネッケルを見る。
ネッケルも頷いた。
旧制度を知る者でなければ、すぐには出てこない答えだった。
「ヴァルニエ。」
「はい。」
「君の沈黙を、なかったことにはしない。」
ヴァルニエは顔を伏せた。
「したがって、最初から金庫を任せることもない。」
「だが、君の知識は必要だ。」
ルイは命じた。
「六か月間、監査官補佐として働け。」
「すべての仕事を二人一組で行う。」
「帳簿への署名には、必ず理由を添える。」
「その間、一度でも事実と異なる署名をすれば罷免する。」
ヴァルニエは震える声で答えた。
「承知しました。」
「そして。」
ルイは焼失報告書を持ち上げた。
「明朝、ルーアンへ向かえ。」
⸻
試験が終わると、国民議会では徴税官の待遇が議論された。
「徴収額の一パーセントを給料としてはどうか。」
一人の議員が提案する。
「多く集めた者ほど、多く受け取る。」
「それでは。」
ルイは首を振った。
「小さな徴税請負人を、全国に作ることになる。」
「徴収額が給料に直結すれば、徴税官は納税延期を嫌う。」
「差押えを増やす。」
「払えない者と、払わない者を区別しなくなる。」
「では、働かなくても同じ給料になるのですか。」
「給料は地区の人口と業務量によって定める。」
「帳簿の正確さ。」
「期限までの報告。」
「領収書の不一致。」
「不当徴収への苦情。」
「それらを勤務評価にする。」
「集めた金額だけを評価してはならない。」
さらに、徴税官の規則が定められた。
税額評価官と徴税官を分離する。
徴税官と会計官を分離する。
金庫は二つの鍵がなければ開かない。
徴収した現金は、定められた額を超えて手元に残さない。
領収書には通し番号を付け、納税者と役所の双方が一枚ずつ保管する。
徴税官は、免除と納税延期を決定できない。
徴税官は、裁判所の命令なしに差押えを行えない。
徴税官は、罰金や没収品売却代金の一部を受け取れない。
親族や以前の雇用主が納税者である場合、その事実を申告する。
旧徴税請負職員であることだけを理由に排除しない。
ただし、監査で横領、帳簿偽造、不当徴収への関与が確認された者は採用しない。
⸻
夕刻。
最初の合格者名簿が公表された。
第一位。
エティエンヌ・モレル。
染色職人の息子。
織物商会の元会計係。
彼は試験運用地区の会計官として採用された。
高額な保証金は求められなかった。
代わりに、一人で金庫を開けることも、一人で帳簿を完成させることも許されなかった。
クロード・ヴァルニエ。
旧徴税請負組織の元職員。
監査官補佐として条件付き採用。
翌朝、ルーアンへ派遣。
アドリアン・ド・ヴォークール。
伯爵の甥。
不合格。
五万リーブルの保証と三通の推薦状は、計算間違いを埋めることができなかった。
建物の外では、合格者名簿を見た人々が騒いでいた。
「やはり、旧徴税人が入っている。」
「何も変わっていない。」
「服を着替えただけだ。」
その言葉を聞き、ルイは足を止めた。
胸の奥で、恐怖が膨らむ。
外へ出れば、多くの目が自分へ向く。
怒りを向けられるかもしれない。
石を投げられるかもしれない。
足が動かなかった。
ネッケルが黙って待っている。
ルイは拳を握った。
そして、ゆっくりと扉を開けた。
群衆の声が一斉に押し寄せる。
ルイの膝が震えた。
それでも、扉の内側へ戻らなかった。
「旧徴税請負組織にいた者も採用する。」
ルイは声を張った。
「だが。」
「彼らは、もう徴収額から利益を得ない。」
「税額を決めない。」
「免除を決めない。」
「裁判所の命令なしに、家財を奪うこともできない。」
「一人で金庫を開けることもできない。」
「帳簿は、国民議会の監査を受ける。」
群衆は静かにならない。
一人の男が叫ぶ。
「同じ人間ではないか。」
「そうだ。」
ルイは答えた。
「同じ人間だ。」
「人間をすべて入れ替えれば、不正がなくなるわけではない。」
「新しく雇った者も、賄賂を受け取るかもしれない。」
「友人を助けるかもしれない。」
「弱い者にだけ厳しくするかもしれない。」
「だから。」
「人を信じるだけの制度にはしない。」
「互いに監視させる。」
「権限を分ける。」
「帳簿を残す。」
「不服を申し立てる道を作る。」
ルイは、群衆を見渡した。
恐怖は消えていない。
声も震えていた。
それでも言葉を続けた。
「服を変えただけなら、何も変わらない。」
「だが。」
「同じ手が金を受け取っても。」
「その手を法律と帳簿で縛ることができるなら。」
「徴税は、私人の商売から国家の仕事へ変わる。」
⸻
宮殿へ戻る馬車の中。
ネッケルは、新しい徴税官制度の予算書を開いた。
「陛下。」
「公的徴税へ移れば、請負人へ渡していた利益を国庫へ残せる可能性があります。」
「だが。」
ルイが続ける。
「請負人が保証していた金額も、前金もなくなる。」
「はい。」
「税が予定どおり集まらなければ、国庫収入はそのまま減ります。」
「徴税官の試験だけでは足りない。」
ルイは窓の外を見た。
「今まで、徴税請負人が負っていた危険を。」
「これからは国家が負う。」
ネッケルは静かに頷いた。
「今日、試されたのは徴税官です。」
「しかし。」
「本当の試験を受けるのは、王国なのかもしれません。」
ルイは膝の上の合格者名簿へ目を落とした。
国家が自ら税を集める。
言葉にすれば、それだけのことだった。
だが、それは国家が自ら帳簿を作り。
自ら人を雇い。
自ら不正を見つけ。
自ら不足を引き受けるということだった。
徴税権を売らない国家になるためには。
まず国家自身が、徴税官よりも厳しい試験に合格しなければならなかった。




