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凡人がなるルイ16世  作者: 山口祐輝


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第三十話 バスティーユ襲撃事件 サン=クルー事件

一七八九年七月。

ヴェルサイユ宮殿。

ルイ十六世は、窓の外を見つめていた。

庭園は静かだった。

噴水から水が流れ、庭師たちはいつもと変わらず仕事をしている。

しかし、その静けさをルイは信じることができなかった。

目を閉じれば、別の光景が見える。

処刑台。

群衆。

太鼓。

自分の身体を固定する板。

そして、頭上へ持ち上げられる巨大な刃。

一度目の人生で、自分は革命に殺された。

だが、それだけではない。

死んだ。

時間が戻った。

今度こそ間違えないと決めた。

それなのに、また死んだ。

二度目はギロチンですらなかった。

パリへ向かい、民衆と直接話せば理解してもらえると思った。

武器を持たず。

兵士も連れず。

国王自ら姿を現せば、自分が彼らの敵ではないと分かってもらえる。

そう信じた。

結果は。

群衆だった。

叫び声。

押し寄せる身体。

転倒。

石畳。

そして、自分の胸へ何度も落ちてくる靴。

息ができなかった。

助けを求めても、誰にも聞こえなかった。

人間の足が身体を踏み潰していく感覚を、ルイは今でも覚えていた。

だから今度は、逆を選んだ。

民衆へ近づかない。

軍隊を使う。

革命が自分を殺すのであれば、その革命が大きくなる前に潰す。

それが、この人生でルイが辿り着いた答えだった。

机の上には、パリとヴェルサイユ周辺に集結させる部隊の一覧が置かれていた。

スイス人部隊。

ドイツ人部隊。

騎兵。

歩兵。

砲兵。

ルイは、その数字を何度も確認していた。

兵士がいれば守られる。

宮殿を囲めば群衆は入れない。

街道を押さえれば、パリから暴徒が押し寄せることもない。

必要なら議会も解散できる。

バスティーユにも兵を置ける。

革命を起こそうとする者がいれば捕らえればいい。

前回のように、何もせず殺される必要はない。

「革命が起きてからでは遅い。」

ルイは呟いた。

側近が顔を上げる。

「陛下。」

「一度火がつけば止められない。」

ルイは机の上の地図を指でなぞった。

「パリから始まる。」

「そしてヴェルサイユへ来る。」

「最初はパンを求める。」

「次は武器を求める。」

「その次には王を求める。」

誰も、その言葉の意味を完全には理解できなかった。

ルイだけが知っていた。

革命は、一日で国王を殺すわけではない。

小さな譲歩。

小さな混乱。

小さな暴動。

その一つ一つが積み重なり、最後には処刑台へ辿り着く。

ならば最初の一歩を踏ませなければいい。

「今度は止める。」

ルイは言った。

「革命になる前に止める。」

その決意は、恐怖から生まれていた。

そして恐怖は、ルイに一つの結論を与えた。

ネッケルを罷免する。

民衆から絶大な人気を得ている財務総監。

国民議会にも同情的と見なされている人物。

前回の人生では、その罷免が革命を加速させたことをルイは知っていた。

それでも今回は、違う意味に見えた。

ネッケルを残せば、民衆はますます彼を旗印にする。

国王よりも大臣の言葉を信じるようになる。

議会も勢いづく。

革命の象徴となる前に切り離さなければならない。

「ネッケルを罷免する。」

側近たちが一瞬黙った。

「陛下。」

「今、この時期にでございますか。」

「だからだ。」

ルイは答えた。

「これ以上力を持たせてはならない。」

反対意見もあった。

ネッケルの罷免がパリを刺激する。

市場が混乱する。

議会が反発する。

だが、ルイには別の未来が見えていた。

処刑台。

それだけだった。

「革命を恐れて何もしなかった結果、余は死んだ。」

誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。

「ならば今回は、先に動く。」

自分を殺す未来がある。

ならばその未来を殺せばいい。

それが、この時のルイの考えだった。

一七八九年七月十一日。

ネッケルは罷免された。

翌十二日。

その知らせがパリへ伝わった。

同時に、国王の命令で集められた軍隊が、パリとヴェルサイユの周辺へ姿を現した。

スイス人部隊。

ドイツ人部隊。

騎兵。

歩兵。

砲兵。

ルイにとって、彼らは革命から自分を守る盾だった。

しかし、パリの民衆にとっては違った。

自分たちへ向けられた剣だった。

「ネッケルを追放した。」

「外国人部隊を集めている。」

「国民議会を解散させるつもりだ。」

「国王は革命を潰すつもりだ。」

「今夜にもパリが攻撃される。」

噂は軍隊よりも速く街路を駆け巡った。

ルイが最も恐れていた言葉。

革命。

その革命を潰そうとして集めた兵士たちが、逆に人々へ革命の必要性を確信させた。

パリでは鐘が鳴った。

人々が集まり始めた。

武器を求める声が上がった。

ルイはヴェルサイユで報告を受けた。

「パリ市内で騒擾が拡大しております。」

「武器庫を狙う動きもございます。」

「なぜだ。」

ルイは理解できなかった。

「軍を置いたのだぞ。」

「だからこそでございます。」

側近が答える。

「民衆は、陛下が軍を使って議会とパリを鎮圧すると考えております。」

ルイは言葉を失った。

守るための軍隊だった。

革命を防ぐための軍隊だった。

だが、人々はその軍隊から身を守るために武器を取ろうとしている。

「違う。」

ルイは呟いた。

「余は殺されたくないだけだ。」

しかし、その言葉はパリまで届かなかった。

七月十四日。

群衆はアンヴァリッドから小銃を奪い、火薬を求めてバスティーユへ向かった。

ルイが配置した兵士たちは、民衆へ発砲することをためらった。

一部のフランス人兵士は命令を拒み、民衆へ合流した。

外国人部隊も、数万の群衆を前にして積極的に動くことができなかった。

ルイは苛立った。

「なぜ撃たない。」

口にした直後、自分自身が震えた。

撃て。

そう命じればいい。

軍隊を集めたのは、そのためではなかったのか。

革命を潰すと決めた。

ならば今こそ命令すべきだった。

砲撃させる。

騎兵を突入させる。

群衆を散らす。

首謀者を捕らえる。

そうすれば終わる。

だが、その後に何が起きる。

子供。

女。

老人。

銃弾に倒れる人々。

踏み潰される人間。

血に濡れる石畳。

そしてルイの頭には、二度目の死が蘇った。

自分が群衆に踏み潰された時の感触。

暴徒であろうと、人間だった。

その人間を今度は自分が殺す。

「……待て。」

ルイは命令書から手を離した。

「まだ撃つな。」

革命を潰したい。

だが虐殺者にはなりたくない。

殺されたくない。

だが殺したくもない。

その迷いの間に、時間だけが過ぎていった。

バスティーユは陥落した。

司令官ド・ローネーは殺され、その首が槍の先へ掲げられた。

報告を聞いた瞬間、ルイは無意識に自分の首へ手を触れた。

首。

槍。

群衆。

それが、ギロチンの記憶と重なった。

革命を潰そうとした。

だが潰せなかった。

兵士を呼ばなかった前回は、群衆に踏み殺された。

兵士を呼んだ今回は、その兵士たちの存在が暴動を激化させた。

そして、いざ兵士を使うべき瞬間になると、自分には民衆を撃たせる覚悟がなかった。

「では。」

ルイは掠れた声で言った。

「私は、どうすればよかったのだ。」

誰も答えられなかった。

ルイは軍隊を後退させた。

ネッケルを呼び戻す命令も出した。

数日前まで革命を潰すため排除しようとしていた男を、今度は革命を鎮めるため呼び戻す。

皮肉だった。

だが、すでに遅かった。

バスティーユは崩れた。

パリには国王の軍隊とは別の武装組織が生まれた。

ラファイエットが国民衛兵司令官となり、バイイがパリ市長となった。

ルイが革命を潰そうとした数日間で、革命はむしろ国家の中へ根を張り始めていた。

七月十七日。

ルイはパリへ入った。

前回の死が蘇り、馬車から降りるだけで足が震えた。

石畳。

押し寄せる群衆。

鳴り響く鐘。

全てが、前回死んだ日の光景と重なった。

だが、今度は国民衛兵が通路を作っていた。

ルイは三色の帽章を受け取り、震える手で帽子へつけた。

「国王万歳。」

歓声は上がった。

しかし、その声を聞いても安心できなかった。

数日前まで、自分はこの人々を軍隊で押さえつけようとしていた。

そして彼らも、自分がそうしようとしていると感じたから武器を取った。

今日の歓声も、本物なのか分からない。

今日の「国王万歳」が、明日には「国王を殺せ」に変わるのではないか。

ルイは笑顔を作ることさえできなかった。

八月。

地方では大恐怖が広がった。

盗賊が収穫物を焼きに来る。

領主が農民を殺すために武装集団を雇っている。

外国軍が革命を潰すために侵入してくる。

そのような噂がフランス各地を駆け巡った。

農民たちは城館を襲い、封建的負担を記した証書を焼いた。

八月四日夜、憲法制定国民議会は、身分的特権と封建的諸権利の廃止を宣言した。

八月二十六日には、「人間と市民の権利の宣言」が採択された。

主権の根源は国民にある。

人は自由かつ権利において平等に生まれる。

法律は一般意思の表明である。

絶対王政を支えてきた原則が、一つずつ覆されていった。

ルイは法令を前にして迷った。

拒否すれば、反革命の王と見なされる。

認めれば、自らの権限を失う。

七月には革命を力で潰そうとした。

失敗した。

ならば譲歩すればよいのか。

それも分からなかった。

一度殺された未来を知っている。

それなのに、正解だけは何一つ分からない。

そしてルイが迷っている間にも、政治は先へ進んだ。

十月五日。

パンを求める女たちを中心とした群衆が、パリからヴェルサイユへ向かった。

雨の中を歩く数千人の声が、宮殿へ近づいてきた。

「パンを。」

「国王をパリへ。」

「粉屋と、その妻と、その息子を連れて帰る。」

宮殿の窓から群衆を見た瞬間、ルイは後ずさった。

あれを放置すれば殺される。

七月の考えが、一瞬だけ蘇った。

「兵を。」

ルイは叫んだ。

「門を閉じろ。」

「誰も入れるな。」

近衛兵が配置された。

門が閉じられた。

だが、今度もルイは命じ切れなかった。

群衆を撃て。

その一言が出てこない。

翌六日の早朝、群衆の一部が宮殿内へ侵入した。

王妃の部屋へ通じる廊下で近衛兵が殺された。

マリー・アントワネットは間一髪で逃げ出し、国王の部屋へ駆け込んだ。

宮殿の外では、殺された近衛兵の首が槍に掲げられていた。

ルイは窓からそれを見た。

そして一瞬、その首が自分の顔へ変わった。

「パリへ。」

群衆が叫んだ。

「国王一家をパリへ連れていけ。」

ルイに拒否する力は残っていなかった。

王家の馬車は群衆に囲まれながらヴェルサイユを離れた。

荷車には小麦が積まれ、人々はパンを掲げていた。

その先では、槍に刺された二つの首が揺れていた。

ルイは馬車の奥で身体を縮めた。

また囲まれている。

また逃げられない。

もし馬車が止まれば、扉を開けられる。

引きずり出される。

地面へ倒される。

踏みつけられる。

ルイは両腕で胸を守った。

マリー・アントワネットが、その震える手へ自分の手を重ねた。

「大丈夫です。」

王妃は囁いた。

しかしルイは、何度も首を横へ振った。

「違う。」

「私は、これで死んだ。」

「何をおっしゃっているのです。」

「群衆に囲まれた。」

「馬車から降りた。」

「押し倒されて、踏まれた。」

「もう二度と、あの中へは入らない。」

王妃には、その言葉の意味が分からなかった。

ただ、夫が群衆へ異常なほどの恐怖を抱いていることだけは分かった。

王家はパリへ連れ戻された。

テュイルリー宮殿。

そこは王宮でありながら、ルイにとっては牢獄だった。

一七九〇年。

革命は制度へ姿を変えながら進んだ。

地方行政は再編された。

教会財産は国有化された。

アッシニャが発行された。

貴族の称号と身分的特権が否定された。

かつてルイは革命を軍隊で潰せると思った。

しかし、もう革命は街路の群衆だけではなかった。

法律になっていた。

行政制度になっていた。

地方へ広がっていた。

兵士を何万人集めても、法令一つ一つを銃で消すことはできない。

七月十四日の連盟祭では、ルイも憲法への忠誠を誓った。

広大なシャン・ド・マルスへ、多くの民衆が集まった。

ラファイエットが宣誓し、国民議会の議員たちが続き、最後に国王が姿を現した。

「余は、国家と法律を維持するため、国民が定め、国王が承認した憲法を守ることを誓う。」

歓声が上がった。

十万人を超える人々の声が空を揺らした。

だが、ルイは歓声を喜べなかった。

それほど多くの人間が、一斉に自分へ向かって走り出す光景を想像してしまったからだった。

かつて革命を潰そうとした。

今は革命が作った憲法へ忠誠を誓っている。

何が正しいのか。

もう分からなかった。

一七九〇年七月、国民議会は聖職者民事基本法を可決した。

司教や司祭を選挙によって選び、聖職者へ憲法への宣誓を求める制度だった。

ルイには、なぜ憲法への宣誓がそれほど大きな問題になるのか、最初は十分に理解できなかった。

だが、信仰に忠実であろうとする聖職者たちにとって、それは単なる行政上の宣誓ではなかった。

受け入れれば信仰への裏切りと考える者がいる。

拒めば革命の敵と見なされる。

ルイは苦しみながら法令を承認した。

夜になると眠れなかった。

宮殿の廊下から足音が聞こえるたび、群衆が押し入ってきたのではないかと思った。

窓の外から叫び声が上がるたび、扉の鍵を確認した。

食事中も、突然鐘が鳴れば手から食器を落とした。

衛兵がいる。

国民衛兵もいる。

それでも安心できなかった。

ヴェルサイユにも兵士はいた。

七月にはもっと多くの兵士を集めた。

それでも革命は止まらなかった。

兵士は、自分を完全には守れない。

その現実を、ルイは嫌というほど知ってしまった。

一七九一年四月十八日。

復活祭を前に、ルイは家族と共にサン=クルーへ向かおうとした。

宣誓を拒んだ司祭から聖餐を受けるためだった。

王家の馬車がテュイルリー宮殿の門へ進む。

だが、そこには群衆が集まっていた。

「国王を行かせるな。」

「逃亡するつもりだ。」

「反革命の司祭に会わせるな。」

馬車の前へ人々が立ち塞がった。

ラファイエットと国民衛兵が道を開けようとした。

しかし、一部の国民衛兵まで群衆へ同調し、国王の出発を認めなかった。

馬車が止まった。

その瞬間、ルイの身体が凍りついた。

止まった。

前回と同じだ。

人々が馬車の周囲へ集まる。

窓を叩く。

扉へ手を掛ける。

車体が押され、わずかに揺れた。

ルイの呼吸が速くなった。

胸が締めつけられる。

目の前の群衆が、かつて自分を踏み殺した人々へ変わった。

「動かせ。」

ルイは御者へ命じた。

「馬車を動かせ。」

しかし馬の前には人がいる。

無理に進めば、人を踏み殺す。

御者は動けなかった。

「どけ。」

ルイは窓の向こうへ叫んだ。

「余を行かせろ。」

群衆は退かなかった。

ラファイエットが説得する。

国民衛兵の将校が命令する。

それでも道は開かない。

ルイは馬車の中から、自分を守るはずの国民衛兵まで出発を拒んでいる姿を見ていた。

国王の命令が通らない。

国王が行きたい場所へ行けない。

七月、革命を潰そうとして失敗した。

十月、群衆に宮殿へ侵入された。

そして今、自分は宮殿から出ることすらできない。

二時間近い膠着の末、ルイは出発を諦めた。

馬車は宮殿へ戻された。

群衆は国王を殺さなかった。

石を投げたわけでもない。

馬車を襲って王家を引きずり出したわけでもない。

ただ、国王がパリを離れることを拒んだだけだった。

だが、ルイにとっては十分だった。

自分は王ではない。

囚人だ。

七月には、自分が革命を閉じ込めようとした。

今度は革命が、自分を閉じ込めている。

殺そうと思えば殺せた。

今日は殺さなかった。

それだけだ。

明日も殺さない保証はない。

今日、馬車を止めた。

次は扉を開けるかもしれない。

その次は腕を掴むかもしれない。

そして地面へ引きずり出す。

石畳へ倒す。

人が集まる。

足が降ってくる。

部屋へ戻ったルイは、扉が閉まるより先に言った。

「逃げる。」

マリー・アントワネットが振り返った。

「何ですって。」

「パリから逃げる。」

「今すぐだ。」

その声に迷いはなかった。

革命を潰そうとして失敗した。

革命と共存しようとしても、安心できなかった。

ならば残された道は一つしかない。

革命から逃げる。

前世では、ヴァレンヌ逃亡へ踏み切るまで長く迷った。

革命と共に進むべきか。

パリを離れるべきか。

外国の力を借りるべきか。

国民へ誓った言葉を破ってよいのか。

だが今回は違った。

ルイを動かしているのは政治的な計算ではなかった。

生きたい。

ただ、それだけだった。

「今夜にも、彼らが部屋へ入ってくる。」

「あなた。」

「私たちを殺すつもりなら、今日すでに殺せたはずです。」

「今日は殺さなかっただけだ。」

ルイは激しく首を横へ振った。

「次も殺さない保証はない。」

「余は一度、群衆に踏み殺された。」

「革命を潰そうとしても駄目だった。」

「ここに残っても駄目だ。」

「ならば逃げるしかない。」

マリー・アントワネットは夫の目を見た。

その目にあるのは怒りではなかった。

王権を奪われた屈辱でもなかった。

純粋な恐怖だった。

「今夜は無理です。」

王妃はゆっくりと言った。

「子供たちがいます。」

「街道の馬も、協力者も、旅行証明書も必要です。」

「では、すぐに準備しろ。」

「一日でも早く。」

「どこへ向かうのです。」

「モンメディ。」

ルイは即答した。

「ブイエ将軍の軍がいる。」

「忠実な兵士の中へ入れば、民衆は余へ近づけない。」

皮肉な答えだった。

七月。

兵士がいれば革命を潰せると思った。

失敗した。

それでも最後に頼ろうとしているのは、やはり兵士だった。

目的は外国への亡命ではなかった。

少なくともルイ自身は、そう考えていた。

東部国境に近い要塞都市モンメディへ移り、ブイエ将軍の忠実な部隊に守られながら国民議会と交渉し直す。

パリの群衆から離れれば、自由な意思で政治を行える。

何より。

夜中に足音が聞こえるたび、死を覚悟しなくて済む。

「逃げる。」

ルイはもう一度言った。

「決めた。」

最初、ルイは革命を潰そうとした。

それが失敗すると、革命と共存しようとした。

それにも耐えられなくなった。

そして最後には、革命から逃げることを選んだ。

決断は一瞬だった。

しかし、その実行には二か月を要することになる。

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