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超常専門(超不本意)探偵アクトヒメ  作者: 血湧湧
八百墓村殺人事件
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八百墓村殺人事件2

 3月10日(火)7:30 遺産相続確定まであと52時間30分


 早朝、3人は出発する。電車、バスを乗り継いで6時間の長旅である。


「何読んでるんだ?」


「『転生したら全く同じ人間だった件』じゃ」


 最近のヒメは異世界転生物のライトノベルにハマっていて、こういった移動中はスマホで読んでいる。


「面白いのか?」


「ふむ。やっぱり主人公最強系はめっちゃ感情移入できて面白いな」


「感情移入してもらえると思っては書かれてねーと思うけどな」


「でもこの異世界に行った人間が序盤に取り組む風呂づくりについては共感できん。クリーンの魔法使えるのに、そんなに風呂入りたいかのう。日本人だからとかみんな言うが、日本人ってそんなに風呂好きか?」


「どうだろうな。でもまあ風呂入らなくても体が綺麗になる魔法があるなら、そっちの方が楽でいいな」


「そうじゃろう?そもそも風呂なんて家事じゃ。洗濯しかり、皿洗いしかり、洗うという行為は家事なのじゃ。つまり省けるならそれに越したことはない」


「あのー、私はお風呂好きですけど」


 ミサキが恐る恐る手をあげた。


「ちっ!」


「え!?舌打ちだけされた!?」


 ここで会話は終わった。その後、ヒメは読書、ナキは睡眠、ミサキは飲食。そんな感じで6時間。


 ちなみに八百墓村は距離的にはそこまで遠くない。大体170kmといったところ。なんならギリギリ関東に位置してもいる。だが交通機関が圧倒的にないのだ。車だったら3時間ぐらいで行けたかもしれないが、誰も車を持ってないし、免許も持っていない。運転したことのある乗り物なんてマリオカートくらいだ。


 そんなわけで6時間。やっとの思いで3人は八百墓村に到着した。


「着きましたね。ここが八百墓村」


「てかミサキ。お前駅弁何個食べてた?」


「12個ですけど、何か?」


「・・・。いや、まあ別にいいんだけど」


 ミサキは食いしん坊だった。いつもは大量のパンの耳をリュックに入れて食べているミサキだったが、今回は結構な額の旅費が実の母親から送られてきていたし、9億チョイの半分が入る予定もあるので、夢だった駅弁のドカ食いをこっそりやっていたのだ。


「そんなことよりこの村やばいぞ」


 だがヒメが言う通り、そんなことより八百墓村がやばかった。


「確かにめっちゃキモいですね」


 そう、ミサキの言う通りキモかった。


「別どうでもいいけど、単純に歩きずれーよ」


 そしてナキの言う通り歩きづらかった。というのもこの村、やばくてキモくて歩きづらいぐらい、あちらこちらに大小様々な墓が建っているのだ。


「こんな寒村にどうしてこんな数の墓があるのじゃ?人口とのバランスがおかしいじゃろ」


「いや、問題は数じゃねぇ。なんで普通の道にまで建ってるのかってことだ。見てみろ、あそこのガキどもなんて墓石で馬跳びしてるぞ。罰当たりにも程があるだろ」


「墓との距離感が近い村なんですかね」


「その言い方だと死にそうな奴らの村ってことになるぞ」


「まあいい。こういう意味のわからんものは考えずに放っておくのが吉じゃ。馬跳びしながら待ち合わせ場所まで行くのじゃ」


 郷に入っては郷に従えということなのだろうか、ヒメは墓石を馬跳びしながら進み出した。ナキとミサキは何も言わない。ただその後ろ姿を見ながら、普通に墓石を避けながら歩いていく。墓石を馬跳びするようなことはしない。


 バス停から歩くこと1分、バス停のめっちゃくちゃ近くにあった待ち合わせ場所、喫茶店「グレイブ」。   


 客は一組だけ。コーヒーを飲んでいる女性とビールをぐびぐび飲んでいる少年だ。二人は並んで座っている。少年の方はわからないが、女性の方はおそらくミサキの母だろう。顔がよく似ている。


「すぅーはぁー」


 大きく深呼吸をしてから、ミサキは口をひらく。


「あ、あなたが井上チカゲさんですか?」


 女は、少し驚いたような目でミサキを見た後、ゆっくりと答えた。


「そうよ。あんたがミサキね」


 ミサキは首を痛めそうなぐらいに大きく上下に振ってうなづく。


「確かに似とるな。ミサキがやさぐれた人生をこれから20年ほど送ったらこんな感じになりそうじゃ」


「思ったより若いな。20歳前後でミサキを産んだってことか。さすが田舎。子供を作るのが早いぜ」


 失礼な二人が失礼な感想を言い合う。


「この失礼な感じの二人は誰?」


 ミサキは前の事件でヒメとナキに世話になったこと。二人は特別な力を持った探偵で、今回の事件もなんとかしてくれるはずだということを伝えた。


「もちろん私だけじゃなく、チカゲさんや他の皆さんも守ってもらえるようにお願いしてます」


 ミサキの話を聞いたチカゲは少しの間、黙って考え込む。だがチカゲの返答を待たずにヒメが先に口を開く。


「こっちの自己紹介は済んだ。で、そっちのガキは誰なんじゃ?」


 そう言ってビールを止まることなく飲み干し続けている少年を指差した。


「あなた達と似たようなものよ。この子は、私が雇った用心棒ってところね」


 チカゲはサラッと答えたが、ヒメは少年を睨みつけるのをやめない。


「妖怪じゃろ、お主」


 少年はビールを飲むのを一瞬やめてヒメを見るが、すぐにまたビールを飲み出した。


「そっちも似たようなもんなんだからいいでしょ。この子の名前はドウジ。仲良くやって」


 少年は何も言わず、チカゲが答えた。


 ヒメとチカゲが睨み合う。


「オッケー」


 そしてヒメは親指を立ててにこやかに笑った。めちゃめちゃ軽かった。


 一応妖怪だと分かったから、雰囲気を出して言ってみただけで、特に深い意味はなかったのだ。別に妖怪なんてどこにでもいるし。


「俺はチカゲと契約している。酒を飲ませてくれている間は約束を守る」


 ずっと無言で通すのかと思っていたら、ドウジはいきなり喋った。そしてその声はダンディで渋かった。


「キモいな」


「キモいのう」


 少年の姿から出る渋い声はかなりキモかった。


「とにかく俺は飲酒と約束のために動く。だから構うな」


 それだけ言って再びドウジは酒を飲み出す。


「それであんたたちはこれから遺産相続が行われるまでの間、どうやって過ごすつもりなの?」


 痺れを切らしたチカゲが話を進める。


「そうじゃな。それを決めるためにも、とりあえずお主には今回の遺産相続争いについて、そしてこのよくわからん村について知ってることを教えてもらいたいのじゃが」


 ここからが今回の概要、基本ルール、現状だ。これがわかっていないと事件も推理もない。取説みたいなものだと考えていいだろう。


「そうね。まずこの遺産争いだけど、遺産が分配されるのは死児間リンドウの命日からちょうど2ヶ月後の3月12日12:00。この時点で生きている相続権利者で等分よ。でも3月12日12:00に、この村にある死児間本家に来ていないと相続はできないわ」


「なるほどのう。ちなみになんでこの村にはこんなに墓が多いのじゃ?普通に気になる」


「この村の人たちってすぐに墓を建てるのよ。人が死んだ時はもちろん、ペットが死んだ時、大事なものが壊れた時、恋人と別れた時、夢を諦めた時、調子のいい時は法事とかで追い墓石まで建てるわ。だから個人の土地じゃなければ好き勝手に建てて良いことになってるのよ。といってもそれは村の決まりであって日本の法律的にはどうなのかはわからないけど」


「だから八百墓村なのか。八百はたくさんという意味じゃからのう。すいませーん!白玉あんみつダブルで!」


気になっていたことがわかってスッキリしたヒメは甘いものが欲しくなった。


「だからって無計画に墓を立てまくってたら、そのうち村が墓に埋もれちまうんじゃねーの?俺は油そばダブルで」


 喫茶店「グレイブ」はメニューの幅が広い。


「その辺は大丈夫よ。年に一度のお祭り『墓粉祭ぼふんさい』で今ある墓石を片っ端から全部粉砕するから。コーヒーおかわり」


「ビールおかわり」


「墓石を粉砕って罰当たりすぎませんか?たらこパスタ、明太子パスタ、ただのパスタ、チャーハン、ピラフ、白米、ピザ、ナン、食パンお願いします」


 ミサキは炭水化物が三度の飯より好きだった。そして喫茶店「グレイブ」のメニューはやはり幅が広かった。


「で、今この村には遺産相続者が何人集まってるんだ?」


 油そばを食べながらナキが聞く。


「全員集まってるわ。ミサキ、あんたで最後よ」


「死人が出てるのに帰った人はいないんですか?ここにいたら自分もって怖くなりそうですけど」


 いろんなものをごちゃごちゃ食べながらミサキが疑問を口にする。色々口にしながら口にする。


「ある程度の額を越えれば金のために命をかける奴もいる。それにこういう連続殺人事件の時って、なぜかみんな自分だけは殺されないと思いがちなんだよ。殺された人間と自分との都合のいい違いを発見した気になって根拠のない安心を得るんだ」


 なぜかナキが偉そうに答えた。


「そんなもんですか?」


「俺が読んできた推理マンガでは大体そんな感じだったな」


 ナキが参考にしている推理マンガとは、コナンと金田一のことである。なので偏っているわけだが、もしナキに君の読んでいる推理マンガは偏っていると言ったならば、悪びれもせずにナキはこう言うだろう。『この世に他の推理マンガなんてありましたっけ?』と。


「今のところ死んだ人はみんな事故死ってことになってるけどね」


 コーヒーに砂糖をガンガン入れながら、チカゲが呟く。


「その死んだ連中について、時間とか場所はわかるかのう?」


 ヒメがあんみつを食べていたスプーンをチカゲに向ける。


「そうね」


 チカゲはカバンから手帳を取り出す。


「えーっと、まず一人目と二人目は一緒に死んだわ。名前は木下ヤヨイと木下コウイチ。ヤヨイは現地妻でコウイチは息子ね。死んだのは2月21日の午後9時36分、八百墓村に来てすぐに、八百墓川で水難事故死。三人目は飯岡ユウタ。妾の息子で、赤信号で車道に飛び出して轢死。これは2月25日の午前10時ごろで、八百墓村に来て2日後だったわ。翌日の2月26日、母親も死児間家のベランダから誤って転落死。さらに翌日、次男のユウジも2人の葬儀が行われている時に、村の葬儀場4階から誤って転落死したわ。六人目と七人目は3月2日に八百墓岳へ入って行方不明になった妾の田村ユカリとその娘のチエ。2日後に遺体で発見されたわ」


 手帳に書かれていた内容を全部読み切ると、チカゲは砂糖まみれのコーヒーを一気に飲み干した。


「長々と説明ありがとうなのじゃ!」


「いや、まだ終わってないわ」


「ん?」


 ヒメが首を傾げる。


「2時間前、妾の白川ユキとその子供、ナオキ、ユズハ、イオリ、カエデの5人が、泊まっていた死児間本家の部屋で死んでいるのが発見されたのよ。この辺は静かだけど、本家の周りは今も大騒ぎ。あんたらも今日から泊まるんでしょ?覚悟しといたほうがいいわよ」


「死因は?」


 ヒメが身を乗り出す。


「さあ。お手伝いさんが掃除しに部屋へ入ったらみんな血を吐いて倒れてたんだって。コーヒーもう一杯ちょうだい」


「ビールおかわり」


 チカゲが頼んだコーヒーとドウジのビールが届くまでの間、ヒメは腕を組んでしばらく考え込んでいた。そして急に立ち上がる。


「ここで考えていても仕方ない!本家に行って話を聞くのじゃ!」


 ついでに拳も突き上げた。


「え、もう行くの?コーヒー頼んじゃったわよ」


 チカゲがコーヒー、ドウジがビールを飲み干すのを待って、一同は死児間本家へと向かうのだった。


読んでくださってありがとうございます。


引き続きよろしくお願いします。

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