八百墓村殺人事件1
「そういえば今日って依頼人が来るんじゃなかったっけ?何時に来るんだ?」
ナキは思い出したように壁の時計を見る。時計の針は11時12分を指していた。
「おお、そうじゃった。11時に来ると言っていたが、遅いのう」
ヒメもスマホで時間を確認する。
「あ、あのう。もう来てます」
「「何!?」」
二人が焦って、声がした方へ振り向くと、そこには地べたにちょこんと正座した女の子がいた。
「全く気配がなかった。もしかして妖怪の類か!?」
「いや、宇宙人の可能性もあるぜ」
二人は臨戦体制を整える。
「いや、違います。人間です。というか以前もお会いしてるんですけど」
おどおどしている女の子の顔をよーく見ると確かにどこかで見たような気がしたが、本当に気がする程度のもので、どこの誰だかは、全くもって、候補さえもあがらないほどに壊滅的なものであった。
そんな絶望的な状況で、満をじして、やっとこさ、ついにヒメが思い出す。
「『なまはげ伝説殺人事件』で、最初に犯人に疑われたが結局違ったやつじゃ!」
「そうです!それです!」
気の弱そうな女は思い出してくれたヒメに泣きながら縋りついた。
そう、彼女の名前は生氷ミサキ(いきごおりみさき)、大学2年生の20歳だ。
2ヶ月前、家族旅行で秋田県を訪れていたところ、『なまはげ伝説殺人事件』に巻き込まれ、両親を殺害された女性である。
「えーっと、その節はお気の毒に」
悲劇に見舞われた女性のことをすっかり忘れていたことに、バツが悪くなったナキは当たり障りのないことを言うしかなかった。
「忘れておったのはマジめんごめんご!ところで今日はどうしたのじゃ?2ヶ月前にあんな悲惨な事件にあったのに、もしかしてまた別の事件に巻き込まれておるのか?だとした運が悪いとか言うレベルじゃないぞ!お祓いどころじゃなく、改造でもしてもらわんとやばいのう!ワハハ!」
ヒメは悪びれることなく、デリカシーのない言葉をつらつら並べ、最後には笑って見せた。さすがエスペシア星人。人間業ではない。
「やっぱり改造手術を受けなくてはいけないのでしょうか」
がっくりと落ち込んでいるミサキは、いまにでも改造手術を行なっている病院をネット検索しそうな勢いだ。
「マジで事件に巻き込まれておるのか」
さすがのヒメも本当にこの短期間で別の事件に巻き込まれているとは思っていなかったようだ。
「まだ事件かはわからないんですが、事件のようなものに巻き込まれそうな、そんな感じがしてるんです。で、私のこういう勘ってすごく当たるんですよ。前回のなまはげ伝説殺人事件の時もすごく嫌な予感がして、旅行先は沖縄にしようって言い張ったんですが、予算的に無理と言われて、渋々行ったらあんなことになったんです」
「両親殺されたもんな、お主。で、今回はどんなことが起こっておるのじゃ?」
「前回の事件で両親を殺されて天涯孤独の身となったと思っていた私なんですが、実は私って養子だったみたいで、先日本当の母親だという女性から連絡が来たんです」
ミサキの人生は週刊連載並に展開が早かった。
「なるほどのう。ニュースでミサキの養父母が殺されたことを知って連絡してきたというわけか」
「いえ、私の養父母が亡くなったことは知らず、むしろ驚いていました」
「は?ではなんでいきなり養子に出した子に連絡してきたのじゃ?」
ヒメが驚くのも無理はない。いまいち意味がわからない。
「私の本当の父親である死児間リンドウが亡くなったらしくて」
「死児間リンドウ?それってこの前死んだ死児間コンツェルンの社長じゃねーか?」
ナキは驚いたように声を上げる。ヒメは何のことかよくわからず、ポカンとしている。
「そうです。私、その社長さんの娘らしいんです。それでその社長さんが、自分の遺産は19人いる子供とその母9人に相続させると遺言で言ったらしいんです」
「子と嫁多っ!」
ヒメがズコー!となっている。
「しかも28人で等分。正妻とか妾とか関係なく綺麗に等分らしいんです」
「なるほどそれは色々揉めそうだな。ちなみにお前の母さんはどの立場だ?いや、養子に出してる時点で正妻ではないか」
ナキは冷静に分析する。というかこういう遺産相続系の話は大好きなのだ。大体こういうところから連続殺人が起こるからだ。
「妾でもないみたいですね。現地妻みたいな感じらしいです」
「それで遺産が相続できるとわかって、捨てた子供を呼び戻そうってわけか。ろくな親じゃなさそうだな。ちなみに遺産ってどれぐらいあるんだ?」
ナキはノリノリである。
「200億円らしいですね。28人で割ると一人当たり7億チョイになります」
億を超えた金が手に入るとなると、こんな気の弱い女性でも1400万円強をチョイと呼んでしまえるようになるらしい。人間とは恐ろしいものである。
「28人で割っても結構な額じゃねーか。一生遊んで暮らせるんじゃね?」
「それが今はもっと多くなってるんです」
ミサキの顔が険しくなる。
「どういうことだ?」
「今、遺産相続の権利を持っている人間は私を入れて21人。死児間リンドウさんが亡くなってから、すでに7人死んでいるんです」
ミサキが恐怖に声を震わせながらそう呟いた。
「もう始まっとるようじゃな。事件は」
ズコー!していたヒメがやっと追いついてきた。
「すべて事故死となっているらしいのですが、どう考えてもおかしいです。そして私もこのままだと殺されてしまうのではないかと。だから人外のお二人に一緒に来て欲しいのです。死児間の本家がある始まりの地、八百墓村に」
「墓多っ!」
再びヒメがズコー!となった。
「でもおもろそうだから行こう!楽しみなのじゃ!」
「ありがとうございます!」
あっさりOKしてくれたヒメにミサキが深々と頭を下げる。ナキも問題ないようだ。というかかなり乗り気だ。
「それで遺産相続が完了するまではあと何日じゃ?」
「3日です」
「じゃあワシらへの依頼は相続完了までミサキを守り抜く事。そしてもし殺人が行われているなら、その犯人を見つけ出すという事で間違いないか?」
「はい!お願いします!依頼を達成してくれた暁にはもらった遺産の半分をあげます」
「はぁ!?半分って4億チョイじゃねーか!太っ腹すぎだろ!」
ナキは7600万円強さえもチョイと言い出した。もう1億に満たないものは数える価値もないようだ。
「家賃問題もいきなり解決じゃ!でもそんな約束していいのか?おそらくお前の母親はお前の分の遺産も自分のものにするつもりだと思うがの」
ヒメが言う通り、それが遺産相続モノの定番だろう。
「なので実の母親から私のお金を守ることも依頼のうちに入りることになりますよね」
恐る恐るながらも、覚悟を決め、しっかりとした目でミサキはヒメの眼を見た。
「したたかになったではないか。よし!ではドンと任せておけ!ワシらがお前に200億円全部相続させてやろう!わっはっはっは!」
「いや、それは私以外全部死んじゃってるので、できればこれ以上誰一人死なずに解決してください。お願いします。会ったことはなくてももう家族が死ぬのは嫌なんです」
ミサキはもう一度、さっきよりも深く、そして長く頭を下げた。
「善処しよう。そして今度こそワシの推理力を見せつけてやろう!なあ、ナキ!・・・ん?ナキ?」
ナキはすでにせっせと旅支度を始めていた。もちろんヒメの分も一緒に。
「え?ナキどしたのじゃ!?めちゃめちゃやる気ではないかぁぁぁ!」
いつも怠そうにしているナキがテキパキ動いているのを見て、あまりの気味悪さに、ヒメが叫び声を上げる。
「今回の事件はイケる」
ナキが笑いながら呟く。
「どういうことじゃ?」
「今回の事件はどう考えても遺産相続に関する殺人だ!だったら今度こそ犯人は人間!なぜなら妖怪や宇宙人に遺産相続権はないからだ!」
そうなのだ。今回の事件、ナキの言うとおり犯人が妖怪だとか宇宙人という可能性は低い。というか無いかもしれない。
基本的に妖怪も宇宙人も人間との間に子供を作ることはできない。なので今回の容疑者には当てはまらないのだ。さらに言うなら、お金がらみというのも大きい。人間にとっては重要なお金だが、妖怪や宇宙人にとっては必ずしも必要な物では無いのだ。金なんか妖怪や宇宙人の超常的な力を持ってすればどうとでもなってしまうから。
「なるほど!では今度こそ見せられるわけじゃな!ワシが普通の密室トリックとかもガンガン解いていけるタイプの探偵だってことを!」
「母とは三日後に八百墓村で会うことになっています!旅費はかなり多めにもらってるので皆さんを連れていく分もあります!」
「よし!じゃあ行こうぜ!その不吉すぎる名前の村に!」
読んでくださってありがとうございます。
これから事件が始まっていきます。
よければ続きも読んでみてください。




