八百墓村殺人事件13
日本刀を持った死児間リンドウのような何かが、宙に浮かびながらヒメに斬りかかってくる。
ガキン!
それをナキが止める。
「幽霊の倒し方は?」
ナキが後ろのヒメに聞く。
「基本的に実態がないから、物理攻撃は通用せん。攻撃してくる時は実体化するので、その瞬間を狙うしかないじゃろう。でも炎の遠距離攻撃もできるから、離れて戦われたらお手上げじゃな」
「おいおい、幽霊めちゃめちゃ強えーじゃねーかよ」
そうなのだ。世間一般的なイメージとは違い、本物の幽霊はめちゃめちゃ戦闘能力が高いのだ。
「でもお主なら幽霊ごと飲み込んでしまえるんじゃないか?」
「さっきからやってみてるんだが、うまいこと躱わされてる。透けてるってのは厄介だな」
「頼むぞ、ナキ。その死児間リンドウはワシらを皆殺しにするつもりじゃ」
「こんなふざけた事件で殺されるのは勘弁だな」
『死ねぇぇぇ!』
リンドウが今度はナキに斬りかかってくる。
ー死中推命獄炎装衣ー
ナキは黒い炎を見に纏い、その刀を腕を交差して受け止める。
別に技の名前を言わなくても黒い炎ぐらい纏えるが、こういう技名を言いたいお年頃なのだ。ちなみに技の名前はヒメと2人で2時間かけて考えた。
「ドウジ!出番よ!」
幼女がバカみたいな怪談話をしていると思っていたところに本物が現れ、面食らっている一同の中で、このような事態も予想していたチカゲはいち早く動いた。
「昨日は仕留め損なったからな。今度は逃さん」
小太刀を二刀構えたドウジがどこからともなく現れた。2本の刀には日本酒がかけられているようで、滴っている。
日本酒は幽霊の実態を捉えるための助けに若干なるようだ。
「おい!探偵娘!これは一体どういうことだ!」
頭は混乱したままだが、それでも警察官として、木暮は必死に声を上げる。
「幽霊の相手はナキとドウジに任せよ!しかし依然としてこいつの狙いは遺産相続者たちじゃ!いつそっちに攻撃が行くかわからん!みんなを守ってくれ!」
「くそっ!犯人が幽霊って、なんて事件だよ!効くかどうかわからんが、全員銃を抜け!発砲を許可する!相続者たちを守れ!」
「「「はっ!」」」
木暮の呼び声で、警官たちが相続者たちの前に出る。
「おい!ドウジ!共闘ってことでいいんだよな?」
「ああ。だが基本俺は斬り合うことしかできん。俺が攻め続けるから、隙をついて飲み込め。空亡」
「了解」
言ってすぐにドウジはリンドウに斬りかかる。
ガキン!ガキン!ガキン!
空中で何度も刀をぶつけ合うドウジとリンドウ。
ー二刀両断 断裁ー
何合か打ち合ったところでドウジが技を繰り出す。
2本の刀を交差させ、体を回転させながら斬りかかる技だ。
『うがぁぁぁ!!!』
ドウジの刀はリンドウの胴体を切り裂く。
「今だ!」
「任せろ!」
ー黒穴天蓋ー
ナキの生み出したブラックホールが、上からリンドウを飲み込む。
飲み込むはずだった。
飲み込んだと思ったのだが、
『誰にも渡さん!!!』
リンドウの体が膨れ上がり、ブラックホールから飛び出す。
「おいおい!そんなのありかよ!どうなってんだよ!ヒメ!」
「予想外じゃ!場所が悪すぎた!ここはリンドウにとって、いくらでも力を補充できるパワースポットということじゃ!」
逸話の発生源である八百墓村、そしてここはその怨念が集まる場所、死児間本家。
この場所においては、リンドウと逸話が融合した存在である幽霊は最強なのである。
『お前たちにはやらん!』
ヒメたちが驚いてる隙に、リンドウは本来のターゲットである相続者に攻撃対象を移す。
狙われたのは一番近くにいたミサキだ。
「しまった!」
ドウジが慌ててミサキの元へと飛ぶ。
多分ドウジならミサキに届く前に、リンドウの刀を受け止められただろう。
だが、ドウジよりも先にミサキの前に飛び出した人間がいた。
「この子は殺させない!」
チカゲだ。
ザク!
そしてぎりぎりミサキは守れたはずのドウジだったが、ミサキよりも前に出てしまったチカゲに迫る刀には間に合わなかった。
要するに斬られた。
チカゲは肩から袈裟懸けに斬られてしまったのだ。
「くそぉ!幽霊風情が舐めやがって!」
ー二刀両断 八界斬ー
流れるような二刀の連撃がリンドウを斬り刻む。
『うがぁぁぁ!!!』
「今度は逃さねぇ!」
ー黒穴棺 葬送ー
上からだけでなく四方八方から、隙間なく、リンドウをブラックホールが包み込む。
「いい加減消えろ」
ゴクリ
黒に包まれたリンドウはそのまま飲み込まれ、今度こそこの世から消えてなくなった。
◇
「チカゲさん!!!しっかりして!!!チカゲさん!!!」
血まみれで瀕死のチカゲに駆け寄るミサキ。必死にチカゲの名前を呼んでいる。助ける方法なんてわからない。でも死んで欲しくない。どうしようもなくて、ただ名前を呼び続けている。
チカゲを母だと思えているわけじゃない。会って大した時間も経ってない。それでもなぜか、自分でも理由なんて全くわからないが、ミサキはチカゲにどうしても死んで欲しくなかった。
「すまない」
チカゲのそばへ行きドウジが頭を下げる。握りすぎた拳からは血が垂れていた。これは最強格の妖怪、酒呑童子の無念である。
「いいのよ。出しゃばったのは私だし、あなたは依頼をちゃんとこなしてくれた。ありがとう。ガハっ」
チカゲは血を吐いた口をゆっくり閉じて、優しく微笑んだ。
「やはりドウジへの依頼は自分の護衛ではなく、ミサキの護衛じゃったか」
ヒメは始めから違和感を感じていた。チカゲとドウジとの間にはしっかりした契約が結ばれているようなのに、ドウジがチカゲの安全を最優先に動いてるようには見えなかったからだ。
みんなの前に姿を現さないのもそう。チカゲを守りたいなら、犯人への牽制の意味でも姿を現しておくべきだった。
たとえチカゲが嫌がっても、契約のためなら無理矢理にでもドウジはそうしたはずだ。でもしなかった。頑なに影に隠れた。これはどちらかというと護衛対象に気づかれないように守る、影のボディーガードのように見えた。
「今回の遺産相続。私の目的はただ一つ、ミサキが無事に遺産を相続すること。それ以外はどうでも良かったのよ」
チカゲの顔は満足そうだ。
「な、なんで?なんで私にそこまでするんですか?」
混乱しているミサキは、泣きじゃくるように言った。
「それは娘だから、、、っていうのはさすがに説得力ないわね。そうねぇ。あえて理由を言うなら、、、私がどっちみちもうすぐ死ぬからかしら」
「え?」
突然の告白にミサキから変な声が出る。
「末期がん。年明けに、余命3ヶ月と言われたわ」
ちょうどこの3月を生きられるかどうかといったところだ。
「自分の命があとわずかだと知った時、私には何も無いことに気づいた。何も残せず、誰にも悲しまれず、ただ死んでいくだけ。そう思ったら、ふとね。あんたのことを思い出したのよ。捨ててからずっと忘れてたってのにね。あんたに会いたくなった。あんたに何かあげたくなった。でも自分が持ってるものは何もなかったから、、、」
「リンドウを殺したのか?」
ヒメの言葉に全員が驚きの目を向ける。
「生命維持装置を止めただけよ。ずっと意識がなかったしね。私の時間が残り少なかったから、リンドウさんにも急いでもらったの」
リンドウを最後まで看病していたのは、チカゲだけ。リンドウも末期がんであり、意識を失いながらも日々激痛に苦しんでいたこと。
この話をキヨミから聞いていたヒメたちは、チカゲがリンドウを殺した理由には、もっと複雑な思いがあったのではと思った。
「なんでそこまでして!私はお金なんかなくても!」
金では取り戻せないものばかり失ってきた(そして今まさに失おうとしている)ミサキには、金なんてどうでもいいもののように思えた。
「バカ!お金は必要よ。お金があっても不幸になることはあるかもしれないけど、お金がなくてなる不幸よりは納得できるもんよ。これは体験談」
そんなミサキをチカゲが叱る。おそらく最初で最後、唯一母が娘を叱った理由が金とは。なんとも面白い親子である。
「ご、ごめんなさい」
まるで子供のようにミサキは謝った。
「ふふ、そんな話はもういいから、最後に顔をよく見せて」
チカゲはミサキの頬に手を当てて優しげな顔をする。そして目からポロポロと涙を流した。
「喫茶店であんたに会った時、びっくりしたけど嬉しかった。だってあんた私にそっくりなんだもん。毒親のくせに、生きててよかったぁなんて思っちゃった。バカよね。でもね、あんたを見たら少しだけ死ぬのが怖くなくなったの。本当に何にもない私の人生だったけど、あんたを産んだことだけは正解だったわ。だから私よりいっぱい生きて、私よりいっぱい幸せになるのよ」
「お母さん」
「そう、私、お母さんだったのよね」
たくさん涙を流して顔をくしゃくしゃにしながら、チカゲは笑顔で息を引き取った。
「お母さん!うわぁぁぁん」
ミサキは涙をポロポロ流しながら、チカゲを抱きしめ続けた。
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