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超常専門(超不本意)探偵アクトヒメ  作者: 血湧湧
八百墓村殺人事件
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17/17

八百墓村殺人事件 エピローグ

 5日後、事件の後始末や、死んだ人間たちの葬儀が終わった3月17日。


 今日は年に一度の『墓粉祭ぼふんさい』である。


 出店が立ち並ぶ中、ハンマーを振って墓石を粉砕していく村人たち。


 気でも触れたのかと思うような光景である。


「墓粉祭まで残っていた甲斐があったな。こんなイカれた光景、滅多に見れるもんじゃないわい」


 綿飴を食べながらヒメは村人たちの凶行を眺めている。


「墓粉祭で壊しやすいように、あらかじめ墓は脆く作ってるらしいぜ。弔いってなんだろうな」


 ナキもタバコを吸いながらビールを飲んでいる。


 時刻は16:00、今日は天気が良くて暖かい。外でビールを飲むにも、墓を壊すにももってこいの日だ。


「ミサキも参加してきたらどうじゃ?チカゲの墓があるじゃろ」


「いや、昨日建てたばかりですよ!?」


 さすが八百墓村といったところだろう。葬式の終盤にはもう墓が建っていた。なんなら墓の除幕式で葬式が締め括られたぐらいだ。


「またすぐ建てればいいじゃろ。金は腐るほど相続したんじゃから」


 結局ミサキが相続した遺産は40億円になった。どこにでもいるような、この気の弱い女の子が、一生で使い切ることはまずないだろう。


「でもやっぱりお墓を壊すっていうのは倫理観的に、、、」


「郷に入っては郷に従えじゃ!いつまでもしょぼくれた顔しとらんで、景気良く墓壊してこい」


 ヒメがミサキの尻を叩く。


「・・・そうですね。行ってきます!」


 『ご自由にお取りください』となっているハンマーを手に取り、ミサキは駆け出して行った。


 ミサキのように今から墓を壊そうと駆け出していくものもいれば、一通り壊した後に、壊した墓石を大事そうに手に取っている村人もいる。


「墓粉祭で一通り墓を壊した後は、忘れたくない人の墓だけもう一度作るんだとさ。そうやって墓を間引いてるらしい」


 人間でなくなってしまってるナキには、生者が死者に向ける気持ちはもうわからない。でも墓を壊す人間たちが亡くした人たちを大事に思っているのはわかった。


「大切な人の墓を毎年壊しては作るわけか。死者を忘れないと言う意味では、いい弔い方なのかもしれんな。まあ死者を忘れないという気持ちが強すぎて、幽霊を作り出してしまった可能性もあるがのう」


 死すら状態異常の一種としてしか捉えられなくなってしまったエスペシア星人のヒメにはもう、死に対する感情は思い出せない。

 

 だが死者を弔う人たちを見て、懐かしさだけは感じた。


「それにしても最後に発表されたリンドウの遺書には驚いたな」


 ナキは新しいビールの缶を開ける。


「あれもまたリンドウの本心であったということじゃ」


 リンドウの遺書には次期社長や会社、遺産のことは一文字も書かれていなかった。書かれていたのは、ただひたすら、家族への愛だけ。


 最後はこう締められていた。


【どうか、年に一度、いや5年に一度だけでもいい。この屋敷に家族みんなが集まって飯を食うこと。それだけが私の願いである】


「遺産相続者数ぴったりの部屋数は、単純にみんな仲良くして欲しかったからってことだったのか。でもそれを自分でほとんど殺しちまうとはな」


 ナキはやるせなさそうにタバコの煙を吸い込む。


「家族を愛していたリンドウは本物だが、心のどこかで、微かに、自分で築き上げたものを誰にも渡したくない気持ちもあったのじゃろう。そこが逸話に引っ張られてあの幽霊になったということじゃ」


 ヒメが言う通り、あれはリンドウであって、リンドウではない。だからただの幽霊としてしまう方がいいのだ。


「それはそうと、また犯人は人間じゃなかったな」


 今回こそはとノリノリだったナキとしては、残念だっただろう。


「当たり前のことじゃが、人はそう簡単に人を殺さん」


 どんなに相手が憎くても、それがどんなに自分にとって得になるとしても、人はなかなか人を殺さない。


 罪悪感だったり、不安感だったり、同情心だったり。


 理由は様々だろうが、殺したいと思っても実行できる奴はほとんどいない。少なくともこの現代においては。


「でも人外は簡単に人を殺せる、か」


 ナキはタバコをその辺にポイ捨てする。人外は簡単にタバコを捨てられる。


「人外じゃからな。同種じゃないなら、少なくとも罪悪感と同情心は発動しない。人間だって他の生き物を殺すときはあっさりじゃろ?」


 とても怖いことをヒメは綿飴を食べながらさらりと言ってしまう。


「コナンや金田一のような事件に出会えるのはいつになることやら」


「どんな事件でも探偵は探偵じゃろーが」


「それはそうなんだけど」


 ゆっくりと日が暮れていく。墓粉祭はもうしばらく続くだろう。遠くで『えい!』と声を出しながら、悲しさを振り払うように墓を壊すミサキが見える。


 死者を思って泣いたり笑ったり、壊したり直したりする。それが人である。


 でもヒメとナキは違う。


 連続殺人事件のあとでも、彼らは家に帰ればぐっすり眠るし、明日には思い出話になっているだろう。


 人間がいくら死んでもなんとも思わない。


 人間とは異なる生き物。


 彼らは人外だから。



 後日談というか、八百墓村連続殺人事件の関係者のその後。


 事件から一週間経って、お礼と依頼料の支払いにやってきたミサキから聞いた話である。


「結局次期社長はオウシュンさんになりましたよ」


「そりゃそうじゃろうな」


「ショウゴさんは遺産で東京にマンションを買ったらしいですよ。そこに引き篭もりながら情報屋をやるとか。何かあったら連絡してくれって言ってましたよ。これ名刺です」


「引き篭もりのエリートみたいな生き方始めたのう」


 一応名刺は財布に入れるヒメ。こればっかりは社会人としての礼儀である。


「オウランさんは南の島でのんびり暮らすらしいです。若い男の人を侍らせて。これはこっそり教えてくれました」


「吹っ切れおったな。まあそりゃ夫浮気しまくり、子供作りまくりで、終いには幽霊になって家族大量殺人とくりゃ、吹っ切れるしかないじゃろ。前向きになれているだけ化け物じゃ」


 数年後、オウランはパンガン島の女王と呼ばれることとなる。


「リンコさんは、シジマ醤油の人生ゲーム開発部門のチーフに就任したらしいです」


「なんじゃそれ?醤油屋がなんで人生ゲーム開発するんじゃ?」


 こればっかりは流石のヒメも意味がわからない。


「オウシュンさんがリンコさんのためだけに作った部署らしいです。どんだけ赤字を出してもオウシュンさんがポケットマネーでなんとかしてくれるらしいです」


「シスコンにも程があるじゃろ」


「というか家族をもう失いたくないんだと思います」


 ミサキは自分と重ね合わせているのかもしれない。


「それを言われると、これ以上は何も言えんのう」


 ヒメは珍しく、本当にそれ以上は何も言わなかった。


「いや、人生ゲーム作らせなくても、妹は失わないだろ!」


 ナキは普通にそれ以上を言った。


「ま、まあリンコさんは人生ゲームなしでは社会に出ていけないので、社会的に失わないようにって感じだと思います」


「全く意味はわからねーけど、そういうことにしといてやるよ」


 関係者のこれから話に興味を失ったナキはタバコに火をつける。


「というわけで、今日は報酬の方をお支払いしにきました」


 そう言ったミサキはガラガラさせながら持ってきたスーツケースを開けようとするが、


「半分はいらんぞ?」


 ヒメに制止される。


「え?」


「そもそもお主の、『誰も死なせないで』という依頼は全くこなせていないし、というか3人も殺されてむしろ大失敗じゃし、これで当初の依頼料を貰おうものなら、プロとして終いじゃ。報酬は150万で良い」


 かっこいいことを言いながらも、しっかり150万は請求するヒメ。


 これは今月中に払わなくてはいけない140万円に、自分へのちょっとしたお小遣いの10万円を足した額だ。


 最初の報酬額がバグっていただけで、依頼失敗してるくせに150万も請求するのは、かなりふざけた発言だが、


「それだけでいいんですか!?」


 40億円手に入れたミサキはあっさり払う。なんなら100万束を2つおいて、『釣りはいいです。めんどくさいんで』とまで言ってのけた。


 40億円を手に入れると、50万円ごときのやりとりはめんどくさくなるらしい。


「いっぱい貰えて嬉しんじゃが、なんかムカつくから、殴って良いかの?」


「え?なんでですか?」


 40億円も持っていると、50万円如きで心を乱される連中の気持ちはわからなくなるらしい。


「で、お前はどうするんだよ」


 ナキがタバコの火を消して、ミサキと向き合う。


「私ですか?」


「当たり前だろ」


 正直、さっきまでの話はどうでもよかった。知れてよかった程度のこと。二人が知りたいのは依頼人の今後。今回の事件を経験して、生氷ミサキという女性はどう生きていくのかということ。


「実は私、このビルの1階でバーを始めることにしたんです。チカゲさんがやっていた仕事を自分もやってみたかったのと、人外っていうのに興味も湧いたんで。それに伴って、めんどくさかったんでこのビル自体も買っちゃいました!なのでこれからは私に家賃を払ってください!」


 40億持っている人間はめんどくさくなると、ビルを買ってしまうらしい。


「ちょっと待て!オーナーのユミちゃんはどうしたのじゃ!?」


「ユミコさんなら、ちょっと高めで買ったから、喜んで隠居生活に向かいましたよ!第4の人生はパリジェンヌですって」


「あのババア。フランス行ったんかい」


 ヒメはなんだか悔しそうである。


「滞納していた家賃120万円は私が立て替えておいたので、それは今貰っちゃいますねー」


 めんどくさいと50万多めにくれたミサキだったが、120万はきっちり数えて持って行った。ビルオーナーとしてのこれからに期待が持てる。


「それじゃこれからもよろしくお願いしますね」


「よろしくな」


 いつの間にか部屋の隅にドウジもいた。

 

 ドウジは「チカゲがなんと言おうと、あれは俺の失態だ。だから俺は最後までチカゲの想いを叶える」

ということで、ミサキをこの先も護衛し続けることにしたらしい。ミサキが寿命を迎えるまで。


ミサキはかなり遠慮したらしいが、ゴリ押されたらしい。これでミサキは一生妖怪に付き纏われることになった。御愁傷様である。


 こうして八百墓村連続殺人事件は、アクト探偵事務所周りのキャラが何人か増量することで、やっと幕を閉じたのであった。


「ちなみにキヨミさんは『またどこかの地獄で』と言い残して、闇に消えて行ったらしいですよ」


 まだもう一人残ってた。


「どうでええわ」


 冷めた目でヒメは呟いた。


読んでくださってありがとうございます。


引き続きよろしくお願いします。

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