91話 尊厳の危機
「ん?」
命があまりにもキョトンとした顔で画面を見るので俺は一応もう一度スマホの画面を確認する。
しかし、やはりそこには今までと同じ事が書かれているだけだった。
「……いや、俺が見てたのはこれだぞ?」
もしかしたら命も何か少し勘違いしてしまっていたのかもしれない。
だから俺はもう一度しっかりとその画面を見せた。
しかし、命はムッとした顔をする。
「ねぇ、彩斗くん、流石にこれじゃ私は騙されないよ? 誤魔化すにしてもさ、もうちょっと普通のサイトにしなよ、こんな真っ暗な画面ずっと眺めてるわけないでしょ?」
「…………は?」
俺はもう一度しっかりと確認する。
が、そこには真っ暗な画面など映っておらず、先程と同じ胡散臭いサイトがあるだけだった。
そこ事に俺はますます混乱してしまった。
「ほら、早く白状しなよ、別に怒ってる訳じゃないから」
「いやいやいや、待てよ、もう1回ちゃんと見ろ? ほら、ちゃんと文字あるだろ?」
「…………バカにしてる?」
ここまで言っても伝わらないということは…………本当にこのサイトは命に見えていないのか?
命にだけ見えないというのもおかしいし、もしかすると、俺にだけ見えているのかもしれない。
よく考えてみればこんなサイトが本当にあるのだとしたらもっと話題になっているはずだ。
一昔前に1万円ガチャなるものが流行っていた時代があった。
1万円なんて大金を払ってまで引きたいものか? と当時の俺は思っていたが、ブームだったからなのか分からないが、かなりの人がそれをやっていたのを記憶している。
そういう人たちが居るくらいなのだから、このサイトを見つけることが出来る日本人が居ればその中の何人かはこのサイトを使用しているかもしれない。
もしかするとその人達もみな俺と同じようにこの力を独占しようとして誰にも言わないようにしているのだと思っていたが、やはりそれにも限度はある。
今回の命の様な感じでたまたま見られてしまうようなケースもあるはずだ。
だが、それでも一切その情報は出回っていなかった。
サイトのことについてはネットで何回か調べてはいるが、その時には一切そういう情報はヒットしなかったのだ。
となると…………このサイトは俺だけが使えるという事なのか?
「…………彩斗くん、どうしたの? 白状する気になった?」
「あ、いや……」
心臓が激しく高鳴っているのを感じる。
この力が俺だけのものなのだとしたらとんでもない事だ。
明らかに人間とは思えないほどの能力を手に入れていっているわけだし、このままだと俺は本当にとんでもない高みまで至ってしまいそうだ。
「…………むぅ、分かってるんだよ? ちょっとムッとはしてるけど、男の子だししょうがないと思うから…………」
「いやいや、ちょっと待て、何の話?」
俺が超能力サイトの事で頭がいっぱいになっている時、気が付くと命は少し悲しそうな顔をしながらそんなことを言っていた。
そこまで深く話を聞いていなかったのでどうしてそんな話になったのかさっぱり分からない。
命の表情には、どこか諦めの色が滲んでいた。
「……だってさ、わざわざ画面真っ暗にしてまで、隠したいってことは……そっち系の、アレなんでしょ?」
「はっ!? なんでそうなるんだ!?」
俺は慌てて首を振る。
違う、絶対に違う。
どこをどうしたらそういう発想に至るのか分からないが、命が何か勘違いしているのは明白だ。
まず、知り合いの女の子の家に泊まっとる時にそんな事するバカがいるわけないだろ!?
そういう性癖ならまだしも、俺は至ってノーマルだ!
「じゃあ、何なの? 本当は何見てたのさ」
命は問い詰めるように覗き込んでくる。
俺はもう一度スマホの画面を命に向けて見せる。
だが命は、そこに何も見えていないようにただ首をかしげるばかりだ。
「…………俺は本当にこの画面を見ていたんだ、何も隠してない!」
「嘘だよ、そんな顔してるもん、彩斗くん」
ドキリとする。
確かに、さっきからずっと心の中は気を抜いたら、声に出して叫んでしまいそうなほどには混乱と興奮とでごちゃごちゃだった。
「……ほんとに、見えないのか?」
俺はもう一度だけ、静かに尋ねた。
命もまた、真剣な顔で首を縦に振る。
「うん、見えない、ただの真っ暗な画面」
やっぱり……これは、俺にしか見えないサイトなんだ。
それが知れたのは1つの収穫だ。
だが…………その、俺がそう言うサイトを見ていたっていう誤解を持たれたままなのは非常にまずい。
俺は頭がいつも以上にフル回転しているのを感じる。
こういう時の男の子は思考能力がいつもよりも何倍にもアップするのである!
それから俺は小一時間かけて命に弁明をした。
本当にそんなサイトは見ていないので嘘はついていないのだが、それでも超能力サイトを見てましたなんて言っても信じて貰えないだろうからそこは伏せたまま喋らなければいけないので弁明にかなり時間がかかってしまった。
最終的に命は理解したのかしてないのか分からないが、何とか引き下がってくれた。
本当に、俺の尊厳とか諸々の危機であった。




