45話 嫌な予感
あれから紫恵とはあまり話していない。
好意を無下にしてしまったわけだし、少し気まずいのもあるが、何より少し避けられているような気がする。
「……まぁ、元々そんなに深い仲でも無かったしな」
出会ってから何ヶ月間も事務的な会話以外何も喋っておらず、最近俺の見た目が変わってから一方的に話しかけられているだけでお互いそこまで一緒に居た訳でもない。
何故こんなにも良くしてくれているのかはっきり言って一切わからない。
だけど…………。
「…………俺、知り合いの女の子全員から避けられてね?」
俺の話せる同世代の女子といえば命か紫恵だけだ、なのにその2人から避けられているということは…………。
気分が落ち込む。
紫恵にははっきりと悪い事をしてしまった事は分かるが、命には何をしたのか分からないまま避けられてるし、もしかしてこれって俺が男としてやばいって証拠なんじゃないか?
いや、男としては元々やばいか。
とにかく、少なくとも命とは仲直りがしたい。
数日間経ち、命のバイトと重なる時、俺は前回と同じように少し早く家を出た。
少しでも印象が良くなるよう服装や髪型などもしっかりと整えて万全な状態にして行った。
だが…………。
命は居なかった。
俺は何か嫌な予感がした。
急いで事務所へ行くと店長が青い顔をしている。
「店長、志賀さんは!?」
「あぁ、びっくりした、綾瀬くんか」
「そんな事は良いです、それより、志賀さんは…………」
「あぁ、その事なんだけど…………」
店長はため息をつく。
「志賀くんなんかついこの前に連絡が来てね、この店を辞めるって…………」
「っ!?」
嫌な予感が的中してしまった。
店に入り、店長の奥さんが見えた時点で何かがおかしいと思ったんだ…………。
俺はいてもたってもいられず、事務所を飛び出した。
「あっ、ちょ、綾瀬くんどこ行くんだい!?」
「っ、ごめんなさい、少し出勤するのが遅れます!」
「あっ、ちょっと! あぁもう、仕事が増えるっ!」
背後に店長の怒号を聴きながらも、俺は全力で走り出した。
命の家へ向かう途中、俺の足はどんどん重くなっていった。
決して俺の体力がない訳では無い。
紫恵の言う通りバイト仲間なんて揺れ動くものだし、そんなものが少し居なくなったりしたからってそこまで動揺することは無いのかもしれない。
だけど………どうしても確かめたかった。
ようやく命の家が見えてきた。その場所が近づくにつれて、胸の鼓動がさらに速くなってきた。
俺はドアの前で少し躊躇ったが、意を決してノックをする。
しばらく静寂が続く。
家の中から音はしない。
もう一度ノックする。
ノックの音がなるだけで、中から音はしない。
もしかして留守にしているのだろうか?
「…………だめ、なのか」
どうすれば嫌われなかったのか、何が悪かったのか、色んなネガティブな感情が心の中に溜まっていく。
溜まりに溜まった行き場無い感情は瞳の縁からだくだくと流れ出てくる。
「…………行かなきゃ、か」
時計を見る、まだバイトの時間までは時間がある。
今から全力で戻ればバイトの時間には間に合う。
だが、動きたくなかった。
俺はそのまま動けずに立ち尽くしていた。
心の中で自分に言い聞かせるように、何度も「行かなきゃ」と繰り返していたが、足は動かない。
働くというのは信頼が命だ、いきなり理由もなく休んだりすればそんなものはすぐさま砕け散ってしまうだろう。
だからこそ、どんな理由があろうと、遅刻は許されない。
分かってはいる、居るんだが…………。
「どおして……なんで上手くいかねぇんだよ…………」
超能力を手にして俺は変わると決意した。
神社でも願った。
なのに、このザマだ。
少し仲良くなれたと思っていた人たちにはことごとく避けられ、何とか仲直りしようとしても上手くいかない。
その上そんな自分の勝手な事情で職場にまで迷惑をかけようとしている。
足が動けば、もっと早く聞ければ、忠告を聞いていれば。
後悔はどんどんと溢れていく。
自分の不器用さがどんどんと自分を追い込んでいくのが分かる。
どうしてこうなったのか、どこから間違ってしまったのか、どうしてうまくいかないのか、それがどんどん頭の中をぐるぐると回り続けていた。
「……こんなはずじゃなかった」
俺は肩を落とし、視線を下げる。
このままでいいわけがない。
でも、どうしたらいいのか分からない。
「……だめだ、こんなところで終わるわけにはいかない」
と、自分に言い聞かせるように呟く。
足を踏み出すと、ようやく体が動いた。
だが、やはり俺の念は命の方へ向かっている、足取りは重い。
だが…………それでも俺は歩こうとした。
だけど、少しだけ、決意が足りなかった。
やっぱりあそこには命が居るんじゃないか、そんな考えが俺を振り向かせる。
「…………え」
今、何か動いた気がする。
命の部屋は1階で、ここからでもその窓は見える。
その窓の中の締まりきっていたカーテンが…………少し、動いた。
その瞬間、それは駆け出した。




