44話 分からない
「う……確かに」
知らない男に連絡先を知られるってそれ結構気持ち悪いよな……あれが命だと俺はほぼ確証があって話していたが、紫恵にとってはそんなこと分からない訳だし、紫恵の信用問題にも繋がる。
女の子は信頼関係が結構大事らしいし、ちょっとでも不審な行動をとったらハブられたり虐められたしするとか…………。
出来れば俺が直接話したいのだが、紫恵に不利益になるようなことは俺も求めていない。
「……わかった、かけてみてくれ」
「うん、じゃあ、こっち来て」
紫恵は人気のない教室へ入っていく。
「じゃあ、かけてみるけど……なんて言えばいいかな?」
「わかんない……俺から話をしたいってことを伝えて欲しいんだ」
「……分かったよ」
そういうと紫恵は電話をかけ始めた。
しばらくすると、電話に出たのか、紫恵が反応し話し始めた。
「あ、命ちゃん? 今大丈夫? ……うん、あ、えっとね、彩斗くんっているじゃん? 彩斗くんが…………あ…………」
紫恵は少し悲しそうに目を伏せる。
「……切られちゃった」
「……そっか」
紫恵が俺の名前を出した瞬間電話を切られたみたいだし、やっぱり俺の事を避けてるって言うのは間違いなさそうだな。
「そっか……」
俺は天井を仰ぎながら、大きく息を吐いた。
ここまで徹底的に避けられると、さすがに心にくるものがある。
目の前で申し訳なさそうにしている紫恵を見て、 俺は無理に笑顔を作る。
「いや、気にしないでくれ、電話してくれただけでも助かったよ」
「うん……ごめんね、力になれなくて」
「紫………根浜さんが謝ることじゃないよ」
紫恵は申し訳なさそうに俯く。
俺は少し罪悪感を覚えた。
これは俺の問題なのに、紫恵がこんなにも悲しそうにしてくれているのは申し訳ない。
「……とにかく、ありがとう。ちょっと考える時間が欲しい。」
「うん……」
俺は教室から出た。
紫恵と別れたあと、俺はひとり廊下を歩きながら考えた。
命の家は知っている…………部屋も一瞬だが見てしまったのでどの部屋なのかも知っている。
そう、本気で会いに行こうと思えば会いにいく事も出来なくは無いのだ。
だけど、それをしてしまって更に嫌われたらと思うと行動に移せずにいる自分がいた。
「…………ねぇ」
俺が歩いていると後ろから声が聞こえてくる。
…………紫恵だ。
「……ちょっと1人にさせてほし……」
「彩斗くんは、あの、命ちゃんと付き合ったりしてるの」
「…………はぁ!?」
いきなり何を言い出すかと思えばなんでそんなこと…………あ、いや、クリスマスの日に一緒に歩いたりしてるし、嫌われたと思ってここまで必死になっている様子を見ればそう思うのもおかしくないか…………。
それは命の尊厳に関わる問題でもあるため、しっかりと否定しておかなくては。
「命とは本当にただのバイト仲間だよ」
「そうなんだ……じゃあさ、もう良くない?」
「え?」
「だってさ、バイト仲間なんてなんかのきっかけですぐ離れるもんだし、今回もそのちょっとした事だったんじゃ無いの?」
「それは…………」
今までうちのコンビニからも何人も人はやめていってる。
少しだけ話せるようになっていた人と離れてしまって苦労したことも何回もある。
バイト仲間なんてそんなもんだ。
だけど…………。
「俺は…………」
「久々に会ったと思ったらあんな暗い顔してたからさ…………ほら、休みの日とか私も遊んであげるからさ、ね? 元気出そうよ、切り替えてさ…………」
「…………ありがとう」
「え?」
「俺を元気づけようとしてくれてるんだろ? けど、大丈夫だ、これは俺自身の問題だし、自分でなんとかする…………だから、無理しなくていい」
「いや、無理してなんか…………」
「根浜さんは友達も多いんだからさ、もっと他の人と遊びなよ!」
「っ!」
紫恵は何か言いたそうな顔をしたが、きゅっと口を閉ざして俯いてしまった。
……………こんな俺にも優しくしてくれる紫恵は本当に優しい子だ、だけど、そんな子が俺の為に時間をとるべきじゃない。
それに、俺には命から離れるという選択肢は無い。
「…………ごめんな、こんなに時間取っちゃって、もうそろそろ授業始まるだろ、教室行こうか?」
「…………うん」
紫恵の顔は酷く寂しそうだった。
俺は紫恵と並んで歩きながら、自分の中のもやもやを整理しようとしていた。
しかし、考えれば考えるほど、自分がどうすればいいのか分からなくなる。
命に嫌われるのは辛い。
けど、嫌われるのが怖くて何もできないのも、それはそれで嫌だ。
紫恵は無言のまま、俺の隣を歩いていた。
ちらりと横目で見ると、彼女は俯き加減で、何か言いたそうに唇を噛んでいた。
少し、様子がおかしい。
「……根浜さん?」
俺が呼ぶと、彼女はびくりと肩を揺らした。そして、少しの間を置いてから、ぽつりと呟く。
「……私じゃ、ダメなのかな」
「え?」
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
「彩斗くんがそんなに命ちゃんのことで悩んでるのを見ると……なんか…………それに、ちょっと寂しいっていうか……」
「……紫恵?」
「なんでもない!」
彼女は慌てて手を振って、無理に笑おうとした。
でも、その笑顔はどこかぎこちない。
「……私、教室戻るね!」
そう言って、紫恵は小走りで教室の方へ向かっていった。
俺はその背中を見送りながら、ふうっと息を吐いた。
「……俺は、どうすればいいんだよ」
誰に向けたわけでもなく、ぽつりと呟いた。




