155 ツアー記念料理
新連載、開始しました!
『胆石が賢者の石になったオッサン、少年に戻って賢者学園に入学して、等価交換も寿命も無視した気ままな学園生活!』
こちらも本作と同様、毎日更新しておりますので、ぜひ見てみてください!
このお話のあとがきの下のほうに、小説へのリンクがあります!
ゲテモノの極みとされるモンスターなど、犬も食わない……。
そう思っていた時期が、彼女たちにもきっとあったことだろう。
しかし今はそれは、過去のもとなってしまった。
野良犬シェフの料理は、それほどまでに……。
物撮りでエフェクトをかけたかのように、投影触媒上でキラキラと輝いていたのだ……!
「こちらは『アーミーバットの卵焼き』です」
シェフが大きな手で最初に示したのは、黄金のような光沢を走らせる、ホールケーキのような卵焼き。
野いちごなどの木の実で飾り付けされており、溶かしたチョコレートで『マザーとビッグバン・ラヴと行く、不死王の国ツアー記念』と書かれていた。
「卵と木の実はこの地下迷宮で採れたものですが、チョコレートは非常食として持参していたものを溶かして使いました」
シェフの説明が届いているのかいないのか、テーブルの客たちは湯気で顔が湿るのもかまわずに料理を覗き込んでいる。
モニターの前の視聴者たちも、あまりのシズル感に喉鳴りが止まない。
「あれが……卵焼きですって!?」
「すごい……高級なケーキみたい……!」
「しかも……モンスターの卵なんでしょう!?」
「モンスターから、あんな美味しそうな料理ができるだなんて……!」
誰もが食い入るようであったが、素直になれない者たちもいた。
「ふ……フン! コウモリの卵なんて気持ち悪い!」
「そ……そうよそうよ! あんなの見た目だけで、絶対マズいに決まってるわ!」
「しかも食べたら病気になるに決まってるわ! 野良犬は大聖女様やビッグバン・ラヴをひどい目に遭わせようとしているのよ!」
そして今まさに、ひどい目に遭わされている者たちも。
「ああんっ! もぉーっ! なんで離ればなれになっちゃったのよぉ! ついて行ってれば、今頃はあの卵焼きが食べられたのにぃ!」
「生きる目的を失ったも同然のん」
「私も実を言うと、あの卵焼きを楽しみにしてたんですぅ~!」
失意のわんわん騎士団たちをよそに、シェフの説明は続く。
「そしてこちらは『メンリオンアームのしゃぶしゃぶ野草サラダ』です。メンリオンアームの肉はカロリーが低く、新鮮な肉だと生でも食べられます。しかしちょっとクセが強いので、ハーブで作ったスープで湯引きしました。ヘルシーな野草を包んで一緒に食べると肌にも良く、リラックス効果も期待できます」
「うわぁ~! あれもおいしそぉ~っ!」
「お肉を使ったサラダなんて、初めて見たわ!」
「でもさっぱりしてて、食べやすそうね!」
「しかも低カロリーでお肌にいいだなんて……!」
「フン! なにが野草よ! どうせそのへんに生えてた雑草でしょ!」
「犬のオシッコとかかかってるかもしれないのに、ああ汚い!」
「あんなの食べたら身体じゅうにブツブツができるに決まってるわ!」
「ちょっとぉ!? 何あの新メニュー!? パートナーのアタシを差し置いて食べるだなんて、許さないわよっ!?」
「世界の終わりを見させられているような気分のん」
「ああ、私もおなかがぐーぐーいってます~!」
様々な感情が飛び交う中、シェフは説明を締めた。
「最後はクラッグのスープです。湯引きしたメンリオンアームのダシが染み込んでいるので美味しいですよ。それではどうぞお召し上がりください」
クラッグというのは小麦粉を主材料にして焼き上げた、堅パンの一種である。
日持ちするうえに、少々硬いが調理しなくてもそのままで食べられるので、冒険者の携帯食料として一般的。
スープなどに入れると柔らかくふやけて食べやすくなる上に、スープが染み込んで味がさらに良くなる。
ゴルドくんは持参していたクラッグを用い、湯引きであまったスープを調味料で味付けして、さらに一品作ったのだ。
食卓の面々はおあずけをくらった犬のように、口の端からヨダレを垂らしていた。
オッサン飯をいちど体験したことのあるプリムラだけは辛うじて自我を保っていて、
「ご、ゴルドくん、素敵なお料理、ありがとうございます。で、では、いただきましょうか。お姉ちゃん、お食事前のお祈りを……」
ツンツンと突かれた姉は、スパァーンと手を打ち鳴らすほどに合掌したあと、
「ゴルちゃん! いただきますっ!」
何もかもすっ飛ばした唱和を叫んだ。
「「「「い……いただきまぁぁぁぁーーーすっ!!」」」」
後に続くプリムラとシャオマオ、そしてビッグバン・ラヴ。
おのおのが卵焼きに、しゃぶしゃぶサラダに、スープに手を伸ばし、ひと口食べた瞬間……!
……ガッ……!
タァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
一斉に、椅子ごとひっくり返ってしまった。
ゴルドくんはちょうど食後のデザートを準備しに調理場に戻ろうとしていたところだったので、助けるのが遅れてしまう。
「大丈夫ですか、みなさん」
素早く駆け寄ってきて椅子ごと次々と助け起こす。
その様子をモニターごしに見ていたアンチたちは、ここぞとばかりに叫んだ。
『ああっ!? ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! あああーーーーーっ!? やっぱり、やっぱり野良犬の料理はとんでもないものだったじゃぁぁぁーーーんっ!! ひと口食べただけで、死にそうになってるじゃぁぁぁぁぁーーーんっ!!』
「たぶん、すっごくマズかったのよ!」
「ううん、毒が入っていたに違いないわ!」
「きっとその両方よ! マズくて毒入りだなんて、最低っ!」
「大聖女様を毒殺しようだなんて、とんでもない野良犬ね! 野良犬を支持している、あなたたちも見たでしょう!?」
「今回ばかりはトボけようったってそうはいかないわ! あの伝映が何よりもの証拠よ!」
「そうよ! つまらない意地を張るのはもうやめましょう! いくらそうやって野良犬に肩入れしたところで、ゼピュロス様は振り向いてくれないのよ!」
「そうそう! 野良犬を支持したところで、待っているのは見た目だけ良い、毒入りの残飯を食べさせられるだけなのよ!」
一気呵成とばかりに言い募るジャンジャンバリバリと、勇者サイドの支持者たち。
オッサン飯の味を知らない野良犬サイドの観客たちは怯んでいたが、筆頭の者たちは余裕しゃくしゃく。
「フン、どんどん言ってきていいわよ。そんなことが言えるのは、今のうちだけなんだから」
「ウソを並べ立てて扇動したところで、それで人を動かせるのは、真実が明るみに出るまでのわずかな間のん」
「う、ウソはいけませぇ~ん!」
『ウソをついているのはどっちなんじゃ~んっ!? 現に野良犬の料理を食べた者たちは、倒れてしまったじゃぁ~んっ!? その次に飛び出す一言は、もう決まってるじゃぁ~ん! 真実がもうすぐ、明るみに出るんじゃぁ~~~んっ!? じゃじゃぁぁぁ~~~んっ!』
実際のリアクションがあったので、ジャンジャンバリバリも強気。
親指を鼻に突っ込んで手をパタパタさせ、これでもかと煽りまくる。
『う……ううっ!』
『あっ!? バーニング・ラヴちゃんが唸ってるじゃんっ!? うつむいたまま、あんなに苦しそうに……! かわいそうじゃぁぁぁーーーんっ! きっと、オエーってなるじゃぁぁぁーーーんっ!!』
『う……うううっ……! うううっ……!』
法玉が唸るギャルをアップで捉えるも、垂れた前髪で表情は見えない。
肩がカタカタと震えている。
そして……顎の先から、光る滴が垂れ落ち……。
ぽたり、とテーブルの木目に、染み込んだ瞬間……。
『う……! うまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?』
涙を迸らせながら顔を上げたギャル。
その表情は、恍惚をとっくの昔に通り過ぎていた。
頬どころか耳まで紅潮させ、目の焦点はあっておらず……。
それどころか、口から舌まで飛び出させ……!
両手はなぜだか、ピースサイン……!?
『うまいうまいうまいうまいいんっ!?!? うまひぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんっ!?!?』
はしたないアヘ顔を、国じゅうに流出させていたのだ……!
アイーシャ様からレビューを頂きました、ありがとうございます!
あと少しで、やる気ゲージがまた満タンになりそうです!
次回、飯バトルは意外な所でも…!