154 ビストロ野良犬
新連載、開始しました!
『胆石が賢者の石になったオッサン、少年に戻って賢者学園に入学して、等価交換も寿命も無視した気ままな学園生活!』
勇者が賢者になっただけのような…そしてのっけからマザーみたいな女神様が出てきておりますが…。
本作を面白いと思っていただけている方なら、こちらも楽しんでいただけると思いますので、ぜひ見てみてください!
このお話のあとがきの下のほうに、小説へのリンクがあります!
ゴルドくんは料理番組のごとく、伝映のメインに映っていた。
勇者サイドの調理場は険悪ムードであったし、ワインをたしなむ勇者のアップは頬に『ヘタレ』の文字があって直視に耐えなかったからだ。
手品のようにコック帽を取り出し、頭に乗せるゴルドくん。
同じようにエプロンも着けようとしていたのだが、背中に手が届かなかったのでプリムラに手伝ってもらっていた。
その光景は、教育番組のマスコットとお姉さんのやりとりのようで、なんとも微笑ましい。
視聴者からも「かわいいー!」と歓声があがるほどに。
プリムラはそのドサクサにまぎれて調理の手伝いをしようとしていたが、背中を押されて画面外に引っ込まされていた。
準備を終えたゴルドくんは、調理台に立つ。
ナイフをジャグリングのように操りつつ、曲芸さながらに調理を始めた。
まずは水質検査で問題なかった水を鍋に張り、コンロの上に載せて火をつける。
お湯が沸くまでの間、調達してきた肉に包丁を入れはじめる。
その肉はバスケットボールくらいある大きな塊で、霜の走った薄いピンク色であった。
「ゴルドっち、それ、何の肉なん?」
画角の外から、バーニング・ラヴの興味津々といった声が飛んでくる。
ゴルドくんは接客をするシェフのように答えた。
「メンリオンアームの肉です」
「ぶっ!?」と吹き出す音がした。
ゴルドくんが肉の塊にして持ってきたのは、大蛇を調理台で捌くのはグロテスク過ぎるだろうと判断したためである。
それは彼なりの気遣いではあったのだが、それでもやっぱりゲテモノの印象は拭えず、地下迷宮の内と外で、ざわっ……! とざわめきが走った。
これはチャンスだとばかりに、ジャンジャンバリバリが騒ぎたてる。
『ななっ、なんとぉー!? 野良犬は、モンスターの肉を調理しようとしているじゃぁーーーんっ!? 食材は部屋に揃っているというのに!? さすが普段からゴミあさりをしてる野良犬じゃん! 想像するだけで気持ちが悪いじゃんっ! ウゲエッ! リインカーネーション様、プリムラ様! ビッグバン・ラヴ! 逃げるじゃん! お腹壊しちゃうじゃん! ゲリピーになっちゃうじゃぁぁぁぁぁぁーーーーーーーんっ!!』
フォロワーたちも、やっと野良犬の失点らしきものにありつけたので、鬼の首を取ったかのよう。
「野良犬がどんなに凄くても、やっぱりしょせんは野良犬ね! モンスターの肉を食べるだなんて、悪趣味極まりないわ!」
「そうそう! あんなのを食べさせられる聖女様たちやビッグバン・ラヴはかわいそうだわぁ!」
「ほんとほんと! 何だかんだ言っても、やっぱり最後は勇者様よね! 同行してるファンも、ゼピュロス様のためにお料理ができるんだから、本当に幸せよねぇ!」
わんわん騎士団が「モンスターはうまーいっ! 我々は、モンスター食を支持するーっ!」と叫んでも、賛同者は少なかった。
無理もない。
この世界にはまだ、モンスターを食べる習慣がないのだ。
そんな観客たちの反応はもちろん、調理人には届いていない。
彼は見事な包丁さばきで、テキパキと下ごしらえを進めていた。
メンリオンアームの肉を、向こう側が透けて見えるほどに薄くスライス。
お湯が沸いたので、調達してきた野菜のようなものを細かく刻んで鍋に放り込む。
「その草みたいなのは?」
「ツチノカタビラ、ミズシバ、ハルメクサなどの、この地下迷宮に生えている野草です。それぞれ単体では苦味や臭みがあって食べにくいのですが、下処理をちゃんとすればレタスや水菜のようになって美味しいんですよ」
シェフや野草を湯がきながら、次はラグビーボールほどもある卵を割り、ボウルに分けた。
カエルの卵のような中身に「うえっ」と嫌そうな声が漏れる。
「「それ、ナニ……?」」
不安そうにハモるビッグバン・ラヴ。
しかし答えたのはゴルドくんではなかった。
「それは『アーミーバット』というコウモリの卵です。バットという名が付いていますが、鳥類だそうですよ。ひとつの卵の中から、30匹から50匹ほどが生まれるので、あんなに大きくて、黄身がたくさん詰まっているんです。卵焼きにすると、とっても美味しいんですよ」
誰かの受け売りのよう話すプリムラに、食卓の注目が集まる。
「プリっち、なんでそんなに詳しいん? もしかしてあの卵、食べたことあるん?」
「はい。以前こちらの地下迷宮にお伺いしたときに、おじ……スラムドッグマートの社長様に作っていただいたんです。卵のことも、そのときにお教えいただきました」
まるで新婚旅行を思い出しているかのように、微笑む聖少女。
彼女がとても幸せそうに語っていたので、卵のゲテモノ感も多少和らいだ。
「ふーん、なら安全じゃん」
「社長って、ゴルドウルフさんのことだよね? あのちょっと渋いカンジの、コワモテのオジサン」
「シャオマオも、最初見たときは蛇頭のボスかと思ったね。でも話してみるとやさしい人だったね」
「はい! とっても素敵なお方です! わたしがいちばん尊……い、いいえ! 敬愛しゅる、お、お方で……い、一生、おそばについて……!」
顔をトマトばりに真っ赤しながら、ちらりとゴルドくんの様子をうかがう聖少女。
『尊敬している』をわざわざ『敬愛している』に言い換えて、『愛している』の部分を立てて発音するという、彼女にとってはかつてないほどに大胆で、勇気を振り絞った告白であったのだが……。
緊張のあまり、思いっきり噛んでしまっていた。
そしてさらに、
「ずるいずるい、ずるーーーーーーいっ!!」
隣でワナワナと震えていた姉の、突如とした雄叫びにかき消される始末。
「わあっ!? 急にどうしたん、マザーっ!?」
「ふーん、びっくりじゃん」
「お、落ち着いてください、お姉ちゃん!」
「どうしたね!? なにか嫌なことでもあったね!?」
胸を振り乱し……いや、振り回されるようにして、全身でイヤイヤをする、ワガママ大聖女。
両隣に座っていたプリムラとシャオマオがなだめようとしていたが、顔面に巨大マシュマロをくらってのけぞっていた。
「あぁん、プリムラちゃん、ずるいわぁ! ゴルちゃんの作った卵焼きを、ママに内緒で食べていただなんて……!」
「ご、ごめんなさい、お姉ちゃん! だってお姉ちゃんにお伝えすると、こんな風に駄々っ子になって、おじさまにご迷惑をおかけすると思いまして……!」
かつてプリムラは、グラスパリーンの昇進試験を手伝うために、この『不死王の国』を訪れていたことがあった。
その時にゴルドウルフから、アーミーバットの卵焼きを作ってもらったことがある。
それは絶品だったのだが、留守を守ってくれていた姉には内緒にしておいた。
言ってしまうと、どうしても自慢話のように取られてしまうと判断したためである。
そしてもしバレてしまったら最後、姉は暴走モードに突入。
同じ卵焼きを口にするまで、青猫ロボットにすがるようにゴルドウルフにしがみついて離れなくなるだろうと思ったのだ。
「ふーん、よくわかんないけど……。これから食べられるんだしいいじゃん」
「そーそー! あーしは最近ダイエットしてて、あんまりいらないから、あーしの分もあげるって!」
「あっ、できたようね!」
少女たちが、ガールズトークを炸裂させている間に料理は完成。
両腕に、料理が載った皿をいくつも乗せたゴルドくんがやってきて、ウエイターのように丁寧にテーブルに並べていく。
ほかほかと湯気をたてるそれらを目の当たりにした途端、
「ふわっ!? ……ふわぁぁぁぁぁぁ……!」
調理の最中とは真逆の、まるで夢見るようなリアクションが……。
食卓を、観客席を……国じゅうを、席巻したっ……!
天下 一様よりレビューを頂きました、ありがとうございます!
そして次回、ゴルドくんの料理のお味に、バーニング・ラヴが…!





