↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
9/34

第九話 閉ざされた倉庫

 錆びついた錠前を見つめながら、桐生はヨハンへ視線を向けた。


「この倉庫には何があったんですか。」


 ヨハンはすぐには答えなかった。


 杖で地面を一度叩き、小さく息を吐く。


「昔は、この塩田で一番忙しい場所だった。」


「塩を乾かし、保管し、商人へ渡す。」


「港へ向かう荷馬車は、全部ここを通った。」


 エレノアが封印へ目を向ける。


「それが、どうして閉鎖に……。」


「先代様の頃だ。」


 ヨハンの声が低くなる。


「ある日、倉庫で火事が起きた。」


「幸い死人は出なかったが、塩も帳簿も燃えた。」


「それ以来、『危険だから使うな』と封印された。」


 桐生は封印に触れた。


 真新しい。


 数年前のものには見えない。


「封印は最近貼り直されていますね。」


 ヨハンは少し驚いた顔をした。


「……よく見てるな。」


「半年前だ。」


「王都から役人が来て、勝手に貼り替えていった。」


 桐生は眉をひそめる。


「理由は?」


「聞いても『命令だ』の一言さ。」


 ガイルが鼻を鳴らす。


「役人らしい答えだ。」


 桐生は何も言わず、倉庫の周囲を歩き始めた。


 壁。


 窓。


 搬入口。


 地面には、古い荷車の轍が何本も残っている。


 しかし、人が出入りした形跡はほとんどない。


「ヨハンさん。」


「この倉庫が閉まって、一番困ったのは誰ですか。」


「全員だ。」


 老人は迷わず答えた。


「塩を置く場所が減った。」


「荷馬車は外で順番待ち。」


「雨の日は荷が濡れる。」


「積み込みも遅くなった。」


 桐生は静かに頷いた。


「だから荷馬車が渋滞する。」


「だから焦って事故が増える。」


「……そういうことか。」


 エレノアもようやく繋がった。


 事故が原因ではない。


 事故は結果だった。


「なら倉庫を開ければ!」


 ガイルが勢いよく言う。


 だがヨハンは首を振る。


「無理だ。」


「封印を破れば王都への反逆になる。」


 その時だった。


「その通りです。」


 聞き覚えのある声が背後から響く。


 一同が振り返る。


 そこには黒い礼装を纏ったレオンが立っていた。


「レオン…!」


 エレノアが息を呑む。


 レオンは倉庫を一瞥すると、桐生へ視線を向けた。


「約束は三十日です。」


「初日から法を破るつもりですか。」


 ガイルが前へ出ようとする。


 しかし桐生は手で制した。


「いいえ。」


「法を破るつもりはありません。」


「なら、この倉庫は諦めてください。」


 レオンは淡々と言う。


「王都の命令です。」


「理由もなく封印したわけではありません。」


 桐生は少し笑った。


「安心しました。」


 レオンが眉を上げる。


「何がです。」


「理由があると聞けて。」


「その理由を教えていただけませんか。」


 レオンは数秒だけ黙った。


「……職務上、お答えできません。」


「そうですか。」


 桐生はそれ以上追及しなかった。


 代わりに封印を見つめる。


「なら、私は別の方法を探します。」


 レオンは静かに桐生を見つめた。


「その方が賢明です。」


 そう言い残し、踵を返す。


 数歩歩いたところで、不意に立ち止まった。


「一つだけ。」


 振り返らずに言う。


「答えは、倉庫の中だけにあるとは限りません。」


 そのままレオンは去っていく。


 桐生は小さく笑った。


「ヒントをくれましたね。」


 エレノアが首を傾げる。


「今のが……ですか?」


「ええ。」


 桐生は塩田全体を見渡した。


「問題は倉庫じゃない。」


「物流全体です。」


「倉庫を開けなくても、やれることはある。」


 その目には、すでに次の一手が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。