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第六話 最初の仲間

 ヴァレンス商会の応接室。


 窓の外では、先ほど出港した船が水平線の向こうへ消えていく。


 誰も口を開かなかった。


 最初に沈黙を破ったのはリディアだった。


「支配人。」


「はい。」


「今日、どれくらい早く終わりましたか。」


 支配人は帳簿をめくりながら答える。


「第五岸壁だけで二刻ほど短縮されています。」


「他の岸壁も荷馬車の滞留が解消しました。」


「……信じられません。」


 リディアは小さく息を吐く。


「私たちは港を広げることばかり考えていました。」


「倉庫を増やす。」


「人を雇う。」


「船を増やす。」


「ですが、あなたは違った。」


 桐生は首を振る。


「私は何も作っていません。」


「流れを整えただけです。」


 リディアは苦笑する。


「それが一番難しいのです。」



 商会を出た帰り道。


 エレノアは興奮を隠せなかった。


「すごかったです!」


「港のみんな、本当に動きが変わっていました!」


 ガイルも腕を組みながら笑う。


「俺はてっきり商人を説得するだけかと思っていた。」


「まさか現場へ飛び込むとはな。」


 桐生は少しだけ空を見上げた。


「現場を見ない提案は、だいたい失敗します。」


「現場には必ず答えがあります。」


 その言葉に、エレノアは感心したように頷く。


 だが、その表情はすぐ曇った。


「でも……。」


「これで領地は助かるんでしょうか。」


 桐生は歩みを止めた。


「いいえ。」


「まだ何も解決していません。」


 二人が驚く。


「港が速く回るようになっても、お金は突然増えません。」


「商人が儲かる仕組みはできました。」


「でも、領地はまだ儲かっていない。」


 ガイルが眉をひそめる。


「何が違う。」


「利益を受ける人です。」


 桐生は港を振り返る。


「今、得をしたのは商人です。」


「領地は一枚も金貨を受け取っていません。」


 エレノアはハッとする。


「確かに……。」


「だから次です。」


「次?」


 桐生は静かに笑う。


「リディアさんは商人です。」


「利益にならないことはやらない。」


「逆に言えば。」


「利益になるなら、必ず動く。」



 その頃。


 ヴァレンス商会。


 リディアは一人、港を眺めていた。


「リディア様。」


 支配人が帳簿を持って入ってくる。


「今日だけで終わらせますか?」


「……いいえ。」


「明日からも続けます。」


 支配人は驚いた。


「ですが、人件費が増えます。」


「ええ。」


 リディアは静かに笑う。


「それ以上に儲かりますから。」


 帳簿を閉じる。


「それより問題があります。」


「問題?」


「港が速くなれば、今まで以上に商品が集まります。」


「倉庫が足りません。」


「護衛も足りません。」


「宿も足りない。」


 支配人は目を見開いた。


「それは……。」


「新しい商売になります。」


 リディアは窓の外を見つめる。


「桐生誠。」


「あなたは港を変えたんじゃない。」


「商売を増やしてしまった。」



 その日の夕方。


 城へ戻った桐生たちを、一人の兵士が待っていた。


「領主様!」


「王都から使者が来ています!」


 兵士の表情は青ざめている。


「王都?」


 エレノアが息を呑む。


「何の用ですか?」


 兵士は震える声で答えた。


「税の徴収官です。」


「滞納した税を回収しに来ました。」


 桐生の表情が変わる。


 港を立て直す時間はできた。


 だが、王都は待ってくれない。


 城門の向こうには、豪華な紋章を掲げた馬車が静かに停まっていた。

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