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第十三話 仕組みは裏切らない

 翌朝。


 塩田には、普段より多くの人が集まっていた。


 職人だけではない。


 港の商人。


 近隣の農民。


 そして、王都の商人バルドも腕を組んでその様子を眺めている。


「随分と見物人が増えましたね。」


 エレノアが少し緊張した様子で呟く。


 桐生は小さく笑う。


「商売は勝つと人が集まります。」


「負けても、人が集まります。」


「だから今日は負けられません。」


 ヨハンが職人たちを集め、大きな声を張る。


「昨日決めた通りだ!」


「王都行き、港行き、村行きで荷を分けろ!」


「迷ったら止めるな! 俺を呼べ!」


 職人たちは一斉に動き出した。


 昨日まで怒鳴り合っていた荷馬車も、今日は列が自然と三つに分かれていく。


 バルドは黙ったまま、その様子を見つめていた。



「親方!」


 一人の若い職人が駆け寄る。


「王都行きの荷が予定より早く終わります!」


「港行きを回せ!」


 ヨハンが即座に指示を飛ばす。


 すると、今度は別の職人が叫んだ。


「こっちは荷車が足りません!」


「三台回せ!」


 誰かが判断を待つことはない。


 止まらない。


 迷わない。


 昨日までとは別の塩田だった。


 ガイルが感心したように呟く。


「まるで軍隊だな。」


 桐生は首を振る。


「違います。」


「軍隊は命令で動きます。」


「これは目的で動いています。」



 昼を過ぎた頃だった。


 バルドの部下が慌てて駆け寄ってきた。


「旦那!」


「荷馬車が足りません!」


「追加で呼びますか!」


 バルドは舌打ちした。


「……呼べ。」


「すぐにだ。」


 そのやり取りを見ていたリディアが、小さく笑う。


「桐生さん。」


「勝負は決まりましたね。」


「いいえ。」


 桐生は視線を外さない。


「ここからです。」


「え?」


「相手は二十年、商売をしてきた人です。」


「この程度では終わりません。」


 その言葉どおりだった。


 バルドは部下へ何か耳打ちする。


 部下は馬に飛び乗り、王都街道へ駆け出していった。


 ヨハンが眉をひそめる。


「何を企んでやがる。」


 桐生は答えない。


 ただ、街道の先を見つめていた。



 夕方。


 土煙を上げながら、新たな荷馬車が姿を現した。


 一台。


 二台。


 三台。


 ……十台。


 塩田の職人たちがざわめく。


「十台も……。」


「全部、王都の荷馬車だ。」


 バルドは満足そうに笑った。


「確かに出荷量は増えた。」


「なら、こちらも運ぶ量を増やせばいい。」


「これで全部買い取れる。」


 リディアの表情が曇る。


「そんな……。」


 バルドは最初から勝負に負けるつもりなどなかった。


 出荷が増えれば、自分も荷馬車を増やす。


 資金力で押し切る。


 それが王都最大級の商人のやり方だった。


 ガイルが悔しそうに拳を握る。


「金の力か……。」


 しかし。


 桐生だけは笑っていた。


「ようやく、本気になってくれました。」


 バルドが眉をひそめる。


「何がおかしい。」


「バルドさん。」


 桐生は静かに一歩前へ出る。


「あなた。」


「一番大事なことを忘れています。」


 潮風が吹き抜ける。


 バルドの笑みが、初めて消えた。

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