表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

## 童話 強欲なドワーフ

--


強欲なドワーフ


昔々、黒い山の底に、ドワーフたちの国がありました。


その山はたいそう深く、いちばん上では鷲が飛び、いちばん下では昼も夜もわからぬほどでした。

ドワーフたちは岩をくりぬいて家をつくり、火の川のそばに炉を並べ、槌の音を響かせながら暮らしておりました。


山の底には、よい鉱石がいくらでも眠っていました。

鉄も、銅も、銀も、ときには金さえ出ました。

ドワーフたちは丈夫な鎧を打ち、細かな細工をほどこした杯をつくり、大いに栄えました。


けれど、どんな山でも、腹の中は無限ではありません。


百年掘り、また百年掘るうちに、鉱脈はやせ、坑道は長く長く伸びました。

若い鉱夫が一日かけて掘っても、つるはしの先に火花が散るばかりで、碌な鉱石は出なくなりました。

炉の火は弱り、倉の中身は減り、ドワーフたちは顔を曇らせました。


そこで長老たちは相談し、森に住むエルフと、人間の魔導士のもとへ使いを出しました。


「火と土の精霊に頼み、山の奥に眠る鉱石を早く育てることはできぬか」


そう尋ねると、エルフはすぐに首を振りました。

人間の魔導士も、長いこと黙ったのちに言いました。


「できぬことはない。だが、すすめられぬ。

 山の中で百年かけて実るものを、ひと晩で呼び出すのは、土の理をねじ曲げることだ。

 急かされた精霊は、やがて怒る」


けれどドワーフたちは引き下がりませんでした。

何度も何度も頭を下げ、銀細工の皿を持ち、金糸を打ち込んだ短剣を贈り、どうか一度だけと頼み込みました。


とうとうエルフと人間の魔導士は折れました。


「一度だけだ。二度としてはならぬ」


そう言って、火と土の精霊へ古い言葉で祈りをささげました。


すると山は、まるで長い眠りから急に目を覚ましたように、ふたたび豊かな鉱石を吐き出しました。

赤い銅が脈をなし、銀がきらめき、黒い岩のあいだから金さえのぞきました。


ドワーフたちは大喜びしました。

消えかけていた炉はまた燃え上がり、街には新しい広間がつくられ、柱には鉄と真鍮の飾りが巻かれました。

王の椅子は高くなり、杯は大きくなり、宝物蔵の扉は二重になりました。


けれど、宝が増えると、心の底には別の穴があくものです。


はじめのうち、ドワーフたちはこう言っておりました。

「冬を越すためだ」

「子らに腹いっぱい食べさせるためだ」

「炉の火を消さぬためだ」


ところがそのうち、こう言うようになりました。

「隣の一族より大きな広間がほしい」

「王冠にもっと宝石を打ちたい」

「まだ掘れる、まだ取れる、もっともっと山から出せる」


ついに長老たちは、もう一度エルフと人間の魔導士のもとへ参りました。


けれど二人は、今度は贈り物に目もくれませんでした。


「ならぬ」

エルフは冷たく言いました。

「一度でやめておけば、山は静かだった」


人間の魔導士も申しました。

「二度目は、もう助けではない。欲だ」


それでもドワーフたちは諦めませんでした。


頼んでもだめなら、ほかをあたればよい。

そう考えた者たちは、誰にも告げず、山の向こうの暗い森へ出かけました。

そこには、月の光も嫌うダークエルフたちが住んでいたのです。


ドワーフたちが事情を話すと、ダークエルフは声も立てずに笑いました。

そして言いました。


「よろしい。山がほしいのなら、いくらでも目を覚まさせてあげましょう」


その笑い方を見て、ぞっとした者もいました。

けれど、金の重みに慣れた手は、もう引き返しませんでした。


その夜、儀式が行われました。

火は青く燃え、土は脈打つようにふるえ、坑道の奥からは、眠っていたものが寝返りを打つような音がしました。


翌朝、鉱山には見たこともないほどの鉱石があふれていました。

壁を削れば銀がこぼれ、床を割れば銅がのぞき、柱の根元には金の筋が走っていました。


ドワーフたちは歓声を上げました。

笑い、運び、掘り、打ち、また掘りました。

誰も、坑道の奥から混じりはじめた妙な音に、耳を貸しませんでした。


最初に消えたのは、いちばん若い鉱夫でした。

つぎに、見回りの兵が戻りませんでした。

そのうち坑道の壁が内側から脈打ち、岩の裂け目から、土とも石ともつかぬものが這い出すようになりました。


それらは獣のようでいて獣ではなく、岩のようでいて岩でもありませんでした。

腕の先はつるはしのように尖り、口の中では炉の火のような赤いものが明滅していました。

中には、金属のかけらを食いちぎりながら進むものもありました。

中には、のみ込んだドワーフの声で、「もっと掘れ」と囁くものもあったといいます。


火と土の精霊は炉を壊し、柱を砕きました。

天井は裂け、道は崩れ、石の街は悲鳴に満ちました。


逃げおくれた者は怪物に裂かれ、奥へ奥へと逃げこんだ者は、二度と戻りませんでした。

命からがら地上に這い出したドワーフたちは、振り返りもせず山を捨てました。


こうして、かつて栄えた地下の国は、一夜にして滅びました。


そののち、逃げのびたドワーフたちはエルフのもとへ行き、助けを求めました。

するとエルフは、長いこと黙っておりましたが、やがて静かに言いました。


「山は、おまえたちに罰を与えたのではない。

 ただ、奪われすぎたぶんを返してもらっただけだ」


ドワーフたちはうなだれました。

けれど、失ったものは戻りませんでした。


それからというもの、ドワーフはエルフを恨み、エルフはドワーフを信用しなくなりました。

ふたつの民のあいだには、長い長い溝ができたのです。


そして今でも、あの黒い山には誰も近づきません。


夜になると、ふもとには赤い火がちらつき、

風もないのに、地の底から槌の音が聞こえるからです。

カン、カン、カン、と。

まるで、まだ誰かが掘りつづけているように。


欲の深い者がその音を追って山へ入ると、

朝になっても戻らない、と申します。


おしまい。


---


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ