## 童話 強欲なドワーフ
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強欲なドワーフ
昔々、黒い山の底に、ドワーフたちの国がありました。
その山はたいそう深く、いちばん上では鷲が飛び、いちばん下では昼も夜もわからぬほどでした。
ドワーフたちは岩をくりぬいて家をつくり、火の川のそばに炉を並べ、槌の音を響かせながら暮らしておりました。
山の底には、よい鉱石がいくらでも眠っていました。
鉄も、銅も、銀も、ときには金さえ出ました。
ドワーフたちは丈夫な鎧を打ち、細かな細工をほどこした杯をつくり、大いに栄えました。
けれど、どんな山でも、腹の中は無限ではありません。
百年掘り、また百年掘るうちに、鉱脈はやせ、坑道は長く長く伸びました。
若い鉱夫が一日かけて掘っても、つるはしの先に火花が散るばかりで、碌な鉱石は出なくなりました。
炉の火は弱り、倉の中身は減り、ドワーフたちは顔を曇らせました。
そこで長老たちは相談し、森に住むエルフと、人間の魔導士のもとへ使いを出しました。
「火と土の精霊に頼み、山の奥に眠る鉱石を早く育てることはできぬか」
そう尋ねると、エルフはすぐに首を振りました。
人間の魔導士も、長いこと黙ったのちに言いました。
「できぬことはない。だが、すすめられぬ。
山の中で百年かけて実るものを、ひと晩で呼び出すのは、土の理をねじ曲げることだ。
急かされた精霊は、やがて怒る」
けれどドワーフたちは引き下がりませんでした。
何度も何度も頭を下げ、銀細工の皿を持ち、金糸を打ち込んだ短剣を贈り、どうか一度だけと頼み込みました。
とうとうエルフと人間の魔導士は折れました。
「一度だけだ。二度としてはならぬ」
そう言って、火と土の精霊へ古い言葉で祈りをささげました。
すると山は、まるで長い眠りから急に目を覚ましたように、ふたたび豊かな鉱石を吐き出しました。
赤い銅が脈をなし、銀がきらめき、黒い岩のあいだから金さえのぞきました。
ドワーフたちは大喜びしました。
消えかけていた炉はまた燃え上がり、街には新しい広間がつくられ、柱には鉄と真鍮の飾りが巻かれました。
王の椅子は高くなり、杯は大きくなり、宝物蔵の扉は二重になりました。
けれど、宝が増えると、心の底には別の穴があくものです。
はじめのうち、ドワーフたちはこう言っておりました。
「冬を越すためだ」
「子らに腹いっぱい食べさせるためだ」
「炉の火を消さぬためだ」
ところがそのうち、こう言うようになりました。
「隣の一族より大きな広間がほしい」
「王冠にもっと宝石を打ちたい」
「まだ掘れる、まだ取れる、もっともっと山から出せる」
ついに長老たちは、もう一度エルフと人間の魔導士のもとへ参りました。
けれど二人は、今度は贈り物に目もくれませんでした。
「ならぬ」
エルフは冷たく言いました。
「一度でやめておけば、山は静かだった」
人間の魔導士も申しました。
「二度目は、もう助けではない。欲だ」
それでもドワーフたちは諦めませんでした。
頼んでもだめなら、ほかをあたればよい。
そう考えた者たちは、誰にも告げず、山の向こうの暗い森へ出かけました。
そこには、月の光も嫌うダークエルフたちが住んでいたのです。
ドワーフたちが事情を話すと、ダークエルフは声も立てずに笑いました。
そして言いました。
「よろしい。山がほしいのなら、いくらでも目を覚まさせてあげましょう」
その笑い方を見て、ぞっとした者もいました。
けれど、金の重みに慣れた手は、もう引き返しませんでした。
その夜、儀式が行われました。
火は青く燃え、土は脈打つようにふるえ、坑道の奥からは、眠っていたものが寝返りを打つような音がしました。
翌朝、鉱山には見たこともないほどの鉱石があふれていました。
壁を削れば銀がこぼれ、床を割れば銅がのぞき、柱の根元には金の筋が走っていました。
ドワーフたちは歓声を上げました。
笑い、運び、掘り、打ち、また掘りました。
誰も、坑道の奥から混じりはじめた妙な音に、耳を貸しませんでした。
最初に消えたのは、いちばん若い鉱夫でした。
つぎに、見回りの兵が戻りませんでした。
そのうち坑道の壁が内側から脈打ち、岩の裂け目から、土とも石ともつかぬものが這い出すようになりました。
それらは獣のようでいて獣ではなく、岩のようでいて岩でもありませんでした。
腕の先はつるはしのように尖り、口の中では炉の火のような赤いものが明滅していました。
中には、金属のかけらを食いちぎりながら進むものもありました。
中には、のみ込んだドワーフの声で、「もっと掘れ」と囁くものもあったといいます。
火と土の精霊は炉を壊し、柱を砕きました。
天井は裂け、道は崩れ、石の街は悲鳴に満ちました。
逃げおくれた者は怪物に裂かれ、奥へ奥へと逃げこんだ者は、二度と戻りませんでした。
命からがら地上に這い出したドワーフたちは、振り返りもせず山を捨てました。
こうして、かつて栄えた地下の国は、一夜にして滅びました。
そののち、逃げのびたドワーフたちはエルフのもとへ行き、助けを求めました。
するとエルフは、長いこと黙っておりましたが、やがて静かに言いました。
「山は、おまえたちに罰を与えたのではない。
ただ、奪われすぎたぶんを返してもらっただけだ」
ドワーフたちはうなだれました。
けれど、失ったものは戻りませんでした。
それからというもの、ドワーフはエルフを恨み、エルフはドワーフを信用しなくなりました。
ふたつの民のあいだには、長い長い溝ができたのです。
そして今でも、あの黒い山には誰も近づきません。
夜になると、ふもとには赤い火がちらつき、
風もないのに、地の底から槌の音が聞こえるからです。
カン、カン、カン、と。
まるで、まだ誰かが掘りつづけているように。
欲の深い者がその音を追って山へ入ると、
朝になっても戻らない、と申します。
おしまい。
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