## 第四章「元凶」
地下都市の一角に、小さな部屋が並ぶ区画があった。
居住区だ。家族単位で暮らしていたのだろう——部屋が一つ一つ独立しており、それぞれに炉の跡がある。石作りの棚、崩れた寝台、食器の残骸。
プラムが一つの部屋に入って、しばらくして出てきた。
「これ、子供用ですね」と言った。
小さな椅子を一脚、手に持っていた。石製だ。座面が擦り減っている。長く使われた椅子だ。誰かがここに座って、食事をして、眠っていた。
「石の椅子って……さすがドワーフですね。重い。すごく座りにくそうだ」プラムが持ち上げた腕を震わせながら言った。
「腕力が鍛えられるぞ」ドルフが振り返りもせずに言った。
「きっとベッドも石なのよ。硬そう」リーンが部屋の奥を覗き込みながら呟いた。
「その硬いのが良いんだろ。軟弱な奴らだ」ドルフが鼻を鳴らした。
プラムは椅子を元の場所に戻しに部屋へ入り、また出てきた。
棚の奥に、素朴な食器が残っていた。一般の家だ。贅沢品はほとんどない。持ち出せなかったのか、戻るつもりで置いていったのか——どちらにしろ、数百年間ここにある。
いくつかの部屋を見て回った。どこも似たようなものだった。生活の痕跡はあるが、財宝と呼べるものはない。ここは鉱山で暮らす一般のドワーフの住まいだったのだ。
プラムが周囲を見回して言った。「あれ——ガルドは?」
全員が足を止めた。見回した。ガルドがいない。
「さっきまでいたのに」とリーンが言った。
「居住区に入ったあたりで離れたな」ドルフが眉を寄せた。「探すぞ」
居住区を戻りかけたとき、広場の近くに一際立派な門構えの建物があるのが目に入った。他の部屋とは明らかに造りが違う。石の扉が半開きになっている。門柱に紋章が刻まれていた。鉱山ギルドの事務所か、あるいは教会のような施設だろう。
中に明かりが揺れていた。
ドルフが先に入った。アレクが続いた。
ガルドがいた。
広い部屋だった。壁面に棚が並び、石板の書類や記録類が積まれている。その奥——祭壇のような台の上に、金細工や銀細工の礼器が並んでいた。一般の家とは違う。ギルドや教会に納められた貴金属だ。
ガルドは両手を動かしていた。銀の燭台を袋に入れ、金の紋章板を手に取って重さを確かめていた。足元にすでに膨らんだ袋がある。手際が良かった——品を見て、重量と価値を瞬時に判断している手つきだった。
「ガルド」とドルフが声をかけた。
ガルドは振り返らなかった。「冒険者なら当然だろ。ここにある物は持ち主がいない。数百年、誰も来なかった。持って帰らなきゃ、永久にここで腐るだけだ」
「重すぎるぞ」とドルフが言った。「動けなくなる」
「大丈夫だ、俺はドワーフだぞ。この程度の重さ——」
ガルドの手が止まった。アレクも感じた。足元が揺れている。
床の土が動いた。
最初、アレクは自分の足が地面を蹴ったのかと思った。しかし違う。事務所の床の石畳の隙間から、砂のようなものが吹き出している。壁にも同じことが起きていた。壁面に張りついていた土が、ゆっくりと剥がれ落ちている。自然落下ではない——集まっている。一箇所に、自分の意志で集まっている。
「伏せろ」とドルフが叫んだ。
土が人型になった。
床と壁から剥がれ落ちた土と石が、渦を巻くように集合し、人間の腰ほどの高さのずんぐりした人型を形成した。頭部がある。胴体がある。腕が二本ある。しかし目はない。口もない。ただ額の部分に、文字が刻まれていた。古い文字だ——アレクには読めた。
EMET。
真理。
「ゴーレムです」とエリスが短杖を構えた。声が硬い。「財産警備用のゴーレムだ。数百年間、主人なしで番をし続けている」
ゴーレムが動いた。遅くはなかった。石の拳を振り上げて、最も近くにいたドルフに殴りかかった。ドルフが戦斧で受けた。衝撃で腕が震えた。重い——土と石の塊がそのまま殴ってくるのだから当然だ。
二体目が壁から剥がれ落ちて形を取った。三体目が広場の隅で立ち上がった。
「厄介です」とアレクは言った。「土だから、斬っても自分で直せます」
ドルフの斧がゴーレムの肩を叩き割った。土が崩れた——しかし崩れた土がすぐに集まり直し、肩が再形成された。斬っても戻る。砕いても戻る。
「額だ」とドルフが言った。「額の文字を消せ。EMETの最初の一文字を消してMETにする。死の意味に変わる」
「倒し方を知ってるんですか」とプラムが投石器を構えながら聞いた。
「冒険者の常識だ」とドルフが石の拳を弾きながら言った。「ただし、額に手が届かん」
ゴーレムは低いが頑丈だった。正面から近づけば殴られる。横から回り込んでも、ゴーレムは体ごと回転して対応する。首を狙っても、土だから刃が通っても再生する。
プラムが動いた。
小柄な体がゴーレムの右側に走り、ゴーレムが体を回した瞬間に逆方向へ滑り込んだ。ソビットの身軽さだ。ゴーレムの背後に回り、その足元に屈み込んだ。手を伸ばした——届かない。額が高い。
「エリスさん!」
エリスが精霊魔法を使った。風の壁がゴーレムの正面から押した。ゴーレムの動きが一瞬止まった。プラムがゴーレムの背中をよじ登った。小さな手が額に届いた。指でEMETの最初の文字——E——を削り取った。
MET。
ゴーレムの動きが止まった。土が崩れた。今度は再生しなかった。ただの土に戻った。
「やった」とプラムが息を吐いた。
「あと二体です」とエリスが言った。
同じ手順を繰り返した。ドルフとアレクが正面で注意を引き、エリスの風で動きを止め、プラムが背後から額の文字を消す。リーンの矢が三体目の脚の付け根を崩して動きを鈍らせた。ガルドも片手斧でゴーレムの腕を弾いたが、袋を背負ったまま戦っていた。
三体を始末し終えた頃、ゴーレムの足元に転がっているものに気がついた。
人間の装備の残骸だった。
革のブーツ。金属のヘルメットの半分。砕けたランプ。鉱員の装備だ。穴をくぐってこちらに入ってきた鉱員たち——戻ってこなかった者たちの持ち物だ。遺体は見当たらない。ゴーレムに打たれたか、それとも——その先のことは考えたくなかった。
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「どうする」とドルフが言った。
全員が事務所の中で腰を下ろしていた。ゴーレム戦の疲労がある。しかしそれ以上に、この先をどうするかという問題があった。
「一度戻るべきでしょう」とアレクは言った。「ヴァルターに報告して、体勢を立て直す必要があります」
「だが、このまま帰るのはもったいない」ガルドが言った。袋を抱えたまま。
「財宝の話じゃない」ドルフが低く言った。「この鉱山の全体像を知りたい。どこまで深部が続いていて、精霊がどこにいて、どの範囲が危険なのか——それが分からなきゃ、戻っても次の手が打てん」
「資料があるかもしれません」エリスが事務所の棚を見回した。「ここはギルドの事務所です。鉱山の地図や記録が残っている可能性があります」
「探そう」ドルフが立ち上がった。
全員で棚を調べ始めた。石板の書類が多い。紙の資料もあった——乾燥した地下の空気のおかげか、意外なほど保存状態が良い。しかし大半はドワーフの古文字で書かれており、読める者がいない。
ドルフが棚の奥に手を入れて、何かを引き出した。
板状の表紙に革を張ったものだった。中は羊皮紙ではない——薄く削いだ石板が綴じられている。石板の面に、細かい文字が刻まれている。
ドルフがそれを手に持ったまま、アレクの方を見た。
「アレク」
それだけ言って、差し出した。
アレクが受け取った。ドワーフ文字だ。石板地図の実務記号とは違う、細かく複雑な文字が刻まれている。古文字だ。
知恵の書が反応した。胸の中で温かくなり、革表紙が自然に開いた。アレクが古文字に目を向けると、意味が浮かんできた——翻訳されているというより、意味だけが直接流れ込んでくる感覚だった。
「日記です」とアレクは言った。「読み上げます」
ドルフが無言で頷いた。焚き火の前に座った。他の五人も、自然に集まってきた。ガルドだけが少し遅れた。袋を降ろしてから来た。
アレクは読み始めた。
最初のページは、採掘量の記録だった。年ごとに数字が並んでいる。増えている時期があり、それから緩やかに、そして急激に減っている。グラフを文字にしたような記録だ。
途中から、記述の内容が変わった。
「採掘量を増やすための議論が始まった——精霊を強制駆動させて、鉱石の生成を短期間で促進させる計画です」
アレクは次の行を読んで、一瞬止まった。読み直した。間違いではなかった。
「精霊と対話できる者が必要だった。ドワーフは精霊と話せない。そこで——森のエルフの精霊使いに協力を求めた、と書いてあります」
リーンの体が固まった。
アレクはそれを見たが、止めなかった。止められなかった。
「エルフの精霊使いが精霊との交渉を担当した。制御石が精霊の体に埋め込まれた。精霊の声を聞きながら位置を定め、制御した——と書いてあります」
ドルフの手が膝の上で握られた。それだけだった。声は出さなかった。
リーンは動かなかった。座ったまま、弓を抱えたまま、焚き火の光に照らされた顔が白かった。
「制御は最初の段階では機能した、と書いてあります。鉱石の生成量が大幅に増えた。しかし精霊の状態が変わっていった——」
アレクは一度、止まった。
「動きがぎこちなくなり、周囲の石が揺れ始めた。制御石が精霊に幻聴を起こさせていた可能性がある、という記述があります。エルフの精霊使いが『精霊の声が変わった、止めるべきだ』と進言した。しかしドワーフの長はこれを退けた。採掘量が減ることを恐れて」
フィーアが体を固くした。アレクには分かった——彼女は精霊の声が届く。幻聴を起こさせた、という言葉の意味が、アレクより具体的に想像できているはずだ。フィーアが何か言いかけた。口が開いた。しかし声にならなかった。
「次のページは」とドルフが言った。声が低い。聞きたくないのだ、とアレクは思った。聞きたくないが、聞かなければならない。そういう声だった。
「制御が破綻しました。精霊が完全に暴走し、坑道内で多くの仲間が死んだ。エルフの精霊使いも死んだ。生き残った者が精霊を封印して、ここを去った——」
アレクはそこで少し間を置いた。次の行が重かった。
「——制御石は、精霊の体に埋め込んだままにした」
さらに次の行を読んだ。声が、自分でも硬くなっているのが分かった。
「外部には、ダークエルフの精霊使いが暴走を引き起こしたと伝えた。森のエルフの長にもそう報告した。エルフの側もこれを受け入れた——自分たちの精霊使いが関与していたことを認めれば、エルフの名が汚れるからだ。両者の合意のもとに、責任はダークエルフに着せた」
リーンが息を吸った。声にならない息だった。
「——と、最後に書いてあります」
アレクは石板の日記を膝に下ろした。
炎が揺れた。
長い沈黙があった。
ドルフが立ち上がった。
急だった。焚き火の前から立ち上がり、広場の方へ歩いていった。全員が見た。ドルフの背中が暗がりの中に消えた。何も言わなかった。足音だけが石の床に響いた。
何かが倒れる音がした。
石を蹴る音ではなかった。石の棚か、台か——何か重いものが床に叩きつけられた音だった。それから、もう一度。
プラムが立ち上がりかけた。アレクが首を振った。
三度目の音がして、それから静かになった。
しばらくして、ドルフが戻ってきた。
右手の拳の皮が剥けていた。壁か、棚か、何か硬いものを殴った跡だ。血が滲んでいる。ドルフはそれを拭わなかった。焚き火の前に座り直した。石板の日記を膝に載せた。古文字は読めない。しかし受け取った。
「俺たちの先祖は」とドルフは言った。声が平たかった。感情が消えたのではない。感情が多すぎて、どれも外に出てこないのだ。「精霊に石を埋め込んで、こき使って、壊して、制御石を抜きもしないで置き去りにした」
誰も口を挟めなかった。
「制御石をそのままにして——数百年、あいつをあの中に閉じ込めたまま——」
ドルフの声が途切れた。拳が膝の上で震えていた。それから、ドルフはリーンの方を見た。
「それだけじゃない。罪をダークエルフに着せた。お前たちの協力で」
リーンは動かなかった。
焚き火の光がリーンの顔を照らしていた。目を伏せていなかった。ドルフの目をまっすぐ見ていた。言い返さなかった。言い返せなかったのではない——言い返す権利がないと分かっている顔だった。
「知ってたのか」とドルフが聞いた。
「知らなかった」リーンの声が、普段と違った。明るさが全部消えていた。「あの童話しか知らなかった。ダークエルフが精霊を壊した、という——あの話しか」
「お前の一族が、あの嘘を作ったんだ」
「……そうね」
リーンが目を閉じた。それから開けた。声が絞り出すようだった。
「私の先祖が精霊の声を聞いて、制御石の位置を決めて、精霊が壊れていくのを横で見ていた。止めようとした——でも止められなかった。そして死んだ後、残った者たちが全部ダークエルフのせいにした」
ドルフは黙っていた。
「エルフの長も受け入れた——自分たちの名が汚れるから」リーンが弓を抱える手に力が入っていた。指が白くなっている。「あの童話は、嘘だったのね。私たちが作った嘘」
エリスが静かに言った。「縛られている感じがすると言ったのは、そういうことだったんですね」。声に力がなかった。
プラムが膝を抱えていた。小さな体が、さらに小さく見えた。
フィーアがアレクの肩の上で黙っていた。幻聴の中に閉じ込められた精霊のことを、考えているのだろう。声を奪われ、自分の声も聞こえず、外からの声も届かない——妖精にとって、それがどれほどの苦痛か。フィーアには分かっている。だから黙っている。
ミュエルがリーンの肩の上で光を消していた。妖精が光を消すのは——泣いているときだ。
長い沈黙があった。
ガルドが口を開いた。
「……で」
全員がガルドを見た。
「それはそれ、財宝は財宝だろう。先祖がどうとか、精霊がどうとか——それは済んだ話だ。問題は、この先の奥にもっと価値のあるものがあるってことじゃないのか」
沈黙が続いた。しかし種類が変わった。さっきまでの沈黙は悲しみの沈黙だった。今の沈黙は——ガルドを見る目の温度が変わったのだ。
ドルフが何も言わずにガルドを見た。長い一瞬があった。ガルドは目を逸らさなかった。
フィーアが低い声で言った。「……この人、なんなの」
アレクはフィーアに答えなかった。答えようがなかった。
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ドルフが顔を上げた。
目が据わっていた。壁を殴った直後よりも、今の方が怖い目をしていた。怒りが外に出なくなった——内に向かった目だった。
「……俺たちが、この始末をつけなきゃならん」
リーンが顔を上げた。
「私も」
声が小さかった。しかし、はっきりしていた。
「私も行く。私たちの先祖が手を貸して壊した精霊だもの。ドワーフだけの始末じゃない」
ドルフがリーンを見た。長い一瞬があった。
「……勝手にしろ」
それだけ言って、ドルフは目を閉じた。拒絶ではなかった。これ以上話す余裕がない、という声だった。
炎が小さく揺れていた。
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(第五章へ続く)




