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元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜【1,500,000pv感謝】  作者: 水縒あわし
王都編

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課外授業と、過保護な護衛団



 朝の光が差し込む冒険者ギルドの訓練場。




 俺の前には、緊張した面持ちで直立不動の姿勢をとる五人の新人冒険者が並んでいた。




「よし、全員揃ったな」



 俺は腕を組み、彼らを見渡した。




「今日の訓練は『要人警護』の実践だ。対象は非戦闘員。森やダンジョンでの魔物討伐とは勝手が違う。周囲の警戒はもちろん、対象に不安を与えない配慮も必要になる」



「はっ!」



 新人たちが声を揃える。



その表情には「どこの高官の護衛だろうか」という緊張と期待が混じっていた。




「……行くぞ」



 エドは彼らを連れてギルドを出た。




 隣を歩くクリスが、楽しそうにクスクスと笑っている。




「師匠、彼らの顔……これからドラゴン退治にでも行くような顔つきですよ」



「気が引き締まっていていいじゃないか。油断するよりマシだ」



 俺たちは石畳の道を歩き、目的地へと到着した。




 そこは領都にある初等学校の校門前だった。




「……え?」



 新人たちがぽかんと口を開ける。




 そこで待っていたのは、リュックを背負い、色とりどりの帽子を被った子供たちの集団だった。




「今日の任務は、この『お絵描き遠足』の護衛だ。目的地はここから三十分ほどの見晴らしの丘。……気を抜くなよ」



 俺が告げると、新人たちはガクッと膝を折るようにずっこけた。



          ◇



「あの……エドウィンさん。ただの写生大会ですし、こんなに物々しくなくても……」



 引率の女性教師が、剣を帯びた冒険者たちを見て苦笑いを浮かべた。




 彼女の背後では、子供たちが「冒険者だ!」「剣持ってる!」とざわめいている。




「備えあれば憂いなし、ですよ先生。この辺りは治安が良いですが、万が一ということもあります」



 俺は真面目な顔で答えた。




 まあ、本音を言えば過保護なのは自覚している。だが、ロウェナや子供たちがいる以上、万全を期すつもりだ。




「あ、エド! クリス! こっちこっち!」



 集団の中から、ロウェナが元気に手を振った。




 周りの子供たちが一斉に俺たちを見る。




「ねえロウェナちゃん、あのおじさんが『鬼教官』なの?」



「なんか強そう……怒ると怖いのかな?」



 ひそひそ話が聞こえてくる。



どうやら俺は子供たちの間では怖いと広まっているらしい。




 俺はため息をつきつつ、子供たちの列に並走するよう新人に指示を出した。




「総員、周囲警戒。列を乱さないように見守ってあげろ。……行くぞ」



「は、はい!」



 こうして、厳戒態勢の遠足が始まった。



          ◇



 領都を見下ろす丘の上は、穏やかな風が吹いていた。




 子供たちは思い思いの場所に座り込み、画用紙を広げて風景を描き始めている。




 新人たちは俺の指示通り、四方に散らばって警備をしていたが……魔物など出る気配もない。あまりに平和な時間だ。




「お兄ちゃん、その剣重い?」



 手持ち無沙汰になった新人の一人に、男の子が話しかけた。




「え? あ、ああ……少し重いけど、鍛えてるからな」



「すげー! これ、お花あげる!」



「あ、ありがとう……」



 普段は血なまぐさい訓練ばかり受けている新人が、子供の笑顔を向けられて照れくさそうに頬を緩めている。




 悪くない光景だ。




 俺は少し離れた木陰から、全体を見守っていた。




 視線の先には、友達と笑い合いながら、鉛筆を貸したり場所を譲ったりしているロウェナの姿がある。




「ロウェナちゃん、学校ではあんなにお姉さんなんですね」



 隣で記録係をしていたクリスが、目を細めて言った。




「……ああ。家とは違う顔だ」



 甘えん坊の末っ子気質だと思っていたが、外ではしっかりやっているらしい。




 俺は少し寂しく、そして誇らしい気持ちでその背中を見ていた。




 その時、一人の少年が困った顔で鉛筆をいじっているのが見えた。




 どうやら芯が折れてしまい、小さなナイフで削ろうとしているが上手くいかないようだ。




 俺は音もなく近づき、少年の前にしゃがんだ。




「貸してみな」



「え? あ、うん……」



 少年がビクッとしながら鉛筆を渡す。




 俺は腰のベルトから小ぶりのナイフを抜くと、サラサラと軽快な音を立てて木を削った。




 数秒後、完璧に尖った芯が現れる。




「道具の手入れは基本だ。……ほら」



「す、すげぇ! おじさん、魔法みたいだ!」



 少年の声に、周りの子供たちがわらわらと集まってきた。




「ねえ、おじさん本当に鬼なの?」



「悪い子食べちゃうって聞いたよ!」



 無邪気な質問攻めに、俺は苦笑した。




「誰がそんな嘘を教えたんだ。俺は鬼じゃないし、悪いことをしなきゃ怒らないさ。……ロウェナの友達なら尚更な」



 俺は努めて穏やかな声で答え、少年の頭をポンと撫でた。



 すると、子供たちの目がキラキラと輝き出した。




「なんだ、怖くないじゃん!」



「エドおじちゃん、優しい!」



「でしょ! エドは世界一強くて、頼りになるんだから!」



 ロウェナがどや顔で胸を張る。




 俺はバツが悪くなって立ち上がった。




「……おだてるな。ほら、絵の続きを描け」



          ◇



 帰り道もトラブル一つなく、無事に学校へ到着した。




「ありがとう、冒険者のお兄さんたち! またねー!」



 子供たちが元気に手を振って校舎に入っていく。




 それを見送る新人冒険者たちの顔は、出発前の緊張が嘘のように晴れやかだった。




「教官……魔物を倒すだけが仕事じゃないんですね。こういう任務も、悪くないです」



 一人の新人が、充実した顔で言った。




 俺は頷き、彼らの肩を叩いた。




「ああ。その笑顔を守るために剣があるんだ。それを忘れるなよ」



「はい!」



          ◇



 新人を解散させた後、俺とクリス、そしてロウェナの三人で帰路についた。




 夕焼けが街をオレンジ色に染めている。




「今日ね、みんながエドのことカッコいいって言ってたよ! クリスも王子様みたいだって!」



 ロウェナが嬉しそうに報告してくる。




「おだてても夕飯は豪華にならないぞ」



「ふふ。今日は良い課外授業でしたね、師匠」



 クリスがからかうように笑う。




 俺は何も言い返せず、ただロウェナの鞄を持ってやった。




 学校でのロウェナの姿と、子供たちの屈託のない笑顔。




 それを守る力が、今の俺たちにはある。



それだけで、今日の仕事は満点だと思えた。



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