表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元衛兵は旅に出る〜衛兵だったけど解雇されたので気ままに旅に出たいと思います〜【1,500,000pv感謝】  作者: 水縒あわし
王都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

160/180

西からの風と、奇妙な捜索願

 


 夕暮れ時の冒険者ギルド。




 新人たちの野外演習の引率を終えた俺とクリスは、報告書を提出するためにカウンターへ向かっていた。




 ギルド内は一日の仕事を終えた冒険者たちの喧騒に包まれ、いつも通りの平和な空気が流れている。




「エドウィンさん、クリスさん。ちょっとマスター室へ……変な依頼が来ているんです」



 顔馴染みの受付嬢エミリーが、困ったような、少し興奮したような顔で手招きしてきた。



          ◇



「これなんだがな……」




 ギルドマスターが重厚な机の上に広げたのは、一枚の依頼書だった。




 内容は『人探し』。



驚くべきは、その報酬額だ。破格の金貨五十枚。




「依頼主は、西方の有力貴族の代理人だ。探しているのは犯罪者ではなく、三年前に家を出奔した貴族の息子らしい」



 マスターが手配書を指差しながら読み上げる。



「特徴は……『年齢は二十歳前後。金髪で、教養があり、計算や書類仕事に長けている。また、ある程度の武術の心得あり』……だそうだ」



 マスターが冗談めかして笑った。




「これ、ふんわりとした特徴だが、クリス君にも当てはまるんじゃないか? 年齢も外見も、頭の良さも。おまけに君も最初は剣を使っていたらしいしな? ハハハ、まさかな!」




「そうですよね。ただの偶然ですよね?」



 エミリーも笑いながら同意を求める。




 俺も冗談だと思ったが、隣のクリスを見た瞬間、少しだけ違和感を覚えた。




 クリスは表情を一切崩さず、完璧な愛想笑いを浮かべていた。




 しかし、彼が手に持っていた報告書の束が、指の力でミシミシと音を立てていたのだ。




「ええ。よくある特徴ですよ。それに、僕は貴族の息子などではなく、ただの商家の息子ですから。読み書きや計算が得意なのも、店の手伝いをするために勉強させられただけです。歴史などに詳しいのは、単に本を読むのが好きだったからですよ」



 クリスは淀みなく、落ち着いた丁寧な口調で答えた。




 確かに、実家の商売を手伝うための勉強や、個人の趣味と言われれば、周囲を納得させるだけの筋が通っていた。




 だが、彼の額には、一筋の冷や汗が流れていた。




「……マスター。この依頼、ギルドとして大々的に動くのはやめましょう。条件が曖昧すぎますし、貴族の跡目争いやお家騒動に関わる人探しなど、冒険者にとってはトラブルの元です」



 クリスは珍しく強い口調で進言し、その場を強引に終わらせた。



          ◇



 ギルドを出て、家へと向かう帰り道。




 夕暮れの空は赤く染まり、カラスの鳴き声が響いていた。




 俺はしばらく無言で歩いていたが、人通りが少なくなった路地で口を開いた。




「……お前の実家か?」



 クリスはピタリと足を止め、深くため息をついた。




「……師匠には隠せませんね」



 振り返ったクリスの顔から、いつもの柔らかな笑みが消えていた。




 その立ち姿には、隠しきれない品の良さと、背負ってきたものの重さが滲み出ている。




「ええ。あれは私の実家……ハイモア家からの手配書です。親が敷いたレールと優秀な兄弟たちから逃げるように家を出て三年……見つかるのが、予想より早すぎました」



「……」



「彼らは私を連れ戻すためなら、手段を選びません。このままでは、師匠やロウェナちゃんにも迷惑がかかる……」



 クリスは俯き、「ここを出ていくべきかもしれない」という言葉を飲み込んでいるようだった。




 俺は頭を掻き、大きなため息を一つ吐いた。



          ◇



「あ、エド! クリス! おかえりー!」



家のドアを開けると、先に帰っていたロウェナが、パタパタと足音を立てて出迎えてくれる。




 エプロン姿の彼女を見て、俺は小さく笑った。平和な我が家だ。




 俺はロウェナの頭をガシガシと撫でながら、クリスに向かってボソッと言った。




「迷惑なんざ、今更だ」



「……え?」



「お前は俺の弟子で、家族同然だ。おまけに今はギルドの事務での仕事もある。……俺の身内に手出しする奴は、西の貴族だろうが何だろうが容赦せんぞ」



 俺はクリスの肩を力強く叩いた。




「逃げる必要はない。腹を括れ」



 クリスは目を丸くし、それから少しだけ泣きそうな顔で、いつもの真っ直ぐな笑みを浮かべた。




「……はい。肝に銘じます、師匠」



 夜の帳が下りる頃。




 窓の外、遠くの街角に、ギルドに依頼を出したと思われる身なりの良い男が、こちらの屋敷をジッと見上げていることに、俺たちはまだ気づいていなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ