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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
70/134

侵攻 4

*   *   *




 刻峰二等兵らが移動を始めたのと同じくらいのタイミングで他の面々の多くも行動を開始していた。



 徳長軍曹は単身敵の防衛陣地に突っ込み、狭い空間の中で存分に剣術の腕を振るう。狭い通路、うかつに撃てない。味方への誤射を恐れた敵兵たちも、銃剣やナイフを使った接近で応じるしかなく。そして接近戦においての戦力は、徳長軍曹に勝るものではない。


 一斬。敵の生首が飛ぶ。


 一斬。敵の胴体が切り開かれる。


 一斬。敵が銃剣でガードしたのを見るや刃に力を籠め、敵の銃剣の峰部分が頭に食い込み脳を破壊。



 鬼神のような暴れっぷりに、敵兵たちはなすすべもない。


 その殺戮劇は延々と続き、遂に味方の突撃兵が到着するまで実に数十人規模の敵を葬るに至る。



 「徳長軍曹、後はお任せを!」


 士気高き突撃部隊の面々が、残りの敵兵たちへと一斉に襲い掛かる。徳長一人に苦戦していた敵兵たちは、抵抗して死ぬか諸手を掲げて運よく生き残るかの二択を迫られることになる。



 結局、半数の敵は負けを認めて武器を捨て、目に涙を浮かべつつも生き残る道を選んだ。



 「……流石に、これ以上はキツイか」

徳長は愛刀を眺めつつ、その刃の鈍り具合を確かめる。もう十人も切れば、彼の中でこの刀は鈍器と化していたところだ。


 「それにしても、勇敢な連中だ」


 目の前の光景を見て、彼はそう呟く。


 別に、敗北を認めて降伏することは何ら気になることではない。むしろ、”無意味”な死を選ぶくらいなら合理的に生存できる道を選んだほうが良いに決まっている。実際、徳長軍曹が殺しきらなかった残りの敵連中は半数ほどがその選択をした。


 だが、彼が見ているのはその選択を”しなかった”方の敵――そこら中に転がっている、あるいは今後そうなるであろう植民地兵たち。彼らの小さな抵抗は、決して大局を覆せるものでもなく、ひのくに軍の突破を大きく押しとどめられるものでもない。


 だが、彼らは戦ったのだ。ほんの僅かでも、この土地にやってくる侵略者の足止めを行うために。



 「一所懸命、か」




 *   *   *




 「このアマ……ッ!」

銃床を振りかぶる。目の前の敵兵の頭を割ってやる覚悟で、思い切り銃床を振り下ろす。


 だが、渾身の一撃は”片手で”受け止められてしまう。


 「死ね」

白楼上等兵は、もう一片方の手に握ったライフルの引き金を引き、目の前の敵兵の腹部に銃弾を叩き込む。撃たれた男は、小さな嗚咽を残してその場に崩れ去る。


 「この!」

今度は二人がかりで襲われる。右と左から、一名ずつ。両名とも銃剣を突き出し、斬りかかる。


 それに対し、彼女は冷静に対処。そもそもこの状況も計算の内、少人数で行動しているグループを発見し、『何かしら重要な任に就く道中であろう』と推察、その上で敵が銃を使用できないような状況に追い込むため、敵の中腹に迷わず飛び込んだ。


 この距離感で撃てば敵は同士討ち必至、だがこちらは関係なく撃てるし、周りへの被害を考える必要もない。現状挟み撃ちされているのも、敵に銃を使わせないため――。



 まず右側から迫る敵の銃剣に対して銃剣で応じ、すぐ左から迫る敵の銃剣を右脚の蹴りで弾き飛ばす。そしてその脚で鍔迫り合い中の右の敵に、股ぐらを思い切り蹴り上げる形で叩き込む。


 対象が悶絶している間に、素早い動きで左の敵に銃剣の切っ先を一突き。狙い通りに咽喉へと直撃する。その銃剣を引き抜くと同時に先ほど悶絶させた敵にちらりと目を遣り、膝を折って痛みに耐えている様子を確認。すぐさま頭部へと回し蹴りを放ち、意識を飛ばせる。



 次の敵、次の敵、次の敵。



 対象が女だからと油断しているのか、包囲しての一斉射撃など行う様子はない。白楼上等兵は、自身が女であることも利用して、巧みに敵の戦い方を見抜き、コントロールし、とにかく素早い”無力化”を行っていく。



 そうやって斃していくうち、最後の二人にまで敵の数が減る、迫る敵の顎を強かに殴りつけ、強烈な脳震盪を発生させる。意識が定まらない敵兵を背後から拘束し、最後の敵に向き合う。



 「……くそ、なんて奴……ッ!」

敵は、構えた銃を撃てない。意識もうろうとは言え、生きている仲間、同じ土地で生まれ育った仲間――。彼には、仲間を撃てるだけの覚悟がない。


 「はい、最後」

そう言うと、白楼上等兵は掴んだ敵兵を最後の敵兵に向かって蹴り飛ばす。



 ――常人離れした力で、男は立ったままの姿勢で仲間の目の前へと飛ばされる。


 「うぉッ!?」

反射的に銃を手放し、仲間の体を受け止める。


 ドンッ



 そして、二人まとめて銃殺される。白楼上等兵が撃ったのは敵軍のライフル、先ほど倒した敵の所持品の中で、最も手近にあったものを拾い上げたのだ。


 ――全滅。


 周囲には、倒れた敵が20人ばかり転がっている。動いている様子はなさそうだが、全員が的確に殺せているという確証はない。


 だから。



 ダンッ


 ダンッ


 ダンッ



 彼女は、次々にライフルを拾い上げては敵の頭に一発ずつ撃ちこんでいき、既に死んでいる者もそうでない者も、生死が定かでない者も一人残らず確実に始末していく。



 全ての敵兵の頭部に弾丸を撃ちこんだのち、内心『時間、かかっちゃったな』と自己評価をしつつ、彼女は別の獲物を探しにライフルを背負って駆けだした。



 恐ろしいほど静かな足音と共に。




 *   *   *




 「第三ラインが突破された!」

「くそ、早すぎんだろ……」

「前線の連中は何をしている!?」

「なにが拠点の奪取だよ、その前に俺たちが島から追い出されちまう」

「ここで守ればいい、気を抜くな!」


 ニュージーランド‐オーストラリアの陣営では、このようなやり取りがそこかしこで交わされていた。破竹の勢いで前線を突破していくひのくに軍、そいつらがすぐそこまで来ている――。この事実は、防衛線に配置された兵隊達にとって恐怖以外の何物でもない。



 「分隊長はどこに?」

「まだ戻ってねえよ」

ニュージーランド陸軍のジェイコブ・スパーク一等兵とイディーレ・スカ―二等兵は、『伝令が来ない』と文句を垂れつつ指揮官を探しに行った分隊長の帰りを、配置された塹壕の中でじっと待っていた。近くで味方が脅えている様子とは違い、”敵が来ること”ではなく”直属の上官がいない”という事実にのみ不安を覚えている。


 「待たせた」

と、そのタイミングで彼らの分隊長が到着した。ジェイコブ一等兵とイディーレ二等兵、そして二人の分隊員が同時に分隊長の方向へと顔を向ける。


 「流石に、どこも混乱しているようだ。伝令も走りっぱなしだ、しかも何人も死んでいる。俺も道中撃ち殺されそうになった」

分隊長トム・ブリ―チャー軍曹は、軍帽の”穴”を部下に示す。

「油断ならない。敵は正面だけじゃなさそうだ」


 「それで、何があったんです?」

ジェイコブ一等兵が問う。


 「あぁ、指示を待てってことだったのだがな。……その指示がやっとこさ出されたわけだ」

「指示……ですか?」

今度はイディーレ一等兵が疑問を口にする。


 「そう、指示だ」

彼は班員に耳打ちに合図をし、『集まれ』と促す。意を察した分隊員たちはトム軍曹のすぐそばに集まり、彼の言葉を待つ。


 周囲の味方――現地の志願兵たち――に聞こえぬよう周囲を確認し、トム軍曹は分隊員たちにできるだけ小さな声で、そしてシンプルに新たな指示の内容を説明する。



「……俺たちは、正確にはニュージーランド正規兵の大半は、ここから離脱することが決まった」



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