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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
69/134

侵攻 3

 「そして、この国の今やるべきことはこの戦争に勝つこと。そこから下って下って……今の俺たちがやるべきは、サッサとこの地域を占領してしまうことだ」


 「あぁ、それはわかってる」


 「だが、それを阻む連中がいる。俺たちはそれを、敵と呼んでいる。その排除のために、最大限合理的に動くんだ。……その排除対象に一々同情することは、はたして俺たちに必要なことか?」


 「……」


 言いたいことは、分かるんだ。


 「俺たちは、好きで戦争をしているんじゃない。……いや例外はいるけどよ、少なくとも俺はむやみに人を殺傷したくはない。だが、必要に迫られたら、それが国のためになると判断したら躊躇わねえ」


 「そう、だな」


 ある程度言葉を選んでいるんだろうか。少なくとも俺は勇田上等兵という男が悪い奴だとはこれっぽっちも思っていないし、時代が時代なら暴力とは無関係な好青年になっていただろうと、そう思える。


 そんな彼の言葉の一つ一つが、抵抗なく頭の中に浸透していく。”仕方なく”人を殺す道を選んだ男、か。


 「正直、俺にはひのくにっていう祖国で生まれ育ったって経緯もあるし、忠誠心もある。だから、命懸けで戦えるし敵を撃てる。別にさ、お前の心情を疑うわけじゃないんだが……」


 そこで一旦言葉が止まる。『所詮余所者であるお前に期待はできない』とか、それをオブラートに包んだ言葉でも出そうとしたのか……なんて、邪推してしまう。



 「お前も、もっとハッキリと戦う理由を持ったほうが良いかもな。ただの恩返しとか、そういうのじゃなくてよ」


 彼は爽やかにウインクする。不自然でも不似合いでもない、実に爽やかなウインク。


 「それを行動で示せるようになったら、晴れて一人前だ!期待してるぜ、刻峰」


 「あぁ……!」

俺も、できる限り自信に満ちた笑顔を作った。




 戦場の趨勢を見守る。たった二人でできることは限られているが、コトを起こすにはタイミングが重要である。立った二人の人間、二つの銃口、二つの銃剣でも、限られた戦力でも。いろんな要素をとにかく考え抜き、少しでも効果的に、敵に多大な被害を出すためには――。


 「皆さ、」

再び、勇田上等兵が喋る。


 「この班の皆さ、色んな意味で個性的っつーか、尖ってるんだよな。滝隅のオッサンみてーに無駄なく殺せる奴、光峰みてーに罠に嵌めんのがうまい奴、徳長のオッサンみてーに一人切り込んで沢山倒せる奴……果てには霧雨みてーに、独りで”なんでも”できるやつ」

 「あぁ」

確かに班員は皆特徴的というか、癖が強いってのは既に承知しているつもり。


 「皆、それを理解している。互いに理解しているし、班長がうまくまとめている。だから、こんな軍隊”らしくない”戦い方を平然とやっていけるのさ」



 戦況が動く。味方の方から今まで以上の怒号と地響き――大人数での突撃を示す音――が聞こえてくる。敵は斜面から一斉に身を乗り出し、脅威を排除しようと銃口を突撃する連中に向ける。



 「例えばよ……」

勇田上等兵が、腰に提げた入れ物から何かを取り出す。俺の知識の範囲内に、これも見覚えがあるような内容な……鉄の塊。


 「俺は、狙撃だけじゃなく……」

――手榴弾!


 「肩も強えんだぜ!」

言って、大きく振りかぶり。野球の外野手が遠目のベースにいる仲間のグラブへ正確に送球するがごとく、彼は手榴弾を敵の集中している箇所へと放り――眺めの滞空時間を経た手榴弾は、着地寸前のタイミングで爆発した。



 爆発した個所では、何人もの敵兵が色んな方向に吹き飛ばされ、倒れて動かなくなり、また爆破片は何人もの体へと突き刺さり多数の死傷者を作り出す。


 そして、突然の不意打ちに対して更に多数の敵兵がパニックを起こす結果をもたらした。



 「……良いタイミング」

思わず口から零れる。

「だろ?」

そういって、次々にピンを抜き、地に叩きつけ、敵の方へと放り込んでいく。それぞれ離れた箇所で爆発しててきお混乱はより一層大きなものとなり、敵の半分以上は仲間を見て震えているか、頭を両手で覆うなど”守り”の態勢に入り始める。


 「おっと」

 勇田上等兵は瞬時に身を隠し、丁度体があった箇所の近くに敵弾が掠める。


 「大丈夫か!?

「……あぶねえ、あぶねえ」

敵から距離があるとはいえ、いったいどんな反射スピードなんだよと感心する。


 「じゃ、」

「おう!訓練の成果、見せろよな!」

俺たちは同時に小さく身を乗り出し、先ほどから観察しきっている敵の位置に向かって的確に銃口を向け、狙いを定め、そして撃つ。



 正面の脅威と側面の不意打ち――たとえ少人数での攻撃でも、心理的ショックは大きいだろう――、完全に虚を突かれた敵は混乱を深める。ある者は正面の攻撃に専念し、またある者はこちらの居所を探るように銃を構えているが、俺たちがいるのとは見当違いの茂みの中へ銃を乱射したり、狂ったように斜面から身を乗り出して突撃隊に抵抗しようとする者もいる。


 安全地帯がそうじゃないと理解した瞬間の人間の行動、こうも分かれるものなのか――。



 「お前も、中々センスあるぜ」

時折敵の弾が付近に着弾するものの、俺たちの体は捉えられていない。小刻みに場所を変えたり俺たちを狙う敵を優先して狙い撃つことで、なんとか有利に戦うおうと創意工夫する。


 照準を敵に合わせる――場合によっては敵の移動先を見越して若干の偏差を加える――、引き金に指をかける。その瞬間、敵の命がここで終わるのだということを理解するが、”情けは掛けない”。そのまま人差し指に力を加え、衝撃と銃声を感じた直後には敵がパタリと倒れる。当たり所によっては銃創を押さえて呻いたり必死で這いずり回ろうとする、それについては無視する。


 ――決して弱った敵への情けではない、合理的かつ迅速に脅威を排除するための選択に過ぎない。



 そうやって攻撃を繰り返しているうち、ついに斜面の向こう側から味方が姿を現す。それは一人や二人でなく何十人という規模にまで膨れ上がり、斜面の境目で激しい格闘戦が繰り広げられる。


 銃と銃剣と拳が入り乱れ、分かりやすく人間が至近距離で殺し合う残酷な光景が目の前で繰り広げられている。



 味方に当たらないようにと慎重に狙いを定めていると、

「もう十分だ」

と止められる。


 「同士討ちのリスクがある、ああいうとこには撃たないほうがいいぜ。それに、もうあそこは落ちたも同然だ」

正面の脅威にさらされた敵兵たちは、果敢に反撃しているように見える。だが必死なのはこちらも同じ、今まさに作られつつある”勢い”を止めてなるものかと、味方の屍を踏み越え見捨て、前へ前へと進んでいく味方達の様子がハッキリと見て取れた。


 「敵連中も、土地を守るって心意気があるんだろうが……俺達にも、負けられない理由があんのさ。それに俺たちの軍は優秀だ、次へ向かおう」

そう言って、サッサと移動の態勢に入る。自由行動……とは言われたものの、なにも複数人で行動するななんて一言も言われていない。


 「了解、俺も行く」


 混乱しつつ今なお必死の抵抗を続ける敵兵と攻め立てる味方の戦いを尻目に、俺たちは次の戦闘を目指して移動する。少なくとも今回はたったの二人で戦い始めたが、それだけでも十分すぎるほどの成果を出せたと言えるだろう。


 「次は接近戦になると思う、覚悟しろよ」

「あぁ」



 持ち味を生かす、か。俺にはいったい、何ができるというのだろう。決して卑屈になるのではなく、何かできることはないかと自分を見つめなおしつつ進む。


 一方で、もう一つの疑問も頭の中に湧いてきた。



 皆、この戦場の中でどうやって戦っているのだろう……。

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