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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
55/134

降り注ぐ_1

 *   *   *




 その後の道中的に出くわすことはなかったが、何度かハッキリとした銃声を耳にした。なんとなく敵と味方の銃声を聞き分けられるようにはなっているが、それに従えばひのくに側の武器と敵軍の武器両方の銃声が混じっているようだ。散発的に聞こえるそれは、最終的にひのくに側の銃声に終わる。


 つまり、それぞれの散発的な遭遇戦でひのくに側がその都度勝利できている公算が大きいってこと。



 「……潜入組は、こういう戦いに向いた連中ばかりだからな」

俺は一度も思考開示をしていないが、滝隅上等兵はごく自然に先回りした回答を口にする。


 「これ、俺たちのこと敵にバレてますよね?」

「そうですね~。流石に、これだけバンバン撃っちゃうと……」

「最悪の事態を想定するに越したことはない。そして、先を急がない理由もない」



 それから、改めて周囲の警戒に集中しようとした矢先。どこかで聞いたような音に”そっくりな”音が聞こえ始める。



 これは……落下音?



 「……!?」

反射的に身を伏せる。俺の体に染みついた恐怖心は、滝隅上等兵が『伏せろ!』と叫ぶ前に、俺の体を少しでも安全な態勢へと移行させたらしい。


 そしてその直後、すぐ近くで爆発音が鳴る。それと同時に、誰かの大きな悲鳴も――。



 「ぐあぁあああああ!!!」


 絶叫に体がビクつき、全身の筋肉が不自然に引き締まる。恐らくだが、これは味方のものだろうと察した。


 

 「ここで待っててください!」

そう言って、弾かれたように信濃原一等兵は飛び出していく。


 「くそ……!おい、お前はじっとしてろ!」

「りょ、了解!」

……動きたくても、中々動けそうにない。




 先ほどの一発を皮切りに、落下音と爆発音が連続して発生。ヒュー、と落ちる音の直後にバァンッ!、とその音。。それは聴覚に留まらず、体の触覚まで刺激するほどの振動として何度も何度も伝わってくる。


 そして時折、余韻に誰かの悲鳴や悲痛な喘ぎ声が残るんだ。俺と滝隅上等兵は、どうにかこうにか木々の間に身を隠して攻撃を凌ごうとしている。動くにしたって、どうすればいい……?


 「……砲撃か」

敵の攻撃に晒されつつも、いやむしろ”だからこそ”、滝隅上等兵は冷静に状況を判断しようとする。

「前に聞いたことがあるような……。砲弾とか爆弾とかが落っこちてる音……」

「くそっ」


 砲撃。普通、砲弾は離れた場所から放たれ、緩やかな曲線を描き着弾する。俺の旅順での摩訶不思議な体験がどうだったのか明確には思い出せないが、これはその時のものとは大きく異なるように思えた。



 「砲弾にしては、小さいが」

滝隅上等兵も同じことを思ったらしい。何度聞いても、風を切る音が小さいのである。


 「それに、発射音も聞こえる」

耳を澄ましてみる。一瞬跡には爆破に巻き込まれているかもしれない恐怖が邪魔をするが、懸命に情報を集めようと聴覚に意識を集中させる。


 ……あぁ、確かに。ポンッ!だか、ボンッ!って感じの音が、小さくだが遠くから聞こえてくるのが分かった。


 また爆発音。今度は少し離れた位置だが、相変わらず内蔵ごとぶっ叩くような振動を伝えてくる。敵の攻撃は激しさを増すばかりだ。



 「あっ、」

遠い記憶の中、思いだすものがあった。それは戦争映画のワンシーン。この音の正体に、ほんの少し心当たりがある……ような。

「何だ、刻峰!」

俺のつぶやきに、即座に反応する滝隅上等兵。不覚にも、そのドスの利いた声に一瞬怯んでしまう。


 「あぁ、えと……」

……だが、しかし。曖昧で不確かな情報提供をすることに、根拠の薄い憶測を伝えることに、一抹の不安を覚える。


 「何でもいい!思い当たるものがあるなら言ってみろ!」

響き渡る大音量の爆発音の中、滝隅上等兵は脅しにも感じられるくらいの声量で俺に詰問してくる。……あぁ、くそ!黙っていても仕方ない……!


 昔見た戦争映画、あれは日本軍の戦いを、丁度こういった南方地域での戦闘を描いたものだったと記憶している。遮蔽物に身を伏せて敵を狙い撃つ者、大きな大砲(?)でどこかを撃つ者、そして別の場面では特徴的な兵器を扱っている者が描写されていた――。


 「迫撃、砲。迫撃砲って、そういう兵器があったはずです!」

確か、そういう名前だったはず。



 「ハクゲキホウ?なんだそれは!」

働け、俺のニワカミリタリー知識……!

「数十センチの大きな筒があって、かなり高い角度にセットされていて……その筒の中に砲弾を落とし込んだら自動的に筒の向きに発射されて……連続で、撃てた、はずです!」

正しく、あってくれ――。




 「……わかった」

それだけ言って、滝隅上等兵はくるりと身を翻し、

「どの道ここにいても危険なだけだ、動くぞ!」

「はいっ!……あ、信濃原一等兵は」

「いいから行くぞ!」

そう言って、できるだけ身を低く維持しながらも音のなる方へと進んでいった。


 ……大丈夫なんだろうかと心配になりながらも、俺も付いていく。俺がその場を動いてから十数秒後、ちょうど俺たちが伏せていた場所で轟音が鳴った。




 「安全な位置から曲射、それでこの連射……おい、もう少し詳しく教えろ」

先を急ぎつつ、道中更に質問を重ねる滝隅上等兵。

「はい、筒の長さはそんなに長くなくて……モノにもよると思いますが、俺が知っているのは確かこのくらいの……」

「……」

これだけの情報で、彼なりに敵の兵器がイメージできたらしい。


 「……察した」

……?

「察したって……?」

「敵の居場所だ。安全圏から森の中をバカスカ撃ちまくっているようだが、砲撃のやり方からしても正確には狙い撃てないはず。恐らく待ち伏せていた敵の殆どは、とっくにこの辺りから撤退しているだろうよ。となると……」


 しばらく進んで、敵の砲撃音がだんだん近づいてくるのが分かった。音はより鮮明に、大きく聞こえてくる。


 「……やはりな」


 丁度、小高い丘のようになっている場所へとたどり着く。そこからコッソリと先を伺うと、眼下には敵の塹壕が確認できた。



 「バッチリ見張られてるみたいですね」

こちらの居場所は敵に気づかれていないようだが、敵の集団はいくつかの壕内(小さいクレーター状の穴)に分けて配置されているらしい。そしてそれぞれの壕内から何人かが小さく身を乗り出したり顔を覗かせて正面、左右、そして数少ない人員が後方までも警戒している様子。



 そして……


 「あ……!」

正に、こんな感じだったと思う。細かい形状やサイズ感は異なるが、記憶の中にある迫撃砲のそれと全く同じ形をした兵器が目に入る。敵は筒の中へ滑らせるように羽根つきの砲弾を落とし込み、着底と同時に爆発音が鳴る。そしてそれと同時に、筒の中から飛翔体が空へと飛んでいくのだ。


 発射している向きからして、恐らく狙っているのは正面に位置する主力部隊と、そして側面から侵入している俺たち。



 「……運が良かったな」

敵の方をじっと見据えながら、滝隅上等兵は感慨深そうにも思える声色でしゃべり始める。


 「あれは、的確に狙い撃てる類の代物じゃない。恐らくは着弾位置が大きくばらけることを前提に、『狙った範囲内のどこかに命中する』という考えのもとで広いエリアを攻撃するためのものだろう」

放たれた飛翔体は、後方に着いた金属製の羽で最低限の安定を維持し、それでも風や空気抵抗の影響を受けながら飛び、落下していく。


 確かに、ピンポイントで狙えるものじゃなさそうだ。



 「俺たちが優秀だったのではない、敵が無能だったのでもない。ただ、運が良かっただけだ」

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