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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
51/134

心機一転 1

 「そして、お前に関してだが……」

言われることは、なんとなく想像できる。


 「異世界から来た人間、ですから。同じ国で育ってもいないし、同じような動機付けと仲間意識を持っているかが怪しい、そう思われると」

「……まぁ、そんなところだな」


 想像に難くない。


 「俺は、他の部隊では手に余る人材を集めている。自慢じゃないが、こういう癖の強い隊員たちをうまく使えるのは俺を置いて他にいない。本気でそう思っている」

確かに、納得できる話ではある。先に紹介されたような人員を”一抱えにして”統率できているのは、この人がかなりの手腕の持ち主だからってことなんだろう。



 「そしてな、俺は決して無能は組み入れないことにしているのだ」

「……はい?」

「いくら癖の強い人材とは言え、それなり以上に”使える”人材でないと、俺は引き入れない。そうでないなら、俺の班に必要ない」

「それは、まあ。そりゃ部下が有能であるに越したことはないと思いますが」

「違う、そうではない」


 強く制される。『違う、そうではない』。つまり、ただ能力が高ければ高いほどいいという一般的な意味でも物言いじゃないってこと。



 「俺が部下に求めているのは、”個”の強さ。少人数で効果的に戦えることだ」


 ……?イマイチ真意を測りかねる。


 「形式上、私の部隊は赤成中佐の指揮下にある。指揮系統でいえば、赤成中佐が直属の上官だ」

それはわかる。確かに、嶺善班長はトラブルがあった際赤成中佐に報告・相談しているようだ。彼の中隊に所属しているということなら自然なことだ。


 だが。


 『形式上』という言い方には、何か特殊な事情を匂わせるようなものを感じていて。


 「だが、私の班は比較的、というかこの軍隊の中で最も自由に行動することを許可されている。どこで戦え、どういう目標をもって戦闘に参加しろというお達しはあっても、戦うべき場所や戦法については特に指定もない。通常の指揮系統を離れて……要は、常に『思うように戦え』って指示が出ているといえば分かりやすいか」


 それは、大体正しかったらしい。



 「俺が学んだこととは違うルールで戦っていると」

「その通り」


 通常、軍隊というのは高度に、そして強固に組織化され、全体が同じ目標を目指して行動し”集団での戦い”を基本とするもの。各員は各員同士、各部隊は各部隊同士、各軍は各軍同士でうまく連携し、互いの歯車を合わせるかのように戦うものだと認識している。



 ……独立して、戦う?おまけ的な存在?



 「まぁ、大体の場合は通常部隊と合わせて行動するのだが。自己判断で最適な戦い方を見いだせたならば、その通りに動いて構わないって方が正確かもな」

それならまだ分かるけれど……。


 「そういう班に、俺を入れると」

「あぁ。俺は、お前が俺の部下として適した人材だと思っているからな」


 褒められることを嫌う人間はいない。だが、それが本来の能力や実機を大きく外れたものであれば話は変わってくる。


 俺の場合は別に不快感を覚えたわけではないが、純粋に自分がどう見られているのは不思議に思えた、……だから、


 「それってどういう意味なんでしょうか」


 直接聞いてみることにした。




 「どういう意味も何も、お前はたった一人で戦い抜いた。あの絶望的な状況で――もっとも、俺の班員であれば切り抜けることもできなくはないのだろうが――、とにかく、あの場で孤立しながらも、お前は自分の頭で考え抜き最適な行動を選択した。しまいには死にかけたが、お前の判断はおおむね正しかった」


 ……。


 「ああいう状況で戦える人間はそう多くない。我が軍では、あのような状況下でどのように動くべきかなど一々想定して訓練していないからな。……だが、お前は違った。新兵ながら、即席の訓練を受けただけの身でありながら、的確な判断ができた。私が欲しいのはまさにそういう人材なのだ」



 ……それは。


 俺にとって、とても光栄な評価。


 「……そう、ですか」


 でも、身の丈に合わないような気もしていて、少し複雑な心持になる。



 「まぁ、現状で十分な戦力になるかは正直微妙なところだ。まだまだ成長の余地がある。あと幾戦こなせば一人前になれるのかは分からんが、しかしお前は兵隊向きだ。……それも、俺の班のような環境で戦う兵隊として、な」




*   *   *




 「……とまぁそういうわけで、彼を我が部隊へ組み入れることにした。互いに命を預ける仲間として、温かく迎えてやってくれ」


 「了解っ」

「了解!」

「了解だ、班長」

「仕方ないな。了解」

「問題ない、了解」


 班員の元へたどり着くと、皆を集めて俺の班加入を通達。ただ一人霧雨曹長はその場に居合わせなかったが、残りの面々には(微妙な反応を見せた者もいたが)納得して受け入れてもらえたみたいだ。



 ……正直、もう何度も顔を合わせているメンバーなので、それほど新鮮味はない。班員たちも俺のことを知っているわけだし、改めて細かい自己紹介も必要なさそうな気がする。


 だけど、俺にとっては”この光景”自体に見覚えがあり――輜重部隊に配属されたときのことが想起される――、既に帰らぬ人となった仲間たちの顔が嫌でも思い出されてしまう。大した根拠もないけれど、どこか複雑な気分になってしまうんだ。



 「それじゃ、刻峰の件はこれでいいか。それから、刻峰二等兵を含め全員に通達。……いや、通達というか”見込み”なのだが、恐らく明日にも敵地へ侵攻することになると思う。しばらくすれば上から指令が来るだろう。もしかすると明朝から行動開始になるかもしれん、皆今のうちに十分休養を取っておくように」


 再度、『了解』の斉唱が行われる、明朝から早速反撃って……本当なんだろうか。流石に性急すぎるというか、予想にしてはいやに自信たっぷりな言い方に思えたけれど。



 「一応、確認を取ってくる。……何しろ、赤成中佐のことだからな……」


 意味深に思えるセリフを残して、嶺善班長は中隊長――赤成中佐――の幕舎の方へと歩いて行った。それを皮切りに、各員は解散し思い思いの方向へと散らばっていく。



 その中で、俺の元へとくる者も何名か。



 「まさか、共に戦うことになろうとはな」

徳長曹長。俺に”戦い方”を教えてくれた、ひのくにのラストサムライ(勝手に心の中でそう呼んでいる)。

「はい、俺もびっくりしてます」

「何しろ台湾であってからこれだからな。……あぁ、そうだ。今日のこと、残念であったな」

残念。何とも言えない言い方だが、そこに嫌味とかは感じない。むしろ、俺が生き残って安堵しているというより、仲間を失って落ち込んでるってことを察しているような言葉の選び方だと思える。


 「……はい。でも、悔やんでも何にもなりません、俺は俺なりに、できることをやっていこうって、そう考えています。徳長曹長に教わった戦い方があったからこそ俺は生きてるわけですし……この班でも戦力になれるよう、一日でも早く実戦に慣れていくつもりです」

同情を誘うような言葉は、絶対口にしたくなかった。してもいけないと、そう思った。だったら、俺の言えることはポジティブな決意だけ。徳長曹長の目をまっすぐに見て、真剣な表情でそう答える。


 「いい心がけだ。期待しているぞ、刻峰二等兵」

「刻峰えぇぇ!」


 ハイテンションに割り込んでくる声は、勇田上等兵のもの。彼は超絶馴れ馴れしい態度で肩を組み、見慣れた爽やかな笑顔で絡んできた。


 「ほんっと、すげー縁だよな!俺、銃の扱いはピカイチだから!狙撃のコツが知りたかったらいつでも教えてやるぜ!……あ、”才能”までは分けてやれねーけどよっ!」

「あ……あぁ、よろしくな!」

調子を合わせて威勢よく答えてみる。彼の態度や振る舞いは、まさに元気のいい青年そのものって感じで、時代や世界が変わってもなんとなく安心感すら覚えさせてくれる。



 ……そんな彼は、過去に反逆と暴力を働いていると、嶺善班長は言っていた。一体どんな事情があったのか、その笑顔からは何も読み取ることができなかった。

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