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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
43/134

戦うってこと 1

 ………


 ……


 …。




 どのくらいそこでジッとしていただろう。何度も何度もアリやムカデみたいのが体にまとわりついてきて、声を殺しながら静かに取り払ったり。時計もないし、のどの渇きもどんどん強くなっている。ずっと広場の中と敵のいた位置をのぞき込んでいるが、まだ敵は現れない。



 ……ひょっとして、もう用が済んで逃げ去ったのかも。


 敵が来た目的は、恐らくこちらの動きを妨害するため。敵の数はそれほど多くはなさそうだったし、そもそもこの森林の中を大人数で移動していればさすがに分かるんじゃないだろうか。敵は隠密行動を試みているようだったし、多くても十人かそこらの人数だろうと予想できる。



 そして、戦果は既に十分すぎるほどに上がっている。こちらの輜重部隊を一つ丸々壊滅させて、人数でいっても30人は殺した。向こうが何人やられたのかは分からないが、最低限やるべきことはやったものだと考えているんじゃないのか。



 ……いや。


 ここで出ていったらいけない。動くべきじゃない。まだ待つのだと、自分に言い聞かせる。明確な根拠も筋道だった説明もできないが、そうすべきだと判断。もう俺が身を隠して30分は経っているであろうが、今この時が”我慢比べ”の時間だと、直感的にそう思えたんだ。




 ………


 ……


 …




 遂に、敵が現れた。



 もうどのくらい待ちぼうけたのか分からないが、やっとこさ敵が森の中からゴソゴソと姿を現した。人数は……ここから確認できるのは5人。これで全部か?……いや、そうではない。恐らく相変わらず何人かは森の中へ潜伏しているだろうし、万が一の場合に備えて万全の準備を整えているのだろう。


 俺たちができなかったことを、敵はちゃんとしっかりやっている。



 深緑色の服装をした5人の敵兵。なるほど、そりゃ目立たない。特にこんな環境では中々見つけられないだろう。中には、顔に塗料だか土だかを塗りたくっている者まで混じっている。ドーラン、って言うんだっけ。なるほど、敵はそこまで徹底して居場所を悟られないように動いてたわけか。


 森の反対側から出てきた敵兵は、バラバラになって行動を始めた。ある者はひのくに兵の死体に近づき、まず銃に興味を示す。しばらくいじくった後、それを元の場所に置く。そして今度はポケットやバッグの中身を確認し、何かを物色している様子。


 別の者は荷車に近づき、中身を入念にチェック。中に入っている資材の量や種類、同時に運ばれている食料や水の量もガサゴソと何やら数えたりしているようで、こちらには何の興味も持っていないらしい。



 そのうち、比較的俺の近くにいる奴が倒れているひのくに兵の近くにやってきた。さっきから微動だにしていない、大出血からもう数十分、一時間近く放置されている彼。



 ……!?



 微かに、胸のあたりが膨らんだり、萎んだりしている。呼吸をしている――生きている!


 それに気づいた敵兵は彼の近くに寄り、味方に声をかける。話しているのは英語だ、俺にもなんとか聞き取れる声量。


 「生きてる奴がいるぞ!」


 その言葉に応じるように散っていた敵のうち2人が近寄ってきて、彼を取り囲んで何か小声で話し合っている。その内容は、さすがに聞き取れない。もう言葉を発することもできない、弱り切った彼を取り囲んだ敵兵の集団。



 俺はどうすればいいのか分からず、ただその様子を見守ることしかできない。




 しばらく話したのち、二人がゆっくりした足取りで移動を始めた。残る一人は倒れている彼のそばを離れず、俺からは見えない彼の表情を見つめたまま。


 ――正直、俺はこの様子を見て何が起きるのか大体予想できていた。



 彼を見下ろしたまま、敵兵はライフルを肩にかけ、代わりに腰の収納袋から何かを取り出す。太陽光を反射し、きらりと光る何か。


 銃剣、だろうか。


 ――無理だ、助けられない。



 敵兵は、取り出した銃剣をそのまま順手に構え、座りこむ。


 ――すまない。



 銃剣を首筋の近くに添え、小さく振りかぶって。


 ――俺は。



 そのまま、振りかざして。彼の首元近くに、新しく血だまりが発生した。


 


 それを見た直後、俺は決意した。すぐさま敵の配置を確認し、まず近くの一人、そしてすこし外れた位置にいる4人。うち3人は、ここからよく見える場所にたむろしているのが見えた。そしてもう一人は荷車の陰に居て、よく見えない。だが、全員が共通して銃を構えていないし、視線もこちらと違う方を向いている。




 ――今だ!


 既に構えていた銃の照準を、今しがた味方にとどめを刺した敵の方へと向ける。ボルト操作は完了している、あとは引き金を引くだけで発射できる、特訓の成果もあって、照準は1秒にも満たない時間で敵の胴体を捉えた。



 『基本的に、腹を狙うと良い。万が一狙い通りに撃てなくとも、体のどこかには当たるはずだ』

徳長さんから特訓の最中に教えられた内容を思い出す。対象はこちらから見て横向きだが、しっかりと照準の真ん中に捕捉することができた。



 その瞬間、頭の中を色んな思いがよぎったように思う。人を殺す感覚。いまだかつて満足に暴力をふるった経験もない俺が、究極の暴力を行使しようとしている。


 『普通は、殺人を躊躇うものだ』

えぇ、全くその通りだと思います。


 『もしお前が撃たなかったら、仲間たちはどうなる』

もう、遅い。でも、今からでもできることがある。



 俺にとっての殺人動機。それは、目の前で無防備な仲間の命が”消された”ことで十分だったようだ。きっと今の俺は、殺意に満ちた、血走った眼をしている。怒りとも悲しみとも言えない感情に支配され、俺はそのまま引き金を引いた。




 静寂に包まれた中、手元で爆発音。その音も、体に伝わる反動も、全く気にならない。


 弾丸を目で追えるほど、俺の動体視力は人間離れしていない。でも、対象が俺と反対側に力なく倒れこんだことで、ちゃんと命中したんだってことを確認できた。




 「敵だ!!」


 敵兵たちは弾かれたように動く。ある者はすぐさま身を伏せ、ある者は遮蔽物を探してこちらの方向へと銃口を向け、またある者は元々いた森の方向へと駆けだしていく。



 ――逃がさない。



 すぐさまボルトを操作し、次弾を装填する。走る対象を撃ったことはないが、無意識に逃げる敵に対して照準を合わせる。


 『着弾までは僅かに時間差が生じる。ゆえに、移動する標的に対しては偏差をつけて射撃するのだ』


 走りゆく敵は、俺から見て左斜め前に進んでいる。……確実に仕留めたい、工夫しよう。敵が通るであろう一直線のコース上に狙いを定め、敵が照準の真ん中に至るほんの僅か直前に引き金を引く。再び銃声が鳴り、勢い余った敵は血しぶきを上げながら倒れこんだ。




 ……命中した。




 即座に、残る3人の方を見る。全員その位置から動かず、俺がどこにいるのか探しているらしい。また向こうの森からこちらへと銃撃を行っているようだが、その着弾位置は俺のいる場所から大きく外れている。


 つまり、俺の位置はバレていない。



 ゆっくりと銃を向けなおす。今度は3人組を全滅させるんだ。感情を殺して、次弾を装填。幸いにして、敵は3人ともこちらから狙える位置にいる。


 チャンスだ。



 そのまま狙える位置にいる敵を一人射殺。自分たちが俺の射線上にいることを察した敵は、「こっちだ!」「ここはヤバい!」なんて叫びながら森の方へと駆けていく。


 例によって、落ち着いて照準を定める。障害物はない、また敵は一直線に走っている。先ほどと同じ手法で1人を射殺。もう一人は木々の間に飛び込んだのが見えたので、恐らく敵が伏しているであろう場所に向かって残弾全てを撃ちこんだ。


 ……これで射殺できたのかどうかは、分からない。


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