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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
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開戦 2

 少し離れたとところで、誰かが唾を呑み込む音が聞こえる。


 「私はこの”大戦争”において、我が国を必ず勝利させる。ただしその勝利は、多大なる犠牲のもとにしか成立し得ないと確信している。それほどまでに、敵は強大である」


 嘉神元帥はしばし沈黙し、兵たちを見渡す。まるで一人一人の顔を確かめているかのように、ゆっくりと、じっくりと時間をかける。



 「私は、この軍を育ててきた。ここにいる全員も、そうでないものも、私が責任をもって育ててきた。甘やかしたり半端な教育を施した覚えは一切ない。ゆえに、ただの一人も覚悟のない者は我が軍にいないはずだ」


 一瞬、嘉神元帥と目が合った気がした。この大人数の中である、さすがに気のせいだろうか。



 「もはや開戦は避けられないものとなっている。各国とも、本格的に動員を開始した。我が軍も例外ではない、既に本日第一波を送り込む準備は完了している。各員、既に通達があったはずだ」


 そう。俺はここに来る前、というかそれよりずっと前から予告されてはいたのだが、この後ルソン島行きの船に乗ることになっている。俺にとって、兵士として初めて送り込まれる戦場だ。



 「今更、細かいことを言うつもりはない。…………最善を尽くせ!!」



 その言葉に応え、場の全員が一斉に敬礼する。一瞬遅れて俺も従う。その様子を見届けて、嘉神元帥は壇上から降りた。




 短い時間だったが、わざわざ陸軍の最高司令官が直々に激励に来たのだ。その場の空気からしても、この”儀式”には大きな意味があるのだろう。こういうところで、自分がこの国(軍)の文化に馴染めきってないことを自覚してしまう。



 実際に戦場へ行って、働いて、戦って、そうすれば俺もここに馴染めるんだろうか……。


 この場の皆が何を思っているのかはわからなかったけれど、場の空気が嘉神元帥の激励の余韻を残している間、俺は一人そんなことを考えていた。




………


……





 この日、身支度やその他もろもろの用意を済ませた俺は、予定通り隊のメンバーと共にルソン島行きの輸送船に乗った。この日のうちに船は出港し、ルソン島へと向かっていった。



 そして船が出向して間もない頃、欧州では最終通告の期限が到来。一切の返答を出さないデンマークに対し、スペイン及びイギリス、フランス、ポルトガルが相次いで宣戦布告。そしてその直後、デンマークに防衛線を張り同国の保護を約束していた北連が対抗して戦線布告。


 そしてその報告を受け取ったアメリカ、ひのくに、インドが、更に呼応してカナダ、オーストラリア、ニュージーランドと、宣戦布告の連鎖は続いた。


 最初の宣戦布告からわずか1週間もしない間に、まるでドミノ倒しのような形で世界規模の大規模戦争が勃発したのである。




*   *   *




 数日後、船はルソン島に到着。さすがに俺の知ってる日本の船に比べたら快適さは劣るけれど、それでも船内での生活に特段不満を抱くこともなかった。船に揺られて数日たった後の陸地は、とても安心感の持てる大地って感じがする。


 ……とはいえ、この島に降り立ってそれ以上に感じたのはまずその暑さ。そりゃ南国だから当然と言えば当然なのだが、日本にいた頃は熱帯地域なんて旅行先に選んだことがない。俺にとって初体験となる熱帯雨林気候は、真夏のような蒸し暑さと心地よい潮風で微妙に歓迎してくれてるみたいだ。



 ちなみに、こうして呑気に上陸できている時点でルソン島全域が敵の支配下にあるわけじゃないことは明白。フィリピン自体が元々民族や宗教の関係でバラバラの状態であり、結局それぞれが好き勝手な陣営に味方する、受け入れる、或いは中立を主張するということでメチャクチャな状態なんだとか。


 とりあえずこの島の南方ではニュージーランド軍を受け入れることになったらしく、それに対抗するような形で北側の勢力はひのくにやアメリカと結託する流れになったらしい。かなり前の段階でこうなることは予想されていたらしく、とっくに水面下でアメリカ陣営の駐屯準備は完了していたそうな。




 俺たち輜重部隊は主に物資の運搬がメインだけど、手が空いた時には駐屯地の設営や木の伐採作業なんかを手伝い、後続の戦闘部隊やその他人員を受け入れる準備を着々と進めていった。



 「聞いたかよ、刻峰」

「ん?何の話だ?」

黙って作業してても気が持たない。暑いし疲れるし、時々昆虫なんかも近寄ってきて気が滅入るのだ。


 「デンマークじゃ、もう戦闘が始まってるらしいぜ。それも、結構派手な戦いになってるんだってさ」

「……マジかよ」

「あぁ。拠点が一つ、速攻で落とされたらしい。北連は防衛戦に強いなんて言われてるけどな、さすがに4軍連合相手じゃ分が悪いんだろう」

「そりゃー、ね」

こうして呑気に話せているのも、ここじゃまだ戦いが始まっていないから。既に北連、デンマークの軍とイギリス陣営の連合軍間で戦闘は開始されており、複数の地点から上陸されたことで初っ端から広い戦線が出来上がっているとの話。


 「でもまぁ、」

きっと、今だから気軽に言えるセリフ。でも、最初から悲観しててもしょうがない。

「俺らは俺らでサッサとここの戦いにけりつけて、向こうに加勢できりゃ大丈夫だろ。……てなわけで、これ早く終わらせようぜ」

「そうだな。そんじゃ、そっち持ち上げてくれ」

「あいよ!」

仲良しの隊員と共に、弾薬満載の箱を荷車へ詰め込む。弾って、数十発程度でもかなり重いんだよな。それがギッシリ木箱に詰まってるもんだから、独りで運ぶと骨が折れる。下手すりゃ本当に折れるかも。




 ……なんてね。




*   *   *




 ニュージーランド側も、ひのくに軍に先んじてルソン島への防衛部隊配備を完了させていた。本国とこの島との間に多くの島々を挟んでいるため、中継地点を数多く揃えることが可能だったのだ。それにより効率的な布陣を済ませたのち、彼らはまず敵の弱点に目を付けた。


 『海軍に対して直接対決を挑むのは後回し。我が軍の得意な方法で敵の行動を停滞させるのだ。敵は、補給に難を抱えている』




*   *   *




 既にひのくにとニュージーランドは戦争状態にあるが、だからと言って両国とも未だ先手を打った攻撃を行わずにいた。宣戦布告って言うくらいだから、もうその瞬間から戦闘が始まるものだとおもっていたけれど。別にそういうことでもないらしく、ここ数日は至って平和であった。



 「前線付近に新しい駐屯地を作る。設営作業にかかる物資とその他物資を届けてこい」


 ……というわけでそんな日々の中、この日は新しい設営地点への物資運搬を命じられた。


 一応は道らしい道が存在しているが、そんなにきれいに整地されているわけでもない。大型の荷車を使うわけにもいかないので、なんとかマトモに動かせそうなサイズのものを数多く使用することで運搬作業を行うこととなった。


 すぐに道の整備は行うとのことだったけれど、俺たち運搬役からしてみたら一刻も早く快適な道路で運んでしまいたいのが本音。本格的にブルドーザーとかが用意できるわけでもないし、仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。




 「はぁ、はぁ……」

「……はぁ、……」

分かりやすく超疲労ムードで進む俺たち。出発の時は意気揚々、しかし長い道のりを進んでいくとなると結構しんどい。護衛と運搬役合わせて30人規模の輜重班は、今目標まで半分進んだかどうかの地点までやってきている。周りは木々で囲まれているが、日光はそれなりに浴びるし”森林浴”みたいな爽やかさは皆無である。



 周りを見渡してみる。所狭しと木々が生い茂り、俺らが歩く道の他は木と草しか見えないくらいの環境である。そして前方を見ると、この森林の中で少し開けた場所を発見した。



 「全員聞け!あの場所で短い休憩を取る、いいな?」

「はい!」

「了解!」


  束の間、俺たちは休息を取れることになった。皆長い道のりで疲れ切っており、表情に明るさが取り戻されていくのがわかる。


 勿論、俺も例外ではないけれど。……この場所に少し、嫌な予感を覚えた。

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