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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
35/134

特別講習 1

 翌日、指定された場所に向かう。訓練でいつも使用している場所ではなく、すぐ近くに設けられた自主練習用の射撃施設である。ここの利用には色々と申請やら何やらの手続きがあるのだが、今回は指導員の選出やら諸々の手続きを嶺善さんが肩代わりしてくれたらしい。


 昨日の言い分からすると、どうやら嶺善さん本人が指導員ってわけじゃなさそうだったけれど……?



 「待たせたな」

そう言って現れたのは嶺善さん。そしてその背後から付いてきたのは、白楼と勇田。

「一応、気がかりでしたので」

「よ、元気でやってるみたいだな」

「白楼さん!勇田!」

白楼さんはともかく、勇田はかなり久々の対面である。

「今日は二人が教えてくれるのか?」

確かに白楼さんは兵として優秀だと聞いているし、勇田も狙撃のスペシャリストだと説明を受けたことがある。当然、両名とも射撃において相当な腕前を持っていることに間違いはないだろう。


 「いや、俺たちは温かく見守りつつ茶々入れるだけの野次馬さ。お前を直接指導してくれる天才的凄腕の大先生はな……」

「妙な持ち上げ方をするな、勇田伍長」

あんまり聞きなじみのない声とともに射撃場へ現れたのは……え、この人?


 「全く……班長も無茶なことを仰るもんだ。私は撃つより斬る方が得意なのだがね」

いつもの刀とともにライフル銃を引っ提げた、嶺善班のサムライ。確か、徳長蒼龍さん。

「それは承知しているが。だが、銃の指導においてお前を超える者はないと思っている。よろしく頼むぞ、徳長」

違和感一杯である。え、この人戦場で銃持ってなかったんじゃなかったっけ?なんか『刀のほうが良い』とか何とか言って、この時代の戦いに近接戦闘武器で立ち向かうヤバい人だったと記憶している。


 「えっと、あの……嶺善さん」

「ん、どうした刻峰」

「徳長さんって、刀使ってる人じゃ……」

「正しくは”日刀ひとう”だ。そう、私が戦場で命を預けるのはこれだ」

そう言って刀の鞘に軽く触れる徳長さん。さすがに重いのか、今日は二本差しでなく一本のみである。


 「安心しろ、刻峰二等兵。疑問を持っているのはお前だけじゃない。私はてっきり、銃剣術でも教育しろという事情かと思ったのだからな」

教える側にも教えられる側にも疑問の人選。嶺善さんの真意はいったいどこにあるのだろう。



 「まぁ、とにかくよろしく頼む」


 そういうわけで、剣術マスターに銃の使い方を教わるという不思議な形式で俺の教育がスタート。




 「……全体的に、体が不自然に強張っている。特に肩回りと左肘だ。反動の大きさを恐れてのことだろうが、それでは無駄に疲れるし安定もしない。適度に力を抜け……そう、それでいい。その状態を維持しつつ次弾を撃ってみろ」

「はい、やってみます」

俺の第一射を見て、徳長さんは俺の体を直接触れながら姿勢の指導を開始。顔つきや雰囲気からして気難しい人かと思ってたけど、思ったよりも親切である。


 「顔の位置も不自然だ、その距離感だと上手く狙えなかろう。そこまで遠ざけなくとも良い。もうすこし照門近くに顔を当てろ」

「この辺でしょうか?」

「いや、近すぎる。もう少しだけ離せ」

「……こんな感じで?」

「そう、それでいい。今、照準はどう見えている?

「えっと、照門と照星の間に少し間がある感じですね」

「そうだろう。その見え方と距離感を覚えておけ」

「はい!」



 ………


 ……


 …



 「なんというか、様になっていますね」

「だな。いかにも指導員って感じだぜ。ハマってらぁ」

「そりゃそうだ。なんたって蒼龍のやつは、剣術の師範だからな。弟子も大勢いるし、人に何かを教えてることに向いている」


 「とはいえ、本業は剣術なんすよね?銃の扱い方って、大丈夫なんすか?」

「勇田さん、知らないんですか?徳長軍曹は射撃演習で毎回あなたと変わらないほどの成績を出してますよ」

「え……?サムライモード全開なのに!?そうだったのか!?マジで?」

「マジです」

「マジか……俺と一緒レベル……つまり、超凄腕ってことじゃねーか!」


 確かに、勇田上等兵は誰もが認める凄腕の狙撃手。ゆえに、通常の射撃演習でも常に最高成績を叩き出している。


 「……まぁ、我が班ではそれほど珍しくありませんが。特に徳長さんは教本に忠実なので、人選としても最適なのでしょうね。私や貴方では、それぞれ撃ち方に癖がありますので」

「それは同感だな」


「……」

二人の掛け合いを見守る嶺善。その表情には相変わらず厳としたものであるが、心の中では小さな安心感を覚えている。徳長だけでなくこの二人にも、人を見る力はあるようだ。それに自分のやろうとしていることも、その意図も自然と察している。


 ……良い傾向だ。




………


……





 「伏射についてはなんとかなったようだ。今のイメージを忘れるな、咄嗟に構えた際にもその姿勢を瞬時に作れるまで体に叩き込むのだ。徹底的にな」

「はい、ありがとうございます!」

幾多の銃弾を消費した末、完全に的を狙い当てる感覚が体に染みついてきた。不思議なことに、徳長さんの指示通りに姿勢を作ると体が安定するし、姿勢自体もかなりしっくりくる。まるで人間工学に基づいて作られた何かのように、体の一部にでもなったかのような感覚さえ覚えてしまうほどだ。



 「うむ、基本はできたようだ。見様見真似やイメージだけではどうにもならないからな。その感覚を忘れず、次は立射をやってみろ」

「了解!」

立射ってのは、確か立った姿勢で撃つことのはず。肘や腹部や下半身なんかを地面に依託できないので安定性は欠けるが、基本は同じなはず。とりあえず、自己流で姿勢を作ってみる。


 「こんな感じでしょうか?」

結構いい感じに姿勢を作れたと思う。

「……問題点が多いな」

……あれ?

「長くなりそうだ」

ほんの少し肩を落とす徳長さんだったが、次の瞬間にはしっかり教える人間の顔を取り戻したようだ。早速、改善点や欠点を教えてくれた。



 ………


 ……


 …




 「そういや、なんで刻峰はこの時期入隊したんだ?今、やべーんだろ?」

「本人が強く志願したそうです。それも、できるだけ”直接前線に貢献できる役割を”とのことで。春宮様が悩んだ末に出した結論が、輜重部隊への配属とのことです」

「へぇ……根性あるな、あいつ」


 「ところで、残りの班員の方々はどうなさっているんでしょう。由紀とは時々会いますけど」

「みんな、”普通”だよ。まぁ、多少ピリピリしてる感はあるけどな。この状況だしな」

「そう、ですか。ところで、霧雨曹長は普段どこで何をしているんでしょう。未だによくわかりません」

「さぁな。戦力としてヤバいってのはわかるが、マジで招集されたとき以外マジでどこにいるのかもサッパリだしな。訓練に顔を出す機会も少ない」

「……謎が多い方ですね。霧雨曹長」

「だな」



 ………


 ……


 …



 「立射もこんなところか。やはり地面や土嚢等の依託物を使えない分安定性には欠けるが、特に塹壕戦や遭遇戦では使う機会の多い射撃姿勢だ。当然正確性も問われるが、どちらかというと咄嗟にある程度の範囲へ着弾させられることが大事だ。腰を据えて撃ち合いするならもっと安定した姿勢を作ればいい。わかったか?」

「はい、理屈も含めてわかりました」


 「次は座射だが……」

「こんな感じでしょうか」

「……」


そんなこんなで、俺への指導はまだまだ終わらない。……薄々思ってたけど、俺ってあんまし射撃の才能ないんだろうか?

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