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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
33/134

入隊 3

  銃。個人で携行できる対人用武器としては最高峰の”道具”。筒に弾と火薬を詰めるだけの簡素なものから進化を重ね――設計の合理化でより安全に扱えるようになり、ライフリングを施すことで射程距離と集弾性能を向上させ、薬莢を用いることで再装填を素早く行えるようにし――、今や全世界の兵隊にとって、己の命を懸けて戦うのに最も信頼できる武器として存在している。


 俺の手元にあるボルトアクションライフルも、ひのくに流の研鑽を重ねて強化されてきた最高峰の殺人道具。今俺は、その扱い方を学んでいる最中である。


 ……ちなみに、映画のヒーローが格好良く取り廻している拳銃なんてものは当然持てない。自動小銃も見かけない。この木製ストックで金属を銃身を包み込むライフルだけが、”いざというとき”に頼れる相棒なのだ。



 「ん、お前も中々呑み込みが速いな」

銃の分解及び組み立ての講習を行った後、教官が感心したように言ってくれた。元々手先は器用な方だったし、パーツの数もそんなに多くないので難しくも思えなかったけれど。

「ありがとうございます」

やはり、素直に褒められるのは無条件にうれしいものである。


 「兵士にとって、この小銃は自分の命と同じくらいに大事なものだ。扱いには十分以上に慣れておく必要がある」

何度目か聞いたようなセリフだが……それほどまでに重要な心掛けってことなのだろう。


 「銃も使用すれば当然汚れるし、劣化もする。そうならないためには日頃からこまめに状態を確認し、適宜メンテナンス作業を行う必要がある。また万一不具合が生じた際にも、自分で修理し射撃可能な状態へと戻してやる必要がある。その両方において、銃の分解と組み立てを迅速に行うことは兵士にとって必須の技能だ。銃が死んだとき、自分もまた死ぬものと思え」

「心得ております。こうして銃の構造を理解できたのも、教官のお陰です」

「そうか、そうか。そいつはうれしい」

……軍人って、もっと厳格だったり怖い人だと思ってたけど。中にはこういうタイプの人もいるんだな。いわゆる”鬼軍曹”って感じじゃなく、むしろ学校の先生と話しているみたいだ。



 「あとは、射撃の腕を磨くだけだな。これ以降は他の隊員と同じ内容の訓練に参加するということで問題なかろう」

そう、銃の扱い方に関してはこれまで『遅れた分を取り戻す』って感じで、なんというか中途採用の社員に最低限の社内ルールを教えてやるような内容だった。とりあえず現段階で俺は最低限必要な知識と技術を習得したことになり、これで他の隊員と全く一緒の内容で訓練に参加できることになる。


 「丁度いい、次は射撃訓練だ。しばらくで他の隊員たちも集まってくるはず、先に行っていると良い」

「承知しました!」




*  *  *




 「狙うのときはな、こういう姿勢で……そう、そんな感じだ。左手はこの辺に添えて銃を支える、銃床は肩、脇のあたり……そう、そこだ。あとは頬を乗っけて狙いを安定させて……」

「こんな感じか?」

「そう、大体そんなイメージだ」

訓練開始前、仲のいい隊員にお願いして銃の構え方を教えてもらう。一応は教官から改まって教わることになるのだろうが、予備知識があって損はないだろう。


 「そんで、あとは照門……銃身から一直線上にある手前にある二つの突起、この間に先端の突起を合わせて狙うんだ」

「なるほど……この先端の突起が、照星」

「そそ」

実際に銃を持っているとイメージしながら構える真似をしてみる。はたから見れば『何やってんだ?』って感じなんだろうけど、そんな”エアトレーニング”でも大体の要領は掴めた。


 ……気がする。




 そして、実際に射撃訓練がスタート。


 「刻峰二等兵、実際に撃つのは初めてなんだよな?」

「はい、ただ構え方に関しては仲間に教わりました」

「ほう。では、構えてみろ」

「了解です」


 いわれるがまま、まずは銃を持つ。分解作業やら何やらで手に持ったことは何度もあるけど、『これから撃つぞ』って考えていると改めてその重量を意識してしまう。これ、こんなに重かったっけ。


 今回は伏射、つまりうつ伏せの姿勢で寝転がった状態での射撃。これがしっかり”当てる”のに最も適した姿勢であり、色々な射撃姿勢の中でもまず基本になるとのこと。


 右手で銃把、左手で被筒の中ほどを握り、そのままストックを肩のあたりに押し付ける。さっき言われた通り、脇のラインでしっかりと保持することを忘れずに。そして頬をストックに乗せるようにし、照準器ののぞき込んで、的に向かって狙いをつける……。



 「動作は緩慢であるが……まぁ、慣れれば問題なかろう。相変わらず呑み込みの早いことだ」

「はい。撃ってもしてよろしいですか?

「ああ……そうだな、じゃあ撃ってみるか?」

「了解!」



 ……初めての実弾射撃。緊張する。照準器のゼロイン調整は完了しているはずだし、あとはしっかり狙って撃つだけだ。


 照門の間に照星が入るようにし、更にその中央へと位置するようしっかり狙いを定める。左右に偏っていないかに注意し、更に3点が同じ高さに来るよう細かく細かく確認する。そしてその状態のままゆっくりと銃を動かし、照準の中央に位置する照星の先端と、的の中央を重ねる。


 あとは狙いの答え合わせ。強烈な衝撃と銃声を覚悟しつつ、慎重に絞り込むように引き金を引く。



 ……あれ?





 「……刻峰二等兵」

「何でしょう?」

「安全装置は確認したか?それから、ボルトも動かしていないようだが?」

「あ……」



 教官は苦笑い、見守る他の隊員たちも笑いを堪えきれないでいるらしい。『すみません、気を付けます』と応じつつ、苦笑いで返しながらコッキング動作と安全装置の解除を行う。



 初訓練の今だから”阿呆な失敗”程度で済んだけれど、これが実戦ならとんでもないことになっていたはずだ。目の前の脅威を排除できず自分が死んでいるか、或いは味方を狙う敵を倒せず仲間が一人死んでいたか……。


 表情とは裏腹に気を引き締め直し、改めて射撃を行った。




 

 ………


 ……


 …




 結果として、あんまり正確な射撃はできなかった。


 何より初めて銃を撃つもんで、銃に接触している体の各所に伝わる反動の大きさと銃声にビビってしまい、落ち着いて撃てなかったこと。そしてやはりというか当たり前なのだが、正確に狙って一点を正確に撃ち抜くってのはかなり難易度の高い職人技。ド素人の俺には特に射撃の才能もなかったということだろう。


 ……それでも、的を外すことがなかったのは幸運と言える。



 「初めて撃つのだ、こんなもんだろう」

「……狙い撃つって、結構難しいんですね」

「そりゃーな。傍から見てても、撃つこと自体に恐れを感じている様子がわかりやすく伝わってきたぞ」

「すみません……」


 「とはいえ、基本は弁えているようだ。筋は悪くない。練習を重ねれば一人前になれるぞ、頑張れ」

「了解!」



 俺の晩が終わり、他の隊員たちが銃座について射撃を開始。多少の差はあれ俺よりも遥かに正確な射撃を見せる者が多かった。俺の銃弾は的のどこかにランダムで当たるような弾痕を残したが、皆は的の中央からやや逸れた位置に当たる程度で殆どが正確な位置に命中弾を叩き込んでいる。




 訓練後、仲間たちに話を聞いてみた。多くの連中はちょうど俺と同じような具合であまり上手に撃てなかったが、訓練を重ねるうち次第に正しく当てられるようになったという。


 つまり、俺は才能があるわけじゃないけれど、メチャクチャだったってわけでもないってこと。自信はわかないが、不安は多少解消されたように思う。




 ……とはいえ、もう時間はあまり残されていないはず。北連とスペインのイザコザから表立って大きなニュースは届かないものの、あらゆる国が水面下で開戦の準備を整えていることは間違いないと思う。”普通”のペースじゃ、間に合わない。


 人一倍努力して、考えて、早く成長しなければ。

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