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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
31/134

入隊 1

 「なぁ刻峰、お前”別世界”から来たってマジかよ!?」

「どんなところだったんだ!?女は綺麗だったのか!?」

「いきなり台湾に現れたって、どういうことなんだ?」

超質問攻め。まず配属先で発生したコミュニケーションがこれ。事前に配属される者の情報は知れていたようで、俺の大まかな素性とか諸々の事情まで周知されていたらしい。


 そりゃいきなり”自称異世界人”意味不明な妄言を垂れる輩が来たなんて受け取られちゃ迷惑だろうし、仕方ないと言えば仕方ないことなんだが……。


 「え、えぇと……」



 さすがに、興味津々で目をキラキラさせての質問攻めには参ってしまう。というか、この人たちは俺が別世界から来ただとか、突然戦場に”発生”したとかそういう話を受け入れているのか。全員が全員じゃなのだろうけれど、疑ってるような顔をしている者は殆どいない。


 よほど人を疑わない国民性なのか、或いは”説明”の内容、或いはそれを伝える者が口達者だったのか……。変わり者扱いされて疑いの目を向けられるのも嫌だけど、これはこれでやりにくいな……。



 とりあえずテキトーに応対し、晴れて俺はひのくに陸軍輜重部隊の一員として迎え入れられることになった。




*  *  *




 配属先の面々は皆優しく、温和で人当たりの良い人たちばかり。流石に排他的な雰囲気の部隊へ配属すると、「余所者と仕事なんかできるか」とばかりに俺が苦しい思いをするって、そういう気遣いがあったのだろうか。そう勘ぐってしまうほどに、ここには”良い人”たちしかいない。


 ひとまず新兵として馴染んできた頃、この部隊でも仲のいい隊員が何人かできた。一通りの訓練を受けた休憩時間など、彼らと集まって談笑するのが日課になりつつあった。


 「最近よ、ほんと物騒だよなぁ」

「北連の連中、スペインに国民を殺されて怒り心頭って話だ」

「彼らとの同盟もあるし、どっかでドンパチがおこりゃ俺らも巻き込まれること間違いなしだわ」

ここ数日の会話はこんなかんじ。俺も事前に承知してはいたが、やはり他の兵隊たちも戦争勃発についての懸念は強いようで、どこかで拾ってきた噂話やそれを元にした持論を展開し、今後の米英陣営の対立に関して多く議論が交わされている。


 「刻峰さ、お前んとこじゃ、こういう世界情勢ってありえたのか?」

「あぁ……。厳密には色々違うところもあるけど、同盟国の集まり同士で対立を深めてくってのはよくある話だな。俺の生きている時代でもないとは言い切れないし……」


 ただあまり余計な心配はしてほしくないし、不穏な噂が蔓延したところで良いことがあるとも思えない。なにより、上層部の方々にも迷惑掛かりそうだ。それは俺の望むところじゃないんだ。


 「物凄く深刻な事態になったのは、ここ100年で3回くらい。その中でも大きな戦争になったものもあるけど、小さな戦争が局地的にいくつか展開されて終わったものもある。今後どうなるかは何とも言えないだろうな」

「そっか、まぁそんなもんか」

第一次世界大戦、第二次世界大戦、冷戦。うん、間違ったことは言っていない。


「ちなみによ、お前上層部の人たちに会ったことはあるのか?台湾からこっち来た時、色々話とかさせられたんだろ?」

「そうだな、まずは台湾でもお世話になった中隊長さんと軍医さんに尋問された。そう、俺はここに来て真っ先に頭だか心だかの病気を疑われたんだよね」

爆笑する仲間たち。今となっては話のタネになっていいんだけど、あの時は本当に緊張したな……。

「それから春宮総司令に呼び出されて、色々あってこの近くに住むことになってね。えっと……嶺善少佐って知ってるか?」


 その言葉を聞いて、驚いたような表情を見せる仲間たち。

「嶺善少佐って……”嶺善班”の?」

「あぁ、そう呼ばれてるっぽいな」

「あぁ~……。あそこは、結構癖のある人たちが多いからな。びっくりしただろ?」

たしかに、銃不所持が2人もいたりお爺さんまで混じってるのにはかなり驚いた。

「そうだね、色々と個性的な人たちがいるんだなってのはなんとなく思ったよ」

「白楼って女、おっかないよな……」

「とはいえ美人だけどな」

「そりゃ確かだ」


 「そんでよ、春宮総司令の他にはお会いしなかったのか?嘉神元帥とか、雷元帥とか」

「いや、実際にお会いしたことはないかな。俺たち陸軍の最高司令官が嘉神元帥ってのは、白楼さんから教えてもらったけど」

「……お前、白楼とそんな絡みあったのか?」

「あぁ、うん。軍隊の基礎とか座学とかその辺を担当してもらってた」

「羨ましような、度胸すげーような……」

うん。白楼魅夜については、ここでも”綺麗で怖いお姉さん”ってイメージが定着しているらしい。


 「そんでさ、嘉神元帥ってどんな人なんだ?」

「そりゃもう、俺らの頼れる最高最強の大将って感じだ!階級じゃなくてよ、なんつーか……やっぱ、大将って感じだな!」

「……そんなに信頼されてるのか」

「当り前さ!なんつったって、嘉神元帥が直接指揮を執った戦いじゃ負けたことなんざ一度もないんだぜ?」

それは凄い。


 「それによ、あの人の言葉は胸に染み渡るっつうか、情熱的というか。とにかく、すげー熱い人なんだ。そのうち実際に見る機会もあるだろうし、その時にわかるはずだ」

「ふぅん。そりゃ、楽しみだな」

「ちなみに、海軍の総司令官が雷元帥。こっちは着任後あんまり時間も経ってないし、どういう方なのかはよくわからん」

「そっか……」


 そういえば、陸軍だけじゃなく海軍もあるんだった。この国に限らず、基本的に世界中の国々では陸軍と海軍が設置されているらしい。ひのくに軍では陸軍と海軍のトップがそれぞれ存在し、その二つを更に最高位で取りまとめているのが春宮総司令官ってことなのだとか。


 


 ……あ、そうだ。

「ちなみにさ、みんな。春宮最高司令官って、どんな人だと思う?」

「あぁ……」

「えっと……」

「んーー……」

やっぱ答えにくいんだろうか。

「そうだな、厳格で自信家のリーダーって感じ……だな。悪い意味じゃなくて」

「大局を見ることのできる、必要な冷徹さを持った軍人らしい軍人ってところだな」

「だいたいそんな感じだな」

……。

「そっか」


 みんな、春宮総司令のことを信頼しているのは間違いないんだ。『最高司令官に、若い女はちょっと……』とか、『小娘に戦争なんてできるのか?』みたいな心配をされてたり、不平不満を持たれている気配は一切ない。むしろ、その才覚を評価されているようにすら思える。


 この時代観、この組織にあって、あの年齢(正確な年齢は分からないが、俺には同年齢か年下に見える)で部下たちの信頼を獲得できてるってのは凄いことだと思う。別に現代の軍隊や自衛隊ほど女性隊員が多いわけでもないこの組織でってのが、その凄さを更に上乗せしているような。



 ……ただ。


 『春宮総司令は、ああいうお方だったか……?』


 嶺善さんの言葉からも違和感を持ってたけど。今まで聞いてきた限り、春宮総司令が心優しいとか、そういう類の評判は聞かないんだ。どちらかというと人間味の薄い仕事人間ってイメージが定着しているようだったし、そういう意味での”能力”と”実績”ってところで信頼されている様子。


 

 「そろそろ時間かな。これから始める訓練は、昨日までのと違うものになるって話だが」

「そう聞いてる」

「島に上陸して何とかって話だったよな?大陸での戦闘とは違ったものを想定してるんだろ」


 ……ん??

「え、この辺のアジア地域って英仏やスペインの領土なんてあったっけ?」

「一応はあるぜ。そんなに大きくはないけどよ」

……。


 「早く来いよ!」

「あぁ、今行く!」


 そうして、俺たちは訓練へと戻った。


 これまでとは異なる、島嶼部地域を想定した訓練に……。 

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