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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
27/134

軍靴の足音 1

 晩飯を食い終えた俺は、一人与えられた部屋の中でなかなか寝付けずにいた。いつものように、色々と考え事をしてしまうのだ。中々眠れず早起きで苦労する人って、だいたいこんな感じじゃないのかなって勝手に思ってる。夜の思考ってマイナスになりがちだし、結局不機嫌な翌朝を迎えるくらいならサッサと脳を休ませたほうが良いに決まってるんだけど……。


 ちなみに晩飯のメニューはカレーライスだった。野菜の種類とかお肉の種類とかどうなってるんだろうと懸念したが、聞いてみればどれも普通に日本世界と変わらないものばかり。カレーに入ってたのもタマネギやらジャガイモやらで、特段”異世界の食事”感はなかった。安心したけど謎のワクワクドキドキ体験はできなかった、少し残念である。



 さて俺の境遇。なんやかんやで途轍もないお偉いさん(例の総司令官の女の子)に身分を保証してもらえることになった。ひのくに国民として迎え入れてくれるそうで、特にこの世界にきて間もない境遇であることから「しばらくはここでの生活に慣れろ」ということで衣食住を確保してもらってる。更にこの世界についての情報収集やお勉強に関しても色々面倒を見てくれるそうで、既に夕飯の時を含め嶺善さんと白楼さんからは色々とこの世界の常識やマナーについて教えてもらっているところ。……まぁ、ほとんど”100年前の暮らしを知ろう”みたいなノリになりつつあるけれど。


 「どーすっかなぁ……」

思わず独り言が漏れる。ほんと、どうすればいいんだろ。当面の生活に心配はないが、それでも一応は一人の真人間のつもり。”最終的なところ”まで考えるならば元の世界に戻るあれこれを考えるべきだけど、現状何の糸口もつかめないし、そもそもここに来た原因さえ全く不明。



 「お前は選ばれしもので、運命的にこの世界へ引き寄せられたのだ」


 「お前の使命はこの世界を平和にすること、大いなる”意志”により召喚された」


 ……ないない。妄想乙。その神やら意志やらがいたとして、なんで砲弾で俺を吹っ飛ばす必要があるんだ?そもそもこれが”誰か”の手で行われたことなら、せめて事前に説明くらいしてくれよ。意味わからないよ。



 でもなんだろ、そういうのじゃない気がしている。当てにならない直感だけど、俺がここにいるのは運命的なこととか誰かの意思によるものとかじゃなくて、ただの”事故”。なぜか、そんな気がしている。だから戻る方法とかもサッパリ思いつかないし、そもそも元に戻るために何を考えればいいのかさえわからない。


 だからこそ、今現在俺の脳内では「これからこの世界でどう生きていくのか」って課題が最優先されてるんだ。先々のことを考えるのが苦手ってことも、否定できないけど。



 まず、知識。ここは兵舎の中、いわば軍隊生活の拠点。ここに居ても軍隊のことしかわからない。ならば、明日からは暇を見て町中をうろついてみるか?その際にはもちろん、嶺善さんや白楼さんの同行が必要になるだろうけど。でも今この時代の生き方ってのを知るには、それが効率的な気がする。



 ……。


 ま、明日の朝に考えよう。


 お休み、世界。




*  *  *




 「二十六!二十七!二十八!!」

嶺善さんの声が鳴り響く。そう、彼は回数を数えている。なんの回数かって、腕立て伏せの回数。時刻は午前6時過ぎ、健康的な朝を迎えるためにはとにかく体を動かすことが重要なのだとか。


 ……問題は、なぜか俺も巻き込まれてしまっていることなんだけど。何故か早起きしてしまったんで軽く散歩しようと外出したら、近くの広場で体操をしている嶺善さんと遭遇。そっから「暇なら体を動かさないか」等々言われて流されこの状況。


 なんやかんやで昨日は眠るのが遅くなったんで、朝からこれは結構キツイ。しかしこういう流れになってしまったのは仕方ない、腕をプルプル震わせながらも頑張って回数をこなす。


 「四十八!!四十九!!五十!ここまでだ!」

何とか最後までやり切り、そのままへたり込む俺。腕立てって、腕だけじゃなく胸筋や腹筋にも負担がかかるんだよな……。

「うむ、やはり常人並みの体力は備えているじゃないか。立派だぞ、刻峰」

「はい……ありがとうございます!」

「眠気が来ないのは疲れておらんからだ。起きているうちに体を動かし適度に疲れておくことで、夜には体が相応の休憩を求めるということだ。これからは積極的に体を動かすと良いぞ」

「覚えておきます」

流石に、これ毎日やるのはしんどそう……。


 「班長」

声の主は白楼さん。首に薄目のタオルを巻いた姿で、こちらに走り寄ってくる。なるほど、彼女も彼女で朝の運動をこなしていたということだろうか。

「おぉ、白楼。お前も朝が早いな」

「ところで班長、刻峰さんは……?」

若干へばってる俺を見て不思議そうな表情。

「いや、その、班長さんに付き添って体を動かしてですね……」

腕立てだけじゃない。さっきは走らされもしたし、スクワットとか上体起こしっぽい何かとか色々やらされたのだ。普段あまり体を動かさない俺には重労働である。

「へぇ……。薄々察してはいましたが、あまり体力はないんですね」

だから、俺は貴方たちのように運動してないんだって。


 ……でも、ちょっと悔しい。いくら軍人さんとはいえ、同年代の女の子に体力不足を指摘されるとは。これでも一応、現代日本の水準では全然”体力ある人”なんだけど。


 「まぁ、いいです。一応我々の最低どちらかがいれば問題ないものと思っておりましたので。班長が付き添うのであれば、私はこれにて」

去ろうとする白楼さん。

「あ、あの、白楼さん」

彼女は足を止め、

「何でしょう?」

と、一言。


 ちょっと勇気がいるけど、照れくさいけど。お誘いしてみる。

「あの、朝飯いっしょに行きませんか?」




*  *  *




 『折角だから外に出るか』ということで、3人揃って近場の食堂へ向かった。他愛もない世間話を挟みつつ現地へ到着し――洋風のレトロ(と感じるのはここじゃ俺だけだろうけど)感ある店で、小綺麗だ――、サンドイッチを注文する。嶺善さんと白楼さんはライス、目玉焼き、ステーキ、サラダとかいう朝飯とは思えないセットを注文。


 「あの、朝からそんなに食えるんですか?」

素朴な疑問を問いかける。対する回答は実にシンプル。

「食える時に食うのが私のモットーでな。消費した栄養を補給せねばならんのさ」

「同じく」

「はぁ……」

そんなもんなのか。


 「ところで、今日はどうするつもりなんだ?」

「はい、実は街歩きでもしようかと思っておりまして」

そう、俺はこの世界に馴染まねばならない。それが現状の最優先事項である。そのためにはまずこの世界における一般的生活を理解しすることが大切。

「そうか……よし、我々も同行しよう」

「そうですね、しばらく非番ですし……」

若干遠慮がちにではあるが、白楼さんも同意してくれた。

「ありがとうございます!」

現状微妙な立ち位置にいる俺。単独でその辺をうろつけば、何らかのトラブルに巻き込まれたり妙な疑いをかけられるリスクが高い。その辺をフォローしてくれる存在が、今の俺には絶対に必要である。



 「じゃ、行くか」

そういうわけで、この世界における博多の街探検が始まった。




 ………。


 ……。


 …。


 結論として、やはりこの街は100年前の日本が西洋風を強めたものってイメージは正しかった。どこで何が買えるのか、どこに何があるのか、街全体の構図はどうなってるのか、そういうことを色々と学ぶことができた。


 それから職探しについても考えながら歩いていたが、やはり時代が時代なんで第一次産業及び第二次産業がメインの就職先になりそうであった。”サービス”よりも”モノ”を売るお店が圧倒的に多く、現代のように第三次産業がメインだったりIT関連の企業が多いなんてことはない。この世に馴染んでない俺の選択肢は、その中でも更に狭まってしまう。



 知らない世界の知らない町、観光目的ってことで言えばこの上なく楽しめたように思う。ただし、俺の心には「ここでやっていけるんだろうか」って小さな不安がずっと残って離れなかった。

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