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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
21/134

安寧と…… 3

 なるほど、国際関係についてはなんとなく理解した。確かにこれは、日本世界における100年ほど前――ちょうど第一次世界大戦が勃発する前の国際関係によく似ている。枢軸国と連合国の対立構造、そこでお互いに同盟関係を強めていった挙句、芋づる式に参戦国が増加していき前代未聞の地球を股に掛けた大戦争へと発展したのである。


 ……これ、かなり嫌な予感がする情報だ。素人目には何とも言えないが、下手したら”日本世界と同じこと”が起きるんじゃないだろうか。



 とはいえ、それはいったん置いといて。もう少し細かいことも聞いておきたい。

「例の台湾での戦い、あれはイギリスの伸長をひのくにが阻止した、って構図になるわけですよね」

「そうなるな」

……。

「イギリスって、本気で台湾を取るつもりだったんでしょうか?」

「……」

意図は伝わったらしい。しばらく考え込む嶺善さん。


 「目の付け所が良いな、刻峰」

もうしばらくで兵舎に到着。それまでにどうしても聞いておきたい。

「少なくとも、あの戦いで敵に”やる気”があるようには思えませんでした。夜襲にしても、もう少し効果的な方法はあったんじゃないかと思いますし」

もっと深夜に襲うとか、事前の砲撃をもっと激しくやるとか、せっかく侵入ルートを作ったんなら一気に攻めるべきとか、一晩で押し切られるくらい無防備な体制で待つなよとか。職業軍人たる嶺善さんの目にはどう映ったのだろう。


 「正直に言って、杜撰と言わざるを得ないな。まぁ敵にも色々事情はあったのだろうが、確かにお前の言う通り中途半端な戦い方をしていた」

嶺善さんでもそう感じる、と。ということは、イギリス側の戦い方は素人目にもわかるレベルでやる気のないものだったのだろう。

「それに侵攻も性急すぎた。その気になれば機を見て大軍を送り込むことも容易だったろうに。それがなぜなのかは分からん、イギリスには頭の切れる幹部がいくらでもいるというのに」

嶺善さんの表情は、あの時を思い出しつつ本気で疑問を持っているかのよう。頭のいい幹部がいる、それってつまり、あの戦い方に関して”これじゃマズイだろ”って認識できる人間がちゃんといたってことだよな。


 なのに、なぜ……?




*  *  *




 それから数分もしないうちに兵舎へと帰還。部屋へ行くと、掃除と備品の戦場を終えた白楼さんが洗濯物を干しているところだった。

「今、戻った。ご苦労だ」

「いえ、班長こそお疲れ様です」

多少は埃被っていた部屋も、見事なまでに綺麗な状態へ早変わり。床も壁もピッカピカであり、その作業の勲章と言わんばかりに白楼さんは汗ばんでいる様子。


 …色っぽい。


 …やめよう。


 「ほんと、ありがとうございます」

素直に礼を告げる。使うか使わないかもわからない余分なベッドの部分も徹底して綺麗にしてあり、俺ならこの時間じゃ無理だなって思えるくらいの仕事っぷりだ。

「以後は、ご自分でお願いしますね」

無表情が崩れ、少々だが疲れの見える表情でそう返される。

「疲れたろう、水でも取ってこようか」

「お願いします」

そうして嶺善さんは一旦部屋を離れ、結果俺と白楼さんだけが残されることとなった。



 ……苦手とかじゃないしこの人のことをこれっぽっちも嫌ってはいないのだが。なんか、気まずい。



 その感じをぶち壊すため、俺も作業に加わりつつ話を始める。

「あの、春宮総司令ってどんな方なんでしょう」

「……」

作業を続行する白楼さん。え、スルー?シカト?……キツいわ。

「……そうね。総司令官の地位に相応しい品格と才覚、それに実績と能力をお持ちの理想的指導者だと思っていますよ」

あ、シカトされたわけじゃないんだ。ホッとする。

「貴方を呼び出そうと言われたのも、軍内で起こるトラブルについては全て把握しておきたいからだと思う」

トラブルって言われるの、なんか嫌だ。嫌味や皮肉ってわけじゃないんだろうけど。

「全て、ですか。総司令は、情報収集に熱心なんですか?部屋にもたくさんの資料や本が山積みでしたが……」

「そうね、確かに情報収集には余念がない。でも、あの本は殆ど無用の長物なの。そのうち、全部入れ替わってるはず」

……?

「どういうことなんでしょう」

「春宮総司令官は、ひのくに軍に在籍する将兵全員の名前、血液型、来歴、誕生日に至るまで全て暗記しているほどの記憶力をお持ちだから」

……!?


 「本当なんですか?」

流石に信じられない。歩く百科事典とか呼ばれてるメチャクチャ博識な人でも、それは絶対無理なんじゃなかろうか。

「本当よ。もし次に会う機会があれば、総司令様に直接確認してみるといいわ。記憶力だけじゃない、あの方は見たものをごく短時間で覚えきってしまえるの」

それは聞いたことがあるような。カメラアイ、だっけ。見たものを視覚的に、正確に、鮮明に覚えることのできる能力。超能力とかじゃなくて、実際にそういう例があるらしいって聞いたことはある。カメラアイってなんかかっこいい響きだな~とか、そんな風に記憶していたような。

「だからこそ、判断が速い。各人の経歴や実績、人柄に至るまで知り尽くしているから、適切な人材配置もできる。軍隊だけじゃなく、いろんな環境でご活躍なさるお方です」

カメラアイと、無限ともいえるレベルの記憶力。そりゃあ有能も有能な人材なのだろう。それこそ、お勉強でもビジネスでも、その圧倒的才能を遺憾なく発揮できるはず。



 ……そういえば、もう少し気になることが。


 「ところで、その、白楼さん。春宮総司令官とはどういったご関係なんでしょう」

側近かつ最前線で戦う女兵士なんて聞いたこともないんだが。

「昔、ちょっとしたご縁があったので。私は総司令様を敬愛しており、総司令様も私を何かを気にかけてくださっています。直属の側近であったり側に控える立場というわけではなく、単に他の者よりもお会いする機会が多いというだけのことです」

それきり、仕事に没頭する白楼。比較的感情を見せなかったが、『昔、ちょっとしたご縁があったので』このあたりで少しだけ暗い顔をしていたような気がする。……詮索はよそう。俺も黙々と作業を進めることにした。




 「とりあえず、こんなもんか」

戻ってきた嶺善さんも家財道具の設置やら何やらを手伝ってくれて、それからすぐに作業は完了。こちらに来てから数日も立たないうちに、晴れてこの世界の新しいゲストとして迎え入れられることになるとは。元の世界に帰る方法とか色々考えなくちゃいけないことはあるけれど、当面マトモに生活できる拠点はどうしても必要になる。


 「助かりました、マジでありがとうございます」

本当に助かる。俺も体力はそこそこある方だと思っているが、この人たちは比べられないほどにたくましい。嶺善さんにしても白楼さんにしても動きがかなりテキパキしていて、まるで超リアルなアンドロイドみたいに思えるほどだ。

「いえいえ、お気になさらず」

「俺たちの居住地もここから近い。しばらくは毎日、様子を見に来るさ」

「重ね重ね、ほんと有難いです」

総司令からの命令とはいえ、一民間人の世話をここまで焼いてくれる人たちが他にいるんだろうか。そもそも総司令は何でそこまで俺に肩入れするんだろう。単純に「異世界からの来訪者?珍しい!」ってだけじゃないように思える。


 「時間も遅い。とりあえず、飯食いに行くか。刻峰、白楼、ついて来い」

「了解です」

「はい!」

時刻は午後6時過ぎ。今朝博多に到着して今まで色々動き回ってたんで、かなり空腹である。一応ここに向かうときと買い出しに向かうとき車中で握り飯を食わせてもらったが、今は体が更なる栄養を求めている。携帯食がおにぎりってことは日本に近い食文化なんだろうけれど、ここのご飯はどんな感じなんだろう。


 「ちなみに刻峰。ここ博多の基地で食える飯は……最高だ」


 Wow。


 そんなこんなで、俺らは基地内にある食堂へと向かった。メニューは何かな、なんて色々妄想しつつ、軽い足取りで……。

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