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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
20/134

安寧と…… 2

 「……なぁ、白楼」

「なんでしょう」

「春宮総司令は、ああいうお方だったか……?」

「えぇ、時々」

「そうか……」

施設内を歩き回っている間、白楼さんと嶺善さんはそんなことを小声で話していた。そういえば嶺善さんは、彼女を見て意外そうな表情を浮かべていたような。



 なんだかんだあって、当面の間俺は空いた兵舎で生活することになった。この世界や時代観での部屋選びとか全然わからないし、そもそもここに住み着くことになるかも決まっていない。『とりあえず衣食住をどうにかするぞ』ということで、まさにその三要素が揃っており、なおかつ世話役の二人との物理的距離も近い。考えてみれば、自衛隊や世界の軍隊は災害派遣などで被災者の衣食住を提供するって役目も担っている。たった一人の面倒を見るのはそう難しいことじゃないのだろう。総司令からの頼み事ってこともあるんだろうが、各種手続きはかなりスムーズであった。


 「当面は、ここで生活することになる」

まさかの4人部屋。二段ベッドが2つ。ベッドの数は有り余るほどだが、残りの面積はそんなに広くない。刑務所よりは遥かにいい環境なのだろうが……。

「ここを、一人で」

「贅沢なもんだろう?」

嶺善さん、初めて冗談を言ったな。堅苦しい感じの人だと思ったけど、良い性格した普通のおじさんなのかもしれない。

「毎日ベッドを変えれば気分転換ができるかも。寂しければ、各ベッドにぬいぐるみでも置きましょうか」

こっちもかい。苦笑いで受け流す。


 「服については……買い足すか」

「そうですね……できれば、お願いしたいです」

毎日作業着や軍装ってのはちょっとな。一回くらいは着てみたいけど。

「私は、この格好楽で好きなんですけどね」

「白楼さん、それ普段着なんですか?」

「そうしてますけど、何か?」

「……いいえ、なんでも」

確かに、今でいえば『ミリタリーテイストを取り入れたストリートカジュアル』とかで通せそうな感じの格好ではあるけれど。この人オシャレとかに興味ないんだろうか。

「まぁ、とにかく。買い出しは必要だろうな。白楼、この部屋を掃除してくれ。俺は刻峰を連れて買い出しに行ってくる」

「了解しました」




*  *  *




 「あの、嶺善さん」

「なんだ?」

「春宮さんって、いつもあんな感じなんでしょうか?」

難しい顔をする嶺善さん。割と答えは察しがついている。

「……俺は、初めて見たな」

やっぱし。

「普段はもっと、気難しい方だったり?」

「気難しい……というか、そうだな。まぁ、そんな感じだ」

「そうなんですか」

服屋を物色しつつ、色々を重ねる。


 「それから、気になっていることもあります。台湾ではイギリスと戦っていましたが……」

「それは、後で話そうか」

「……はい」

なるほど、ここでは色々と人の目と耳がある。つか、俺も民間人なんだけど。

「さて、買うものは決まったか?」

「はい、こんな感じで」

割と古めかしいデザインの物の中から(そりゃそうだ)、比較的抵抗のない品を選んだ。

「……シンプルだな」

「ですね」

それくらいしか選択の余地がない。無地のシャツ、無地のジーンズ。これは今でも殆ど変わりなくその辺で買えるものだし、何の抵抗もない。というか置いてあるんだな、ジーンズとか。

「分かった、じゃあ買ってこようか。しばらく待っていろ」

「ありがとうございます!」



 そのほかにも雑貨や生活必需品をあらかた買い終え、車で兵舎へ戻る。ここなら、他人に話を聞かれる心配もないだろう。

「……先ほどの話なのですが」

「問題ない、なんだ?」

一応、戦闘の一部始終を観察してきたわけだし。やっぱり気になったことは潰しておきたい。……我ながら、割と好奇心の強い人間だったんだなって少し驚いている。人様の事情、いや元の世界に戻るまでは自分の国の事情でもあるし、当然と言えば当然か。


 「イギリスと戦っていましたが、あれはどういう理由なんですか?」

単刀直入に質問。

「……簡単に言えば、台湾の領有権を巡る争い、だな。領有権というか、そもそも台湾は我が国にとって大事な貿易相手であった。そこにイギリスが強硬的に支配権を主張し、まず台湾政府と対立した。当然、我が国も台湾との関係を保持するためイギリスに対抗する措置を取った。そして交渉の末の結果が”アレ”だ」

ハンドルを握る嶺善さんは、運転に手中しつつも丁寧に答えてくれている。

「イギリスは、なぜ台湾の支配権を?」

「そりゃあイギリスに聞かないと分からんが、客観的に言えば『植民地拡大』ってとこだろう。なぜ性急に台湾を攻めたのかは分からんがな」

「……話を大きくして申し訳ないんですが、今の世界情勢ってどんな感じなのでしょう」

「少し長くなるが……」





 聞いた内容を頭の中で整理する。現在この世界は、俺の知っている1900年代初頭と似たような構図になっているらしい。 群雄割拠している各国が周辺の大国と競争関係を強め、勢力拡大に躍起になっている。時が進んでおおよその勢力図が完成し安定してきた所ではあるが、その中でも対立と伸長を図る大国が存在している。


 まず、イギリス。台湾を攻めてきたことからも分かるように、既に安定してきた勢力図を更に塗り替えるような態度を見せている。オーストラリアとニュージーランドは本国との戦争によって独立を勝ち取り完全に別路線で動く国家となったが、カナダの方は半ば傀儡政権のような状態にあるらしい。また複数の大国――フランス、スペイン等と協力関係を築いており、”イギリス陣営”として認識されている。


 次に、アメリカ。こちらも日本世界と同じくイギリスから独立した形で成り立っているが、オーストラリアとニュージーランドに同じくイギリスに敵対的である。そのうえで二大大国状態が作られ、どちらかというと冷戦に近い構図が完成しつつあるという。イギリスが”さらなる伸長”を目指しているのに対し、アメリカ側がその動きを妨害するような行動を取っている。そしてこちらに同調的なのは”北欧連合(フィンランド、ノルウェー、スウェーデンが合体したそうな)”、ひのくに、そしてオーストラリア-ニュージーランド。


 今のところはこの二大陣営が世界情勢の中心であり、今後の展望についてはいまだよくわかっていないらしい。



 そして他に大国と言えば中国、そしてロシア。この世界ではそれぞれ”中華帝国(略しちゃえば中国)”、”ロマノフ帝国”という名称であり、いずれの陣営にも属さず日和見を守っているのだという。この他にはインド王国、モハメッド帝国(オスマン帝国?)などがイギリス、アメリカ陣営それぞれと交流を維持しつつ陣営決定に揺らいでおり、現状はこの二国のどちらが引き入れるかって競争が水面下で行われている模様。


 更に意外な情報として、今現在”ドイツ”という国家は存在しない。ドイツ統一前の諸国すら存在していない。しばらく前までは”ドイツ国”が存在していたものの、フランスとイギリス両国との大規模な戦争の末、完全に植民地化してしまったとのことだ。特に確執の強いフランスとの戦いは凄惨なものだったようで、現在の統治もかなり厳しいものなのだという。


 ついでにアフリカも同様。こちらは昔に大規模な争奪戦が行われたそうで、最終的に”西アフリカ連合”と”東アフリカ連合”とに分かれ、東はアメリカ側、西はイギリス側に統治されている。一応は”国”単位で存在しているものの、その実連合会議に支配された完全な傀儡政権に成り下がっている。



 つまるところ、現状アメリカ陣営vsイギリス陣営の冷戦(地味に代理戦争みたいなものは勃発しているが)状態にあり、現在の国際緊張関係はすべてここに帰着するとのことである。




 「そういうわけで、イギリスと我が国が対立関係にあるのも必然のこと。我々は親アメリカ的姿勢も見せているし、奴らとしては早めに弱体化させたいのだろうよ」

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