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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
18/134

本土へ 4

 「……という成り行きで、私はここにいます」

説得というより、聞き手が”お話”として理解できるよう言葉を選んで説明した。元居た場所、ここに来る前の体験から保護されここに連れてこられるまで。元の世界とこの世界の違いについても気づいた範囲で色々と伝え、とにかく正直さと誠実さってのを意識。


 どういう反応が返ってくるかと思ったが、


 「……元居た世界とやらについて、詳しく聞こうか」

意外にも、すぐさま否定されたり「???」って顔で俺を見るようなことはなかった。



 質問に対し、シンプルに、簡潔に答えていく。質問の前半は家族構成や経歴(学歴と認識して素直に回答)、現在の(日本での)実生活について。病歴や犯罪歴についても問われたが、プライバシーがどうのって話をしている場合じゃないし、そもそもその概念が存在するかも分からない。


 次に聞かれたのが、世界の歴史について。高校受験で頑張って覚えた内容をフル活用し、人類の起源から文明の発生、次いで欧州、中国、インドの歴史を中心に南北アメリカやアフリカのことについても軽く触れる。中国の文明を欧州が通りこしたあたりから欧米列強が世界を股にかけて競り合うような構造となり、そこに日本も加わっていったこと、そして二度の大戦が勃発したこと、日本が敗戦国となり軍隊を失ったことまで時代の流れが伝わりやすいように話す。


 次いで日本の歴史について、こちらも教科書通りの内容を覚えている範囲で簡潔に説明。大昔からずっと続く天皇家中心の王朝と、それと並ぶ形で栄えては衰え、発生しては滅んでゆく幕府や支配者層の話。聞き手が意識しているのは”理事整然としているか””適当なことを言って辻褄合わせをしていないか”等と推測されたため、よく覚えていない部分については正直にそう答えたり、『確か、そうだったと記憶しています』とのみ答える。もう少し記憶力が良ければよかったんだが……。



 やっとのことで全部話し終える。嶺善さんにも話していないことがあったからか、俺の話を熱心に聞いてくれていたらしい。特に日本と世界の歴史について、嶺善さんからもときおり質問が来ていたし。


 「我々のいる世の中とは異なる歴史、か……。面白いじゃないか」

中隊長は、信じる信じないってのは別として俺の話に興味津々である。この人、コーヒー褒められたあたりから俺のことを肯定的に受け入れ始めてるんじゃないだろうか。


 「どう思われますかな、軍医殿」

軍医!?お医者さん!?軍服姿の二人に目を遣ると、当たり前のように中隊長さんへ返事をしていた。

「そう、ですなあ……。正直なところ、ですなあ……」

「妄想性障害、統合失調症、或いは重度の虚言癖」

片方は何か言いあぐねているが、もう一人は単刀直入に感想を述べる。

「この世に存在しない物語をここまで細かく語れる、と。よく設定が練られているようですね、としか言えません。大方、激しい戦闘を目の当たりにしてショックを受け、現実逃避や自己防衛のためそういった妄想を現実のものと捉えているのでしょう」

確かに、それが一番ありそう。俺は妄想も嘘も何一つ言っていないけれど。


「うーん……私もねえ、大体そんなもんだと思いますよ。ただねぇ……刻峰さん、そういう風に参った人間には見えんのですわ」

辛辣じゃない方の軍医が俺の方を見る。

「なぁ、あんた。あんたは本当に、”ここ”じゃないところにいたのかね?」

「はい、間違いありません」

即答、それも強めに即答。少しでも挙動不審と判断されたら速攻で病院送りにされそうな気がするし、自信と誠意が同時に伝わるようハッキリと返答するのだ。


 「中隊長殿、軍医殿、発言よろしいでしょうか」

ここで嶺善さんも話に入る。

「どうぞ、話したまえ」

どうやらこの場で一番発言力が強いのは中隊長さんらしい。

「私は、彼がここに来た……と、少なくとも”自称”しているその日からずっと様子を見てきました。彼は特に挙動不審さや精神の不安定さを窺わせるようなこともなく、また自らが危険な場であっても他人のためにリスクを承知で動いたこともあります」

少しでもいい印象を持たせようとしている?何が言いたいのだろう。

「他の世界から来た、或いは他の時代から来た、少なくともどちらかは確かであると考えます」

「どうして、そうまで断言できる?」

否定したい気持ちが先立っているのではなく、あくまで純粋に興味を持ったような質問。

「……刻峰」

「はい」

「例の”端末を”」

なるほど。



 ポケットからスマートフォンを取り出して起動させる。嶺善さんや中隊長、軍医にもそれぞれ画面が見えるように操作。起動すると、バッテリーが残り50%ほどになっていることに気づく。この世界じゃ充電できないんだよな……。


 「これは、私のいた世界、時代に普及している携帯端末です。強いて言えば……電報、電話、無線連絡に近いものを世界規模で行える装置です」

やっぱり圏外なので、嶺善さんに見せたような形で写真を撮り、それを中隊長さんと軍医さんに示す。彼らは驚きと奇異の目で端末を見つめ、要求されて渡してみると本体や画面をまじまじと観察していた。特にこの世界じゃタッチスクリーンなんて存在しない、ここも彼らが驚いたポイントらしい。


 「このように、彼は我々が未だ到達していない高度な技術をもった端末を所持しています。服装についても、この世にあるどんなものとも異なるようです。私としては、彼の言動、所有物等から”本当に別世界から迷い込んだ者”であると考えております」



 「よかろう」

しばし沈黙の空気が流れたのち、中隊長さんが口を開く。

「軍医殿の意見も鑑みたうえで、だ。嶺善および当の本人である刻峰、この両名の主張を、私は嘘だと思えない。軍医殿お二方、彼らが精神異常者、或いは戦いのショックで都合よく記憶を捏造された者であると判断されるかね?」

問われる軍医は、それぞれ

「……あまりに現実性はありませんが。まぁ、その端末とやら、確かに現在の技術で作れるものとは考えられませんな。ただ機械については明るくない故、そちらも専門家の調査が必要だと思われますが……」

「わたしゃ、この男が馬鹿には見えませんなぁ。彼のいう”別世界”、確かに、そんなことを言う阿呆を見たことはございますがねぇ。皆そいつら頭のねじが吹っ飛んでるような連中だったが、彼はイカれてなどおりませんでしょう?」

現物の説得力は恐ろしい。スマホ一つで信頼を獲得できるって、マジでスマートフォンスマートである。……まぁ、ここでは文鎮なのだが。


 「では、彼の端末は預からせてもらうとして……よろしい、捕虜ではなく”民間人”として扱いましょう」

「はい」

「はい!」

何はともあれ、色々と嫌疑が晴れたこと、また俺がただのおかしい奴じゃないんだって理解されたことに大きな喜びを感じる。実際は彼らも半信半疑……現実感が湧かないって様子ではあるけど、ともかく病院とかそういうところにぶち込まれる心配はなくなったわけだ。一安心。



 ……ただ、一つ残念なことがある。現状役に立っていないし、バッテリーが切れれば無用の長物となってしまうスマホ。それでも、俺にとっては元の世界にいたんだってことを示すたった一つの証である。これを分解などされたり、最終的に接収されるとなると結構辛い。でも、やっぱ渡しませんとかそういうことも言えない。


 ……どうしよ。



 その時、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「誰かな」

中隊長さんは意外そうな顔で、ドア越しの相手に話しかける。

「……春宮総司令官より、伝言を預かっております」

あれ?どっかで聞いたような声。そしてその内容を聞くや否や突然姿勢を正し、表情を改めた中隊長がドアを開ける。


 前回とは異なる服装(一応軍服だが内勤用?上は白シャツみたいで下も薄手の生地っぽい)だが、相変わらずの黒髪、相変わらずの無表情、そのうえで端正な顔立ちの女。そこには、白楼魅夜が立っていた。



 「嶺善班長、刻峰さん。春宮総司令官がお呼びです。可及的速やかに総司令官の部屋を訪ねるようお願いします」


 総司令官……?

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