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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
16/134

本土へ 2

 「……え、なんかまずい話だったかな?」

微妙な空気。文民が口を挟んじゃいけないとか、そういう一線でもあるのだろうか。

「いや、別に……てか、お前、あの状況でそんなことかんがえてたのか?」

本当に驚いた様子の勇田。

「あなた、フツーの民間人の方なんですよね?」

微妙に問い詰める信濃原。別にやましいことはないので正直に答える。

「あぁ、普通の学生……だったよ。オタってわけじゃないけど、多少は軍隊のこととか歴史とか知ってるくらい。そしてこれもあの時冷静に考えたことじゃなくて」

咽喉乾いた。水を一口……。よし。

「この船に乗ってしばらく暇だったし、寝る前とか色々考える癖があってさ。それで戦いのことを考えてみたら、色々おかしくねって思っただけ」

暇だったから、というのは誤り。確かに時間はあったけど、俺が本当に考えるべきは『これからどうするか』ってこと。ただ一度に色々なことが起こりすぎてて頭の整理が追い付かない。そして、異世界で(俺には都合よく超能力やら伝説の剣とかは与えられなかったらしい……そんな状況で)無一文状態の無戸籍人間がどうやって生きていくのか。いや、テーマが壮大すぎるでしょ……。


 そんなこんなで本来すべき思考をいったん放棄し、しばらくの間現実逃避に走っていたのである。



 「刻峰。おまえさ、胆据わってんな」

更にグビっと一杯、景気のいい飲みっぷりである。勇田マジで大丈夫か?もうすぐ吐きそうなくらいのペースでどんどんアルコールを摂取していく。

「ですね。まぁ確かに、私も敵さん勝つ気がないんじゃないかなって思えましたけど」

あ、さっきのって普通にいい意味で驚かれてたのか。また変な疑惑が浮上したのかと心配してたけど。

「そう、俺も孤立したあと、敵が一向に攻めてこないもんで色々勘ぐってた。でも特に奇策を弄してる雰囲気もないし、そのうち味方が反撃始めたらものの見事に押し切れたもんだからよ」

「やっぱり、いつもあんな感じってわけじゃないんだ……」

戦争ってのは、戦いのプロがすることじゃないのか。作戦考えたり指示を出したりするのって、色々計算したり『どうやったら勝てるのか』『どうやったら効果的に敵を倒せるか』を考えるものなのでは。……まぁプロでも失敗はするだろうし、実際後世で酷評された戦略家ってのは沢山いるけれど。


「……敵はな。ただし俺は、いつもなら今回以上に鮮やかな狙撃をバンバンやってのけるけどよ!」

「あの、勇田さん。そろそろ飲みすぎじゃないですか?」

そういう信濃原は勇田よりもハイペースなんだけど。

「だいじょぶ、だいじょぶ!最悪由紀が介抱してくれるしな!」

そう言うと、勇田は若干ふらつきながらも問題なく立ち上がる。

「……平気なんだが、何の問題もないんだが。刻峰、ベッド貸してくれ」

なるほど、眠くなるタイプ。

「もちろん。テキトーに寝転がってな」

なんかもう、普通に友達感覚で接している。勇田のキャラは結構取っつきやすくて助かる。



 ベッドにダイブする直前に信濃原から受けとった水を一気飲みした勇田は、そのままベッドに寝転がる。速攻で眠りに落ちたらしく、小さなイビキが聞こえ始めた。

「勇田さん、いっつもこんな調子なんですよ」

「まぁなんというか、『いかにも』って感じだな」

「えぇ。勇田さん、結構優等生なんですよ」

確かに、新兵募集の広告にでも使えそうな爽やかさとサッパリした性格。それに腕も立つ兵となれば、それはもう『優等生』だろうな。


 勇田は寝ている。信濃原も微妙に酔っていはいる様子。……いや別にやましいことを考えているのではなく、この状況でもう一つ『聞きにくい質問』をしておこうと思った。



 「信濃原、ひとつ聞いていいかな」

「なんでもどうぞ!どんとこい、です!」

ニコニコしながらこちらを見つめる信濃原。もしかしたら、その笑顔が終わっちゃうかもだけど。でも酒の入っている今なら、タイミング的にマシと言える。


 余計な疑問は今のうちに潰しておこう。そういうことにして、信濃原へ全力の好奇心をぶつけてみる。


 「あのさ、嶺善班って、結構変わった人が多いよね」

ド直球。一応オブラートに包んだつもりではある。

「そうですね~。確かに、”変わった”班員が多いですねえ」

特に気にしてなさそう。一応、その”変わった”人の中に信濃原も含まれてるんだけど。

「普通の兵隊さんとは色々違っているように見えた。周りの人たちは数人単位やそれ以上のグループで動いてたけど、嶺善班の人たちは単独行動も当たり前にやってのけてる。」

抽象的だが、言いたいことがわかるように質問してみる。


 「嶺善班ってさ、どういう班なの?」




 しばし沈黙する信濃原。ただ気に障った感じではなく、言葉を選んでいるような様子。それからおもむろに一杯空け、語り始める。

「そうですねえ……。確かに、一般の部隊の方と比べたら特殊な人たちってことにはなるでしょうね」

「特殊……?」

「はい、特殊です。色々事情があるんですが……言ってみれば、”才能ある問題児たち”って感じですね!」

”才能ある問題児”。この言葉の解釈に数秒を要した。

「問題児って、なにか”やらかした”人だったり?もしくは別の……」

「色々、ですね!」

またグラスに酒を注ぎつつ、おっとりした声で続ける。

「まぁ、その、なんでしょう。私の場合は……ほら、ライフルとか持ってないじゃないですか。徳永さんは日刀一本ですし、神吉さんはお爺ちゃんです。魅夜さんも、まぁ……。」

確かに。”色々”あるみたいだ。

「ちなみにさ、勇田って……」

「はい、勇田さんは”やらかした”系ですね」

”やらかした”。色々邪推してしまいそうになるが。でも、

「勇田って、変なことしそうには見えないんだけど」

「えぇ、もちろん悪質なことではないんです。仕方がなかったっていうか、結果的に勇田さんは悪くなかったって証明されているんですけれど」

何気なく、寝ている勇田の方をチラ見。相変わらずのイビキ、コッソリ聞いているとかそういうことはなさそうだ。


 「とにかく、そういう感じです。それで、それぞれみんな癖が強い人たちなので、まとめて管理できるのは嶺善さんくらいだろうってことで、こんな感じになってます」

「なるほどね」

癖が強いってのもよくわかる。もはや管理ができてるかどうかは分からないくらい奔放に戦っている様子だったけど、それでも緩やかにコントロールできてるってことなんだろう。

「それにしてもびっくりしたよ。徳永さんなんて刀で戦ってたよね。銃に立ち向かいには結構しんどそうだと思うけど」

「そのあたりは心配ないと思います。徳永さんはライフルの腕も相当いいので」

「それなら、ライフルをメインに据えればいいんじゃないのかな。なんで刀に拘るんだろう」

「確かに、銃剣術も軍内でかなりの評価を得ているらしいですけどね。たぶんライフル持っても変わらず活躍されると思いますよ。ただ徳永さん曰く、『こっちの方が信頼できるから』ってことらしいです」

信頼できる、か。命を懸けるなら、一番得意な得物にってことか。命懸けの環境に身を置き続ける者にとって武器が”実際に使える”、”ちゃんと思い通りに使用できる”ことが大事なのか。……それでも『剣術得意だから刀で戦います』って極論もいいとこだと思う。




 それからしばらく話し込んだ。その後、『そろそろですね』と言った信濃原は眠ったままの勇田を肩で担ぎ、そのまま『じゃ、また!』と部屋を出ていった。


 ……そういや、霧雨さんや滝隅さんあたりにはどういう事情があるのだろう。気になる。また話をするときにでも聞かせてもらおう。

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