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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
14/134

嶺善班 4

 ……超びっくりした。タイミングが絶妙すぎる。


 「あぁ、ご苦労だった」

相変わらずのそっけなさで返答する嶺善。そしてそれを聞くや否や少し離れたところで正座し、銃と銃剣の洗浄を始める白楼。何を洗っているかって、大量にこびりついた血液……。


 「して、何の話かな?」

神吉さんが、俺に質問を促すが。

「いえ、なんでもありません。忘れてください」

この状況で彼女について何か質問をすることに、俺はちょっとした恐怖を感じている。てか普通に聞かれそうな距離だし、無理無理。


 「そうか」

質問を撤回された老兵は、どこか遠い目をしながら語る。

「刻峰、といったね」

また同じ質問。

「えぇ、刻峰将平といいます」

「君は、今までここにいたことはないのだよな?」

「そうですね、しばらく前まで”別のところ”にいたもので」

「……そうか」

何が言いたいのだろう。俺の素性が気になっているとか、そういうことなのだろうか。


 「ワシはな、その名前に聞き覚えがあるのだ」

「……はい?」

「刻峰……あとの名前は覚えとらんし知らんが、少し前にそういう名前を何度か耳にしたもんだ」


 日本でも自分の身内以外で聞いたことないんだけど。珍しい苗字であることは確かだろうが、ここではどうなのか分からないし、偶然そういう苗字の人がこの世界にもいたってことなんだろうか。少し、興味が出てきた。


 「その人について、教えていただけませんか」

そうやって情報を引き出そうとするも、

「ん~とな……いやぁ、名前が特徴的で覚えていた以外、なにも心当たりはない」

期待は見事に裏切れらる。

「そうですか……」

「だが、嶺善ならば何か知っているかもしれん、そのうち聞いてみると良い」

「はい!」

現時点で、俺の気になっていること。どちらも好奇心程度だけど、そのくらいの興味くらいは持っておかないと頭がおかしくなりそうだ。とりあえず差し迫った危機は去ったようだが……異世界にきてるんだよな、俺。どうやって生きていけばいいんだろう……。




 「今戻った、班長」

知らない人の声。振り向くと、そこには血塗れの男が立っていた。



 「!?!?」

メチャクチャビビる俺。今までの人生で一番びっくりしたかもしれない。突然背後に短髪でゴツイ体格した、全身血塗れの男。戦って戻った班員たちは少なからず装備や服に血や泥が付着していたが、そんなレベルじゃない。シャワーでガッツリ血しぶきでも浴びたのかよってくらい真っ赤である。手には武器も持っているし、むしろホラー的な怖さすら覚えてしまう。


 「おぉ、戻ったか」

嶺善さんのご挨拶。ということは、この人は残りの……。

「いつも通りだった」

「そうか、また潜り込んでいたと?」

「あぁ。仕事はした。ところで、」

彼は俺を見る。その容貌と相まって、俺は素直に目を見返すことすらできない。……なんなんだろう、この感じ。

「……大方、民間人でも保護したってところか」

「そうだな。そうだ刻峰、紹介しておく。私の知る最も優秀な兵士、霧雨撒炎だ」

霧雨、撒炎。最も優秀。さっきの会話からして、単独で敵地に潜入して延々戦ってたってことなのか?一人で?それなんてメタ〇ギア?


 「刻峰、か。嶺善班長、この男もしかして」

「いや、さすがにな」

……意味深な返し。

「……そうか。まぁ、いい。これから戻るのか」

「うむ。戦闘も終わった、中隊長のもとへ向かう」

「わかった」


 それから再び俺に一瞥をくれ、しばし凝視。捕食者に見つめられる小動物にでもなったかのような威圧感。こえーよ、この人何者なんだ、なんか”凄そう”ってのはさっきからよくよく伝わってくるんだけど。


 「よーし!皆聞け、これより中隊長のもとへ向かう!」

「了解!」

班員たちの了解合唱。こういうところを見ると、やっぱ軍隊ぽいなって思えてくる。ただ一人霧雨さんだけは、静かに「わかった」と返していた。俺も着いていきながら、たまりゆく疑問について色々考えていた。


 この世界に来たこと。白楼魅夜の謎。もう一人の”刻峰”。そして霧雨撒炎とかいうよくわからない”最優秀”の兵と評される男。



 なんなんだ、一体。




*  *  *




 中隊長の幕舎に赴き、嶺善さんと中隊長(軍帽被ればそこそこイケてた)がしばらく話し合った後「とりあえず連れて帰る」って結論に至ったらしい。周辺の地図を見せてもらうと案の定”日本世界”と酷似していて、ここ台湾からひのくにまでは輸送船で移動するとのこと。兵員たちと一緒に乗ると何かとトラブルがあるかもってことで、俺は個室へと案内された。


 「調度品には極力触れるな」とのことだったが、そもそもそんな発想俺にはない。見た感じ、誰かそこそこ階級が高い人に割り当てられた個室っぽいし。その部屋主は今ここを使っていないということで、その誰かってのは俺なんかのためにわざわざ部屋を開けてくれたか、或いは”帰ってこられなくなったか”のどちらかしかあり得ないから……。



 部屋のベッドに寝転がってどうしたものか迷っていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「刻峰、いるか」

「はい」

特に施錠もしていない(というか、するなと言われている)、返事の直後に扉が開けられる。声で予想はついていたが、やってきたのは嶺善班長だった。

「しばらくは暇になるだろう。この船は、あと3日から4日ほどで本土へ……博多へ到着する。」

博多って地名はちゃんとあるんだ。……まあ、俺の知っている福岡の街・博多とは違うのだろうけど。

「……すこし、潮風に当たらないか。もう朝日が出始めているが」

あぁ、なるほど。確かに、戦闘終了が深夜あたりで、先ほど部屋の時計を確認すると午前5時ごろだった。だが、別に眠気は感じない。

「はい」

応じて、部屋を出る。




 「刻峰、お前の話を聞かせてくれないか」

朝日を眺めつつ、嶺善さんは煙草を吸い始める。潮風に煽られて火種が結構な勢いで燃えているが、特に気にする様子もなさそう。

「えっと、前に話したことを詳しくってことですか?」

「いや、違う」

俺の方ではなく、大海原を眺めながらの返事。

「お前自身のことを、だ。お前の住んでいた場所はどんなところで、どんな時代で、どんな暮らしをしていた。なぜ、中国へと渡ったのだ」

「……」

あぁ、そういうことか。またまた素性を疑われているとか色々勘ぐったけど、こういう場合の答えはもう決まっている。

「はい、わかりました」

正直に、誠実に。俺は、この人に嘘はつかないことにしているから。


 俺は、まず日本のことを語った。どういう経緯で成り立ちましたとかどういう歴史がありますとかそういうのではなく、例えば”軍隊”ではなく”自衛隊”が国防を担っていること。インターネットなる大発明のおかげで、世界中の人と容易にコミュニケーションが取れるようになっていること。二度の大戦を経て国際連合が誕生し、日本もそこに加わって各種国際協力事業に着手していること。他にも、自動車や公共交通機関が発達していて個人の移動も楽になっていること、そしてインターネットへの接続も個人の所有する端末から気軽にできることなども話した。


 ……あ、そういえば。荷物の殆どをバッグの中に入れてきたけど、ここで目覚めたときには手元になかったな。


 なんとなくポケットを漁ると、ロクに吸いもしなかった煙草が1箱、ライター1本、そして……。


 「あ、ありました」

奇跡的に、ポケットの中からスマホが出てきた。起動してみるが、当然圏外。

「そりゃ、繋がらないよな……」

想定の範囲内だが、改めてここは日本じゃないんだってことを強く感じた。こんな洋上では元の世界だろうと通じないんだろうけど。


 「それが、例の端末か」

嶺善さんは、興味津々で画面をのぞき込む。ネットに接続はできないので、保存されていた画像を見せたり、カメラ機能を使って「こんな使い道もあるんですよ」ってことも一応伝えた。嶺善さんは平静を保ちつつも驚きを隠せないようで、何度も写真を撮っては確認し、その結果に一々目を丸くしていた。

「……なるほどな」


 嶺善さんは、軽く咳払いをして俺の方を見る。



 「刻峰、俺はお前の保護を命じられたときから、お前を信じるように努めていた。言い分はよくわからないものであったし、半ば無理やり”この男を信じろ”と自己暗示さえしていた」

まぁ、そうだろうな。

「だが、」

嶺善さんは、俺の肩を掴む。そして、力強くこう言ったんだ。


 「証拠を突き付けられては、疑う余地もなくなったよ。刻峰、お前の身の潔白は私が保証してやろう」

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