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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
12/134

嶺善班 2

 「それから、あっちを見てみろ」

次に示されたのは、これまた遠くの敵陣方向。対象が広すぎて中々指示通りのポイントが見つからなかったが、しばらくで特徴的な人物を発見した。

「あの人、確か徳長さん……?」

敵の塹壕、ちょうど沢山の敵兵が集まって応戦している箇所のすぐ近くに身を伏せ、手には何か丸っこいものを握りしめている。


 手榴弾?


 俺が気づくと同時にそれを敵の集団の中に投げ入れ、丁度着地したくらいのタイミングで小さな爆発が起こった。間髪入れず1本の刀を抜いて同地へ侵入し……そのまま、姿が見えなくなった。

「彼は、銃を使わない」

……?

「銃剣術、剣術、ともに一流。銃よりも『こちらの方が都合がいい』と言って聞かず、そして実際に毎回の戦闘で多くの敵を倒してくる実力者だ」

「そんなアホな」と思ったが、ああいう風に敵陣へ単騎(とはいえ後に続く者もそれなりに見受けられたが)突入する様を見た嶺善班長から一切の不安を感じないあたり、本当にこれが当たり前ってことなんだろう。近距離なら銃より刃物の方が強いとかそういう話は聞いたことがあるけど、それってそれぞれの得物を収納した状態から、しかも5mとか10mとかの距離で対峙した場合じゃなかったっけ。いずれにしても、俺にはファンタジックな話だ。


 「で、あっちにいるのが黒桐と光峰……それに、神吉と滝隅だ」

目をやると、どちらも2人組で行動しているようだった。なんとなくオタク感のある二人組は見かけによらず勇猛果敢に戦っており、他の兵士たちと共に銃、銃剣、棍棒、大きなシャベルその他の入り混じった混戦の中に身を置いている。黒桐さんが先陣を切り、三峰さんが上手に死角をカバーしているといった感じ。あの二人は気が合うのだろうか、息の合ったいいコンビに見えなくもない。


 一方で神吉さんと滝隅さん、こちらは完全に滝隅さんが前に出て銃撃と格闘戦の両方をこなしている。見た目のいかつさと顔の迫力に見合わず、殆どの敵を一発、一撃で的確に倒しているように見える。銃剣の切っ先も銃弾も、毎回敵の胸や頭をきれいに直撃しているようだ。その後ろで神吉さんは悠々と敵を狙撃、年齢からしても敵との格闘戦には無理があると思われるが、或いは前線の”前押し”については滝隅さんに一任しているってことかもしれない。


 どちらの組も、当たり前のように敵を殺し、そして自分たちはろくに傷を負うこともなく余裕を持って戦っている。


 間違いない、この人たちは周囲の敵味方と比較しても明らかに強い。動きに無駄がなく、素人目にも”職業軍人”って感じだ。



 「黒桐は”道具”に強い。銃や銃剣については特に、この班のだれよりも知識が深い。自分のと敵の装備している武器について、間合いや得意不得意を正確に理解している。ゆえに、余程技量で劣らない場合は敵に後れを取ることがない」

武器マニア、か。確かに少々オタっぽい感はあった、現代でいうところのミリオタってところか。だがそれを実践の場で使用していて、おまけに実績もあると。そりゃ、敵にとっては脅威だろうな。銃に詳しいということは、それを実際に扱う”技量”も高いということだろう。


 「光峰は……”基本的には”模範的な軍人である。それほど目立った特技や役割はないが、”仕事は完遂する”主義だ。どういうことかは、そのうちわかるかもな」

意外も意外、あの人が模範的?人は見た目で判断するなということだろうか。”基本的に”という前置きに、若干の不穏さを感じるけれども。


 「神吉は、見ての通り老人だ。だが人生の中で戦場に身を置いている時間は誰よりも長く、生粋の職業軍人である。ちなみに年齢でいえばとっくの昔に退役済みのはずではあるが、私が頼み込んで班に所属してもらっている。豊富な経験を持っている人材は貴重、あれで何かと頼りになる男だ」

察してはいたが、世界中どこを見てもあんな老兵は見たことがない。あのくらいの年齢で軍人ていったら、大体は上の階級にいて下の人間にあれこれ命令したり机の上で駒を動かしたりしているイメージ。ただし彼の言う様に特例ってことなので、それほど優秀な人材ってことなんだろう。


 「滝隅は……”殺し”の天才だ。気づいていたか?彼はとっさの格闘戦でも的確に急所をねらって攻撃できている。色々あってそういう才を身に着けた、彼もある意味で優秀な模範兵だな」

なんとなく、『平時に人を殺せば犯罪者だが、戦争で人を殺せば英雄』みたいな言葉を思い出した。殺しのエキスパート、か。余程真面目に訓練したのか、或いは……。



 「現状見える班員はこんなところか」

嶺善さんは、いつの間にか火のついた煙草を咥えていた。

「皆優秀だ。一人姿の見えない班員がいるが、そのうち戻ってくるはずだ。どうせしばらくは行動を共にする、姿が見え次第紹介しよう。」

「……はい」

「班長、私も”殺して”きます」

白楼は銃を携え、班長の応答を待たず前線へと駆けて行った。


 俺は、この時点でなんとなく”そういうこと”なのかなって思っていた。十人十色とは言う、個性ってのはどの時代でもそれなりにあるものだとおもう。……それにしても。

「白楼も、当然優秀な兵だ」

彼女のいなくなっタイミングで、嶺善さんは静かに語る。

「運動神経も抜群、現在わが軍における女性兵士の割合はそこまで多いものでもないが……刻峰、女の兵隊が少ない理由はわかるか?」

唐突な質問。そこまで難しいことでもないだろう、思うままに答える。

「そうですね。体力面で不利だったり、一般に男性の方が筋力も体力もありますよね。あとは……その、日常的に色々と」

基本的に男性社会(軍隊の発端がアマゾネスとかなら話は別だが)。そこに女性を入れるとなると、人間関係以外でも手間暇のかかるものだろう。実際、まともに女性軍人が採用され始めたのって日本でも戦後の話のはず。


 「その通りだ。あぁ、これは君のいた世界とこの世界の常識がズレてたらってことを懸念したに過ぎないのだが」

なるほど。”常識”のすり合わせってこと。

「それでも、女性軍人という括りなくしても白楼は優秀だ。体力面でも、戦闘技術でもな。それに、あれで中々筋力もある」

一瞬この状況で”脱いだら綺麗な筋肉してるのかな”とか思ってしまった下品すぎる自分をぶん殴りたい。

「滝隅が殺しのエキスパートだといったが、白楼も引けを取らない。純粋に彼より小柄なので、ちょっとした潜入や隠れながらの行動にも向いている」

ゆっくりと煙を吐きながら、遠い目をする嶺善さん。それから、今までとは違って重たそうに口を開く。



 「ただ、な。誰しもそうなんだが、やはり欠点というものはある。優秀だが、それを帳消しにしかねない欠点がな」


 もしかして。

「それって、あまりに容赦がないとか性格に難があるとか、そういうことですか?」

それを聞いた班長はこちらを振り向き、

「あぁ、そうか」

煙草から口を離す。

「そういえば、ここまで彼女の護衛付きだったようだな」

「ええ。道中、怪我した敵兵が隠れているのを発見したのですが……」

あぁ。こういうの、なんていえば良いんだろう。見たままの事実を語るだけなのに、どこか密告するようで後ろめたい。それほどまでに、俺は彼女の”あの行動”に違和感、恐怖感を覚えている。

「察した。皆まで言うな」

その言葉は、俺の脳内で『無理して話なくても構わん』と変換される。

「まあ、大方そんなところだ。彼女は、心に闇を抱えている。それが、その、だな。順当に、そういう行動に繋がってしまうのだ」

はあ、と溜息をつく班長。変わった人が多い班員をまとめるだけで大変だろうに、そういう懸念も抱いているのか。


 まあ、想像はしていた。彼女が無抵抗の二名を殺したこと、戦場で敵を殺すってことに間違いはないのだろうけれど、俺には残酷に思える。罠とか気が変わって襲い掛かるってこともあり得るのだろうが、少なくともあの場に銃はなかったし、敵はロクな武装をしていなかった。それに、岩に挟まっていた者まで躊躇なく殺していた……。


 前線へ駆ける彼女の背中。それを見る俺は、不気味なものを感じていた

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