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ひのくに戦記1913 -戦火の世界-  作者: 茂野夏喜
第一章 
104/134

窮地 2

 光峰一等兵を追いかけまわしていたジェイコブ一等兵は、標的が味方と合流したことを遠目に察知していた。厄介な敵であるしできれば事前に仕留めたかったが、こうなれば単独で狙い撃ちにすることは難しいと判断。


 だが、気持ちが沈んだりなどしない。むしろ、思わぬ”収穫”を前にしてほくそ笑んでいる。



 敵の人数。位置。俺が単独で戦いに向かえば、さすがに返り討ちにされる。俺の銃一つじゃあどうにもならない。既に数十人規模の敵兵がそこらじゅうで固まって動いているし、それぞれを各個撃破していくのも難しいと思う。



 ……ならば。


 ”銃口”と”頭数”を増やしてやればいい。



 「面白くなってきたな」




 *   *   *




  光峰と遭遇したひのくに兵たちは、来たるべき脅威に備えて警戒態勢を取っていた。周囲の要素――とりわけ、誤魔化しようのない”音”――を注意深く読み取り、先ほどの刻峰らと同じように身を伏せ、たった一人ないし数人で潜む少人数の敵を探している。


 彼らは慢心などしないが、人数的に有利であることを無視してもいなかった。敵さえ発見できれば優勢に戦えると踏んでおり、最悪多少の犠牲が出ようとも有能な敵を確実に排除すべきと判断した上で索敵しているのだ。


 光峰も同じく、敵は一人であることと味方の数が多いことに安堵し、敵の排除を味方に任せる選択をした。一応は味方にできる限りの情報を与えておいたため、それほど危ない目に遭う可能性は薄いと読んでいた。



 だが、光峰は後に後悔することになる。



 光峰一等兵なら必ず思いつくであろう策。そして、敵なら必ず試みるであろう策について、この時全く想定できなかったのだから。




 ………。


 ……。


 …。





 「……油断するな。敵は少数とは言え、手練れだ」

「了解」


 小声での会話。敵の襲撃に備えて万全の備えをしている今、大声で話したり物音を立てるのは愚策中の愚策である。最低限の意思疎通にはジェスチャーや手振りで伝えるなど、細心の注意を払いつつ進む。


 そしてしばらく進んだのち、



 ダダダッ!!



 と、想定通りに敵の銃声が響き渡る。


 「そこにいるぞ!」


先を歩いていた二人が倒れるも、銃声のなった方角から凡そ敵の位置を特定することに成功した。敵は小さいながらもこちらが聞き取れる足音を立てて逃げ、ひのくに兵たちはそれを追っていく。



 「逃がすな!」


ひたすらに足音を追いかけ、追い詰め、敵の移動してきたルートを辿っていく。数十メートルほど進んだところで足音は止み、場には冷たい緊張感が走る。



 ……あの場に、あの茂みの中に、必ず敵は要るはずだ。


 ひのくに兵たちは示し合わせ、茂みの中へ一斉に狙いを定める。



 「撃て!!」



 そして、合図とともに一斉に発砲。決して大きくはない茂みの中目掛けて十数発の銃弾が飛んでいき、流石の敵も沈黙したように思われた。



 しかし。



 帰ってくるのは沈黙などではなく、むしろ多量の応射が跳ね返ってきたのである。



 「何!?」


 不意打ちを食らたtひのくに兵の多くは大きく動揺し、一先ずその場に伏せて敵の位置を探り始める。だが、その間にも次から次へと敵弾が飛んできて正確に敵の位置を把握することもできない。


 ――畜生!



 ともかく、反撃せねば狩られるだけ。姿の見えない敵に向かって草木越しに応戦を始める。敵が一人でなく複数人目の前にいう事実が、彼らから冷静さを奪い去ってしまう。



 「とにかく撃て!敵を黙らせろ!」

「ぶっ殺すんだ!」

「なんだってこんなに……畜生、畜生!」



 どう考えても複数人を相手にしている現状、考えられる可能性はいくつもある。その中で最もありそうと思われたのは、自分たちが上手く”おびき出された”ということ。


 すなわち、追っていたはずの敵兵はあくまで囮であり、仲間たちが待ち伏せている場所に敵兵たちがノコノコやってくるよう仕向けたという話。



 この一番ありそうな”筋書”をその場のだれもが想定し、確信し、ただ目の前の敵をいかに殲滅するかに皆思考を集中させていた。幸いにして先ほどのような連射音は聞こえてこず、お互いに長い銃身のライフルで撃ち合っているというこの状況。少なくとも装備の面で大きく不利ではないはずだ。


 しかも、彼らには大きな後ろ盾があった。



 なにせ、第二線を突破した時点で少なくない数のひのくに兵がこの森へと入っていったのだ。その数は時間を経過するごとに増していき、今すぐにだって後続の味方が救援に駆け付けてくる可能性だってある。



 「大丈夫、有利なのは俺達だ」


 その場で撃ち合っていた”全員”が、そう考えながら戦っていた。


 


 *   *   *




 そうやって銃撃戦がヒートアップしていた頃、ジェイコブ一等兵は一人離れた位置に潜みほくそ笑んでいた。


 そうだ、それでいいんだよひのくにの阿呆共め。お仲間同士、仲良く殺し合ってりゃいいさ。手間が省けて万々歳だ。



 ……そう。ジェイコブ一等兵は、決して数で劣る仲間の元へ多数の敵を誘導したわけではない。この森林戦はあくまでも地の利を生かして敵を叩き潰すのが目的である。まんまとこの森に足を踏み入れた敵を効率よく”ハメ殺す”ための罠にすぎず、こちらの兵力を消費する事態は極力避けるべきなのだ。


 それ故、尋常な戦いなど仕掛けない。少数で多数を攪乱するか、多数で少数の敵を個別に撃破するか二つに一つである。



 ジェイコブは敵の様子を観察し、気配を感じ取り、どの位置にどれだけの敵が待ち構えているのかを特定した。そして、彼らの練度が自分たちよりも圧倒的に低いことと同胞の死体を見たひのくに兵たちが動揺していることも承知であった。


 ヤバい。このままじゃ殺される。やられる前にやるしかない。そういう風に焦る敵兵の心理を利用し、敵兵の集団同士がうまくぶつかるように射撃と誘導を行ったのである。



 誘導された側は敵を折っているという意識から、躊躇いなく見えぬ的を狙って一斉に撃つ。そして撃たれた側は突然の襲撃に動揺し、やはりロクに相手を確かめもせず射撃を開始してしまう。



 ある程度手慣れた兵であれば銃声や互いの位置に違和感を覚えるのだろうが、それでも十分以上に時間は稼げるはず。問題ない、あの連中は黙ってても勝手に同士討ちを続けるはずだ。



 そうやって、敵同士で仲良く同士討ちしている間に。



 俺は、逃げた二人の方を追うとするか。




 流石に、このまま単独行動を続けるのは得策ではない。敵の”囮”を追っての単独行動だったが、その囮を仕留める以上の収穫を得た今帰還すべき頃合いだろう。



 恐らく、残した仲間たちも敵を追っていることだろうし、合流すればひとまずは一件落着か。



 そう考えたジェイコブは、必死で殺し合う敵兵たちの銃声に背を向ける。仲間たちの元へ合流するために、そして囮を失った敵兵二人に止めを刺すために、敵と遭遇しないよう注意しつつ足早に移動を開始した。

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