第13話 乾杯!
前回のあらすじ:リース、ちょろい
やはり努力の末に精霊が任を下すと言われるだけに、スキルの生む力は侮れない。今後必ずしも俺たちに敵対しないヒトばかりがスキルを持っているとも限らないし、何かしらの対策をしなきゃいけないかもな。
「見えたなら分かると思うんですけど、その……。俺たち2人とも……」
「加護のことは分かっています。ですが加護だけで人間の中身は決まりません。精霊様の恩寵は、人の考えや心理に影響しますが、明確な善悪を分けたという記載はありませんから」
実際そうは思っていない奴もこの世界には多数いるけどな。闇の精霊の加護を受けた者を魔物の眷属と呼んで排斥どころか公開処刑にする風習のある国もあるしな。
それに加えてもっと闇の精霊の加護を受けた人間が多かった時代には排斥されるからという理由で魔王という外患を人間の世界に誘致したような奴らもいるからなお嫌われている側面は否定できない。まあ今言うことでもないが。
「そう言うことだったら、俺は良いです。リースは?」
「……フォンが受けるなら私が受けない道理はない。こんなところで留守番するよりフォンの近くの方が安全」
安全も何もリースが本気でここにいる奴らに手を出されようものならギルドの建物が跡形もなくなるだけなんだけどな。
それでも俺の背に貼り付く山も谷もないリースの真っ平らな体が少し震えていたあたり、リースは本気でギルドに置き去りにされた場合に襲われることを心配しているんだということは分かったけどさ。
「ありがとうございます。こちらが依頼の内容です」
多分端から見たら女の子を背中に貼り付かせながら依頼書を読んでいる変な奴だが、実際変な奴なので否定は出来ない。座り込み昼間から酒を飲んでいるような冒険者たちの中で悪目立ちしているような気はするが、仕方ない。
依頼書に目を通す。内容は軍の救援。募集人員数は最低4人、最大10人までに金貨1袋か。なんというか国王が出した割にはケチな依頼だな。4人で挑んでも貰える報酬は金貨4袋、10人で挑んで10袋だが、たとえ30人規模の冒険者軍団を組織して依頼をこなそうと報酬は金貨10袋まで。そして長きに渡り魔物を防ぎ続けて来た軍を破るほどの相手にこの報酬では、ルドとアルと組んで魔物と戦いたい冒険者がいない訳だ。所詮冒険者も命あっての物種。金貨1袋程度なら中堅どころが1週間もあれば経費を差っ引いても得られるだけの金額だし、割に合わないと断言できる。
「苦言を呈したいわけじゃないけど、軍隊と合流しろって、まるで傭兵みたいだな」
「実際そういった認識で相違ないかと思います」
軍隊という国の仕事の一旦を冒険者に任せるか、果たして割に合わない戦いを前に逃げられたりとかは考えていないんだろうか。
「……いないと思うよ。私に掛けられていた契約の魔法が勇者の手で外された時のバックアップを何も考えていないようなのが為政者なんだから」
リースがぼそりと反権力的なことを呟くが、彼女の場合実感が籠っている。……報酬後払いとはいえ、本当に逃げられたらの事は考えていないんだろうか? まあ逃げるつもりもないけどさ。
「昼間は私たちにお任せください。代わりと言ってはなんですが、お嬢様の力が弱る夜にはお2人の力をお借りしたいです」
「……昼間であろうとあんな子に守られるのは嫌。私も戦う」
「俺も複合属性者なんで問題はない」
実際俺もリースも筆頭属性は闇だから一番強いのは夜だが、俺は水で、リースは闇以外の5属性で昼間も戦うことが出来る。俺は実際のところ3属だが雷属性の加護に関しては触媒がないから実際使えない状態だ。それでも十分戦えるけどな。
「それでは契約成立、ですね」
「ああ、契約成立だな」
アルの言葉に俺がそう返すのが早いか、ルドが円卓の椅子の1つにドカッと腰を下ろす。
俺とリースが座り直すまでの間にウェイターを呼び、4人分の杯に並々とエールを注がせていた。出来れば俺の連れはミルクの方が良かったんだけどな。
「みんな杯は持った?」
ルドの音頭に俺が、アルが、リースが杯を顔の前まで掲げる。1つ円卓の上で4人の視線が交錯する。
「この国の平和とリンスレット領の安寧のために!」
「お嬢様の悲願のために」
「魔族を、魔王の力を削ぐために」
「……フォンの願いをかなえるために」
並々に注がれたエールの液面が重く微かに揺らぐ。酒は冒険者の血であり、杯に注いだ同じそれを突き合わせ飲み交わすこれは冒険者たちのパーティーにおける儀式だ。血の通った関係であり、運命共同体であるという証明であり、血を交わした相手を裏切るものは死後も加護を与えた精霊の下に召されることなく永劫に死ぬ瞬間の苦しみが繰り返すなんて俗説がある。
「「「乾杯!」」」
「……かんぱい」
まあその俗説の真偽は分からないけどな。ただ今は打ち合わせた杯に注がれたエールを一気に飲み干す。横を見てやれば1口だけ口を着けた形跡のある酒の注がれた杯と、顔を真っ赤にして締まりのない笑顔のまま机に伏したリースの姿があった。




