第11話 光の少女とスキル
前回のあらすじ:心を赦せる誰かとのご飯は心が豊かになる(胸が豊かになるとは言わないし言わせない)
2人で呑気に飯を食べていたのに、どこからかガシャガシャとうるさいプレートアーマーの歩行音が近づいてくる。
叶うことなら俺たちに関わらず行ってくれと思ったが、俺の願いも空しく俺とリースの座る席の間近で足音は止まった。
嫌な予感にリースが表情を硬くするが、多分俺も今似たような顔をしてるだろう。人気のイマイチ少ないギルド内に、快活そうな少女の声が木霊した。
「そこのお2人! よろしければボクとパーティーを組まないか?」
現れたのは金に染められた絹糸のような髪に、透ける湖の湖面を写したような緑水色の瞳の少女だった――こう言っては何だが、俺は苦手なタイプだな。
咄嗟に相手の属性をカテゴライズしてしまうのは悪い癖だろうが、精霊の加護1つで迫害や殺害が発生するのがこの世界なのだ。早期に相手を分類して態勢を作ることは決して悪いことではないはずだ。特に俺やリースのような人間世界の嫌われ者たちにとってはな。
リースも警戒心を露わにするように円卓を回り込んで俺の背に隠れてしまった。
「ボクはルド、ルドアーシア=リンスレット。光の精霊の眷属にして【聖騎士】のスキルを賜った者だ!」
家名持ちか。普通冒険者は重くてあまり好まないプレートアーマーなんてものを来てここにいる時点でそんな気はしていたが、やっぱり貴族階級か。
見ただけで分かるほどに強い光の精霊の加護。明るく、快活、きっと神にでも愛されたのだろう愛くるしい容姿に加え、加護の肉体活性のお陰で本来女性騎士が着るような物でもない重装。そして先ほど口にした“スキル”の存在。おそらく前衛での戦闘力は俺より強いだろう。
「私は今自己紹介されたルドお嬢様の従者のアルといいます。以後お見知りおきを」
鉄板鎧に押し込まれた胸を張る少女の影から、付き従う影のように女性が1人現れる。飾り気のない黒いワンピースのロングスカートに包まれた足先には固い革のブーツ。ワンピースの上から掛けているものはどう見てもお屋敷勤めのメイドさんが着ているような白のエプロンだ。とても冒険者ギルドの酒場に似つかわしい恰好ではない。
その立ち姿が醸す空気も荒事に長けた風ではない。その細腕で持てる物など精々箒くらいじゃないんだろうか? リースのような箒使っても人外の如き戦闘力を見せ付ける者もいるからそれが弱いということにはならないが。
「何だってこんなお嬢さんがパーティー募って魔物狩りなんて」
俺のおそらく真っ当だと思う疑問に対して、アルと呼称する女性がそっと俺とリースに耳打ちで答える。
「お嬢様にはこの度【聖騎士】(パラディン)のスキルが発現しまして……」
「精霊に与えられた役割を果たすためってわけか……」
なるほど、つまるところ精霊の思し召しという奴か。
7属の精霊の加護はこの世界の生きとし生ける者全ての身体の強さ、知力、考え方、精神性に強い影響を与るが、その先で各々の修練や勉学により『スキル』を発現させるという形を以て人に道を示すことがある。
スキルが発現した瞬間から、その方面でのプロフェッショナルの一員として世界の役に立ち得る力を精霊様から与えられる以上、スキル発現はこの世界全てのヒトの希望と言ってもいい。
もっとも1つも発現しない人が大勢いる反面で、1人で幾つもスキルを見出す欲張りもいるけどさ。
「……私はスキルを発現してない。つまり精霊が私は無職でいろといっている」
スキルの中にはルドが発現した【聖騎士】のような魔物、魔族との戦いに特化したものもあれば、【調停士】【調理師】【建築士】【漁師】などといったヒトの生活のためになるものもある。
リースの言う通り言葉通りの判断をするなら、リースに加護を与えた6柱の精霊がリースには『無職でいることを求めた』と言えなくもない。
「確かにスキルが無きゃ市井で職を見つけるのは難しいからな……」
「……そう。私もお茶屋さんとかやりたかったけど『接客』も『対人交渉』のスキルも発現しなかったから、無職でいるしかない。ビバ無職」
「今の職業は冒険者だけどな」
結果就職競争に敗れた者の多くが魔物を狩り、魔族を討つことで日々の糧を得る冒険者になる。これらの分野にも当然固有スキルはあるが、戦闘力の占めるウェイトの大きさと、過去の輝かしい記録からどちらも目指す者が後を絶たないというのが現状だ。もっとも彼らのようなスキルを持たずとも戦う者が数多くいるからこそ、多くのヒトが魔族・魔物の害を避けられている側面はあるけど。
「……冒険者なんてみんな世間の敗北者」
「おい、リース……!」
確かに冒険者なんてしているやつの半分以上はこのスキルが発現しなかったやつだ。市井に職が見つからないからこそ、この世界では逆説的に武芸によってヒトを守るためにスキルを与えられなかったなんて言われている。
もしそうならルドのような戦いに向いたスキルをくれというものだと俺は言いたいけどさ。
「敗北者? それはどういう意味?」
「……所詮就労能力に欠けるから人の営みの世界から弾き出された敗北者」
食って掛かるルドに、リースは血も通わない冷たい声で言い返すけど、ぶん投げて戻って来たブーメランが俺たちの頭までぶっ飛ばしかねない特大の刃のブーメランなんだが。
リースの論理からいけば闇属性の加護持ちで、友達が少なくて、市井での仕事なんて何も出来なくて、挙句魔王討伐なんて掲げている俺たちは完全敗北者だ。ぐうの音も出ないぜ。一応俺はスキルを持ってはいるが、使ってないから意味ないしな。
「……ごめん、敗北者は私だった」
「その理屈で言ったら俺も敗北者だから安心しろリース。一緒に負けてやるから」
「そんなことを言っちゃうほど2人は仲が良いんですね!! 恋人同士なんですか!!」
俺の陰に隠れながら顔を伏せ、頭を下げるリースを見ながら、黄色い声を上げるお嬢様。声を聴いた瞬間にリースが怖がるかのようにギュッと俺の腕にしがみ付いた。実際至近距離で喰らえば俺も奥歯を噛んで堪えなくてはいけないくらいの音波攻撃染みた声だった。
他の属性の加護持ちでもよく笑う奴はいるが、光の加護の奴がそんな声を上げるとこちらにはダメージが来るほどだ。訊くにしてもせめて静かに訊いてくれ。
「うーん、恋人ではないかな……?」
「……もうちょっと、変わった関係」
闇の魔法契約の下、違約すれば魂まで束縛されかねない関係は、多分世間一般のそんな甘やかな表現とはかけ離れているけどな。まあお互いがお互いを必要としていることは2人とも知っているところだが。
「……あの子、そこまで悪い子じゃないかも」
「機嫌直すの早くないか?」
「……フォンは女心が分かってない。猛省して」
ちょっと機嫌を直したかと思いきや、またリースの額に小さくしわが寄っていた。




