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エピローグ


「その後のことは、陛下がご存知のとおりです」

 フルバは大きく息を吐いた。

 顔に大きく刻まれた皺は、彼女が歩いてきた壮大な歴史を物語っていた。サンルーフから落ち込む光は、オレンジ色の光へと変わってしまっていた。

 終戦後フルバは、メンフィス王子と結婚したエリザベート王女の専属医としてカラキムジア王宮に残るこことなったが、入れ替わるようにトリステルに出ていったジョバンニ・クエントとは、二度と会うことが無かったのだという。

 戦乱で荒廃したキール王国では、ジョバンニ・クエントのリジェナチュールがおおいに役に立った。ジョバンニは、野戦病院に近かったトリステルの病院で、人々の治療に当たった。失った手足こそ完全には戻りはしなかったが、戦乱で傷ついた騎士や市民達の皮膚の整形、一部骨組織などの再生には威力を発揮した。

「でも結局、ジョバンニ・クエントの興味は、人のBPを高めるために医療技術を提供することではなかった。彼自身が神として、新たな生物を創造することだったのです」

 フルバの声は、こみ上げてくる怒りに小刻みに震えているかのように聞こえた。

「ナシエラの王立研究所は、彼が願って作らせたものです。彼から提出された計画書には、私も目を通しました。なのに…」

 グッと、フルバは両手の拳を握りこんだ。その顔に悔しさが滲んでいる。

「彼の計画を見抜けなかった。彼の暴走には、私にも責任があります」

「フルバ。それは違います。戦時下で混乱していたのです。彼の狂気に気がつかなかったとしても、それは誰の責任でもありません」

「ですが」

 リサは、静かにフルバの瞳に視線を合わせ、小さくうなづいた。

 フルバが、もう一度深く息を吐き出した。それから、すっかり冷たくなってしまった紅茶を一口喉へと流し込んだ。

「陛下。彼がなぜナシエラを選んだのかわかりますか」

 いいえ。と、リサフォンティーヌは黙って首を横に振った。

「あそこは、ヒ素鉱物など、特殊な鉱物が採れる鉱脈でもありました」

「鉱物の鉱脈?」

「ジョバンニは、生物のADNそのものの構造から変えようとしていたのです」

 悪魔の創造主と言われた男が求めている物は、遺伝子組換えのその先にある。

 テーブルに置かれた花瓶から、カメリアの真っ赤な花が音を立てて落ちた。

 その赤が、大地に染みていく血の赤の様にも見えた。

ジョバンニ・クエントは、ドレイファスシリーズの鍵を握る人物です。彼がいかにしてマッド・サイエンティストへの道を歩んだか…。その始まりのエピソードでした。

そして同じくらい鍵を握るのが、フルバばあさんだったりします。

実は今回の短編の中にも、彼女の波乱万丈っぷりを示す設定が何箇所か登場していました。彼女は、このエピソードの前にも後にもものすごいエピソードを抱えているので、そのうちまた過去編を書けたらいいなと思っています。

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