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第二十三話 古の都にて


「うわぁ……」 


 街の入口に立ったモモは、感嘆の声を挙げていた。


 古びた建物が立ち並ぶ大通りは、定規で引いたような整った直線だ。

 西に真っ直ぐ進む道と、南北に真っ直ぐ進む道が直角に交差し、縦と横の通りが整然と並んでいる。

 あちらの世界の京都で碁盤の目に例えられた優麗な街並みは、こちらのキョートでも健在のようだ。


 通りの両脇には、様々な店が並んでいて、煌びやかな旗を通りに掲げている。店以外にも、白粉を塗って歩く舞子さんに托鉢をしている僧侶や忙しく走り回る飛脚などが目まぐるしく行き交っていて、じっとそれらを眺めているだけで飽きない。

 モモは、物珍しそうにきらきらとした目で辺りを見回している。


「あんまりキョロキョロしないの、田舎者に見られるわよ」

「実際田舎者じゃがの」


 ルリに白い目で睨まれたキリは、無言で肩をすくめた。


「どうしたのユウ、あんたも圧倒された?」

「いや、都って聞いてたけどそこまで栄えていないんだなぁって」


 確かに町並みは整然としていて、通りを歩く人にも気品がある。が、どこか活気がないというか、落ち着きすぎている印象を受けた。

 都と言われる場所なら、もう少し騒がしくてもよさそうなものだけど。


「そうね、人気でいえば今はオーサカやエドの方が上かもね」


 かつての天下人が納めていたオーサカと、これからの天下人と噂されるものが納めているエド。

 歴史こそその二つより深いものの、都市の規模でいえばキョートは見劣りするという。


「着いたのはよいが、これからどうするんじゃ?」

「取りあえず、観光がてら一通り回ってみましょうか」

「さんせー」


 両手を挙げてはしゃぐモモに先導されるように、俺達は街の中へと入っていった。


「おいしいね」

「そうじゃのう、餡子がよく詰まっておる」


 屋台で買った八つ橋を口いっぱいに頬張って、キリとモモは満足そうだ。


「あっちの方には、確か大きなお寺があった筈よ」


 慣れない都会に少し萎縮している俺達とは違い、ルリは明らかにここを知っている様子だった。


「ルリは来たことあるのか?」

「まあ、何度かね」

 

 ルリは旅暮らしも長いだろうし、アヤカシ退治の道中で訪れたのかな。

 

 取りとめのない会話をしながら歩いていると、通りの向かい側がにわかに騒がしくなり始めた。 


「貴様ら、止まれぃ」


 手に十手を持ち、統一された格好をした男達が、何かを喚きながら走っている。

 見たところ、誰かを追っているようだけど。


「何かしら、物騒ね」

「ええい、止まらんか」


 男達は背後からも現れ、丁度俺達を囲むように静止した。並んだ男達はこちらを睨みながら、厳しい口調で叫んでいる。

 もしかして、俺達に言ってるのか?


「ちょ、ちょっと待って。どうして俺達を」


 この町に着いたばっかりだっていうのに、どうして俺達が追われなきゃいけないんだ。


「問答無用、者どもひっ捕らえぇい」


 疑問を持つ間もなく、先頭に立つ男の合図で男達は一斉に俺達へ殺到した。


「逃げるぞっ」

「わかった」


 突き出される十手を避けつつ、モモの後ろに付いて一気に男達の群れを正面突破する。

 凄まじい勢いで向かってくるモモの巨体に、男達は気圧されたように道を自然と空けていた。


「なんだったの、もう」


 そのまま十分ほど走り、人気のない路地裏に逃げ込む。表通りの優雅さとは違い、ここには無造作に色々なものが打ち捨ててある。散乱した何かの破片や生活ゴミ等が混ざり合い、混沌とした光景を作り出している。

 一見綺麗に整理整頓されているように見えても、こういった場所が現れるのは避けられないのだろう。


「こっちにいるぞ、追えぃ」


 と、路地裏の周りから、男達の怒声が響き始めた。


「ど、どうしょう」


 これじゃきりがない。相手はちゃんとした役人のようで、切り捨てるわけにもいかないし。


「あんたら、こっちへ逃げ込みな!」


 と、裏路地に面した長屋の扉が不意に開き、何者かが屋内へと手招きした。

 考えている暇はない、誘われるままに俺達はその中へと飛び込んだ。


「危機一髪だったな」


 家の外からは、まだ男達の声が聞こえている。 

 屋内を見回してみると、一人で暮らすのにちょうどよさそうな広さの、質素な部屋だった。俺達はまだいいが、体の大きいモモは少し窮屈そうにしている。


「まったく、アヤカシだからって目の敵にされちゃたまんないよ」


 素朴な小袖姿の女性が、意志の強そうな瞳でこちらを見ていた。 

 

「あなたは……」


 年の頃は俺より少し上だろうか、整った顔立ちと鮮やかな藍色の髪からは、凛々しい印象を受ける。

 それよりも特徴的なのは、ちょこんと頭部から飛び出している柔らかな毛に覆われた耳だろう。


「妙な格好の男に、陰陽師とヤシャクの女。そっちのちっこいのは知らないけど、あんたカブラギ・ユウかい?」

 

 女性は俺達をまじまじと見つめると、確かめるように告げた。

 ちっこいとはなんじゃ、とキリが小声で呟く。


「どうして俺の名前を」

「なんでって、有名だよあんた。人間のくせにアヤカシの味方をする変わり者がいるってね」


 ゴンキチやヒトウバンそしてカブソを助けたことが、いつの間にか広まっていたらしい。 


「あたいはネコマタのアイ。この辺りに住んでるアヤカシさ」

「ここではいつもああなんですか。その、アヤカシだからって追い掛け回されたり」


 俺達が目を付けられた理由は、それしか思いつかなった。


「少し前まではそんなことなかったんだけどね、最近妙なのが街に集まってるらしくてさ。


 格調高い場所ということもあり、元々キョウトはアヤカシに対してあまり寛容ではなかったそうだ。

 いくらアヤカシ嫌いとはいえ、見つけただけで捕えらるようなことは流石に無かったらしいが、最近は違う。

 不穏なアヤカシの集団がキョウトに次々と現れており、それを受けて警備はかなり厳しくなった。


「……相克の徒」


 不意に口から言葉が漏れる。


「あんたたち、何か知ってるの?」」


 ネコマタの表情が、訝しげなものに変わる。

 今まで何度も戦ったあの組織が、このキョウトで何事かを為そうとしている。

 俺達がここキョウトを訪れた理由は、その何かを止める為だった。


                               ※


 最初にこのことを知ったのは、カブソの村を訪れたとき。ツチノコを探しに集まった人々から、キョウトに集まる不審な集団の話を聞いたのだ。

 決め手になったのは、再び家を訪れたゴンキチの言葉だった。


「旦那方と戦ったっていう妙な刻印を付けたやつらが、キョウトの辺りでだいそれたことをやらかそうとしていやすぜ」


 そんなことを聞かされて、黙っていられる訳が無かった。


                               ※


「……っていう話なんですけど」


 俺は、これまでの経緯をかいつまんで話した。流石に異世界のことは省いたが、それ以外は俺達の知っていること全てを告げた。

 正面に座るネコマタは、時折目を瞬かせながらも話を真剣に聞いているようだった。


「なるほどね」


 暫しの沈黙ののち、腕を組んだネコマタがぽつりと呟く。


「あんた達がどうしてここに来たかはよく分かった、あたいは何も知らないけど、今日の寝床くらいなら貸せる」

「いいんですか?」

「なんとなくだけど、あんたは信用できそうな気がする。アヤカシを引き連れた人間なんて、初めて見るしね」 


 そう言って、ネコマタはモモやキリへ視線を向ける。


「色々よろしくね、ユウ」


 ネコマタは目を細め、じぃっとこちらを見つめてきた。怪しく笑う表情に、思わず引き込まれそうになる。


 予想外の強敵が現れたかもしれないわね。と、ルリが小声で呟いていた。

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