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第二十二話 みんながいるから

 いつものようにルリが作ってくれた夕飯を食べながら、ふと考えは食事と別の方向へ向いていた。

 早いもので、この世界に来てからもう一か月が過ぎた。

 しかし、あいつはまだ見つけられていない。ドロク村には何の手掛かりもなかったし。今まで行った場所で聞き込みをしても、目立った成果は無かった。


「どうしたの、ユウ?」

「いや、何でも」


 焦りが顔に出ていたのか、モモに心配されてしまった。

 慌てて取り繕い、また食事を再開する。けれど、食事の味は殆ど感じられなかった。


                                 ※


 次の日の朝。

 毎朝の鍛錬を終えたとき、亡霊さんが怪訝そうな表情で話し掛けてきた。


「ユウ、何かあったのか? 今朝は動きが鈍く感じるが」

「す、すみません」


 内心の悩みが、亡霊さんの動きにも影響を与えていたらしい。 


「あまり気に病むな、お前の責ではないのだろう?」

「はい」


 亡霊さんはこちらの悩みの原因についても察しがついているらしく、穏やかな言葉で励ましてくれた。

 俺はその優しさに、黙って頷くことしか出来なかった。 


「ただいま」


 鍛錬を終え、いつものように社務所の扉を開ける。


「あれ……」

 

 が、いつものような出迎えの言葉はない。それどころか、社務所の中に人の気配は無かった。

 珍しいな、誰もいないのか。

  

 普段なら誰かの話し声が響いている居間も、足音ひとつない静けさを保っている。

 落ち着いた静寂の中で、ゆっくりと考えを心の中へ巡らせる。

 この世界のこと、あいつのこと、亡霊さんのこと…… そして、みんなのことを。 


 考えている内に時間は経ち、窓からは柔らかな西日が差し込み始めた頃。

 ふと、にわかに玄関が騒がしくなり、聞きなれた声が耳に届いた。 


「ただいま、遅くなっちゃった」

「ただいま!」

「今戻ったぞ」


 三者三様の言葉を発した皆を、玄関まで迎えに行く。

 

「みんな、遅かった……ね!?」


 そこにいた皆の服装を見て、思わず言葉を失っていた。 

 主に白い小袖に緋袴を身につけた、上下一揃えの服。鮮やかなコントラストからは、どこか神秘的な雰囲気を感じさせる。

 三人が纏っていたのは、いわゆる巫女服だったのだ。しかも、通常のそれよりかなり露出が多い仕様になっており、モモに至ってはサイズが合っていないのか色々な部分が今にも零れ落ちそうになっている。


「そ、その格好は?」

「神社といえばこれでしょ? 実は前々から作ってたのよ」


 目の前でくるりと一回転し、巫女服を見せびらかすルリ。とてもよく似合っているが、裾がふわりと捲れ上がって色々と危ない。


「ユウがげんきないみたいだったから、なにかできないかなって」


 楽しそうにひらひらと半袖を揺らし、可愛らしい仕草を見せるモモ。しかし、体の線がくっきりと浮き上がる服装が、その無邪気な態度とは裏腹の魅力を放っていた。

 正直、直視していたら頭がのぼせてしまいそうだ。


「わ、わらわにここまでさせるとは、この果報者め」


 キリは慣れない服装に恥じらっているようで、もじもじと二人の影に隠れていた。長い金髪は後頭部で縛られていて、いつもとは違うおしとやかな印象を受ける。


 服装に驚いた俺のが停止している間に、三人は台所へ入り。


「料理も作ってあるのよ!」

 

 豪勢な料理を両手に持って次々と運んできた。 


「みんなが作ってくれたの?」


 居間に戻った俺の前に、次々と料理が並べられていく。


「そうよ、モモもキリも一緒にね」


 よく見れば、ルリの見事なそれに混じって、どこか不格好な料理も並んでいた。


「ユウ、たべて!」

「せっかくわらわが作ってやったのじゃ、残したら承知せんからの」


 席に着いたモモとキリは、それぞれ自分が作った料理を箸で取って進めてきた。

 味付けは大雑把で、具材の切り方もバラバラ。まだまだルリに比べれば未熟だったけど、この際味がどうとかは問題ではない。

 

「二人とも、おいしいよ」


 自分の為に誰かが料理を作ってくれた、それだけで十分だ。  


「やった!」

「ついでのようなきもするが、まあよい」  


 モモは両手を振り上げて喜んでいて、キリは赤らんだ顔を背けていた。

 いつも以上に気合の入ったルリの料理に、こちらの箸もいつも以上の速度で進んだ。そして、一時間もしない内に机を埋め尽くす程あった料理は全てなくなっていた。


 満腹の心地よさに身を委ねつつ、ぽつりと一言呟く。 


「……ありがとう」

 

 色々な言葉を探したけど、結局この一言しか思い浮かばなかった。

 こんなに自分を想ってくれる人に囲まれて、俺は本当に……


「これくらいで終わりだと思ったら大間違いよ!」

「えっ?」


 不敵に笑ったルリが合図を出すと、モモとキリによって両腕があっという間に掴まれていた。


「ちょっ、何!?」

「黙って連れていかれるんじゃな」

「いいからいいから」


 抵抗する間もなく、体はそのままどこかへと引きずられていく。

 数分も経たずに辿り着いたそこは。


「風呂?」


 いつの間に準備したのだろうか、木造の浴槽の中には、既にな並々とお湯が注がれていて暖かな湯気を立てている。

 建て替えの際に設置されたこの風呂は、ルリの陰陽術によって常に安定した湯加減を保てることもあり、みんなからの評判はとても良かった。

 モモの大きさに合わせたこともなり、入ろうと思えば同時に複数人の入浴も可能で、最近は三人で仲良く入っていたようだ。


「な、何でお風呂に」


 口ではそう言いながらも、心の中にはある予感が浮かんでいた。出来れば外れてほしい類の、悪い予感が。


「そりゃ、一緒に入るからよ」

「ええーっ!?」

「四の五の言ってないで、さっさと脱ぐ!」


 こちらの戸惑いには構うことなく、三人は瞬時に俺の服を脱がしていた。

 

「前々から思ってたけど、ユウの服って変よねぇ」


 ルリは、剥ぎ取った俺のジャージをまじまじと見つめている。

 流石に下は丸見えにせずに薄い布で隠してくれているが、正直かなり恥ずかしい。


「じゃあ、モモたちもぬぐよ!」

「ちょっ、待っ」


 何のためらいもなく服を脱ぎだしたモモを前にして、出来たことはただ一つ。


「なんでめをつぶってるの?」

「せっかくわらわが柔肌を晒しておるというのに、意気地がないのう」


 目の前の光景を遮断しても、女の子独特の甘い匂いや、すぐ近くで感じる吐息はどうしようもない。

 今までで一番の窮地に陥った俺は、最早考えることを止めていた。


「ユウ、背中流してあげるわね」

「モモもながしてあげるー」

「洗われているばかりではなく、お前も洗わんか。例えばわらわとか、わらわとかを!」


 それからのことは、正直よく覚えていない。

 はっきりしているのは、風呂に入っている間一度も目を開かなかったことだけ。


「もうこんな時間ね、そろそろ寝ましょうか」


 気が付いたときには既に風呂から上がり、寝間着に着替えされられて自室にいた。

 当然のように、三人は部屋まで着いてきている。


「ユウ、今日はみんなで一緒に寝るわよ」


 最早反論する気力も残っていなかった俺は、ゆっくりと頷くことしか出来なかった。

 

「みんなさっさと寝ちゃったわね」

「あ、ああ」


 右を向けばモモの無邪気な寝顔があり、左を向けばルリが澄んだ目でこちらを見つめている。キリに至っては、俺の腹の上で寝息を立てていた。

 さっきから混乱することばかりで、今の俺は逆に落ち着けていた。


「ちょっとやり過ぎちゃったかしら」

「でも、俺を心配してくれたんだろ?」


 確かに行き過ぎた面はあるけど、それも心配してくれたことの裏返しなのだ。そんな三人を怒る気にはなれない。


「元気になった?」

「ああ、もう大丈夫」


 真正面からじっとこちらを見るルリの瞳を、力強く見返す。

 三人分の暖かい体温を感じながら、俺は心地よい眠りに落ちていった。 

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