↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
役立たずテイマー、魔物たちと人助けを始めます。  作者: ぱお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/10

森の外の村

 森の外の村

 森の入口を抜けると、細い道が続いていた。

 道の両側には、背の低い草が広がっている。

 その先に、小さな村が見えた。

 木の柵に囲まれた村だった。

 柵はところどころ補修されていて、門の横には小さな見張り台がある。畑には数人の村人が立ち、濡れた土を踏みながら作業をしていた。

 リーフは、村が見えたところで足を止めた。

 人がいる。

 助けを求められるかもしれない。

 食べ物を買えるかもしれない。

 けれど、同時に不安もあった。

 自分は今、家名を名乗れない。

 お金もない。

 しかも、後ろには魔物がいる。

 緑色のスライムが、リーフの足元へぴたりと寄り添っていた。

「君は、村に入っても大丈夫かな」

 リーフが尋ねる。

 スライムは、体を小さく揺らした。

 返事の意味は分からない。

 それでも、リーフは村へ向かって歩き始めた。

 門の前には、木の槍を持った男が立っていた。

 年齢は、父より少し若いくらいだろうか。

 日に焼けた顔と太い腕をしている。

 男はリーフを見ると、すぐに槍の先を下げた。

「止まれ」

 リーフの足が止まる。

 男の視線は、リーフではなく、足元のスライムへ向けられていた。

「その魔物は何だ」

「スライムです」

「それは見れば分かる。なぜ村へ連れてきた」

 リーフは背筋を伸ばした。

「申し訳ありません。勝手に入るつもりはありませんでした。ですが、僕は森でこの子を見つけて……」

「魔物を連れている理由を聞いている」

「この子は怪我をしていました。僕が手当てをしたら、ついてくるようになって」

「それで、村の中に入れるつもりか?」

 男の声が厳しくなる。

 門の近くにいた村人たちも、こちらを見ていた。

 畑仕事をしていた人たちが手を止め、遠巻きに集まり始めている。

 スライムが怯えたように、リーフの足へ体を寄せた。

 リーフは、スライムを背中側へ隠した。

「この子は危険ではありません」

「魔物が危険ではないと、どうして言える」

「僕を襲わなかったからです」

「魔物は気まぐれだ。腹が減れば、人を襲う」

 男は槍を下げたままだった。

 その先端は、リーフではなくスライムへ向けられている。

 スライムは、リーフの背後で小さく震えていた。

 リーフの心臓が速くなる。

 ここで追い払われたら、どうすればいいのか分からない。

 森へ戻るしかない。

 けれど、森に戻れば、また夜を過ごさなければならない。

 次に襲われたら、逃げられるとは限らない。

 それでも、スライムを置いていくことはできなかった。

「お願いします」

 リーフは深く頭を下げた。

「この子は、僕が責任を持ちます。もし何かあれば、すぐに村の外へ連れていきます」

 男が少し驚いたように目を開く。

 リーフは、さらに頭を下げた。

「食べ物を買うお金はありません。何か仕事をさせていただけるなら、働きます。薬草も少し採ってきました。必要であれば、お渡しします」

「薬草?」

 男の視線が、リーフの布袋へ向いた。

「はい。ヒナユキ草です」

 リーフは袋から、布に包んだ薬草を取り出した。

 男はすぐに手を伸ばさず、近くにいた村人へ声をかけた。

「エダばあさんを呼んでこい」

 村人の1人が走っていった。

 しばらくすると、杖をついた小柄な女性が門までやってきた。

 白髪を1つにまとめ、背中の曲がった老女だった。

 彼女はリーフを見るなり、細い目をさらに細めた。

「この子が薬草を採ったのかい?」

「はい」

「見せてごらん」

 リーフは薬草を差し出した。

 老女は葉を指先でつまみ、裏返したり、匂いを確かめたりした。

「……ヒナユキ草だね。採り方も悪くない」

 リーフはほっと息を吐いた。

「本当ですか?」

「ええ。ただし、量が少ない。これだけなら、銅貨を2枚というところだね」

 銅貨。

 リーフはその言葉を聞いて、胸が高鳴った。

 お金があれば、食べ物を買える。

 もしかしたら、今夜の寝床も見つけられるかもしれない。

「売ります」

「ずいぶん急ぐね」

「食べ物が必要なので」

 正直に答えると、老女はリーフをじっと見つめた。

「家の者はどうしたんだい?」

 リーフの体が固まった。

「……いません」

「森で1人だったのかい?」

「はい」

 村人たちの間から、ざわめきが起こる。

 10歳ほどの子供が、森で1人。

 しかも、礼儀正しい言葉遣いで、汚れた服を着ている。

 不自然に見えるのは当然だった。

 老女は、リーフの外套や服をじっと見た。

 泥で汚れているが、布地はしっかりしている。

 縫い目も丁寧で、庶民が普段着にするものとは違った。

「どこから来たんだい?」

「……遠い場所です」

「遠い場所って、どこだね」

 リーフは答えられなかった。

 男爵家の名前を出してはいけない。

 家名を使ってはいけない。

 父に言われた言葉が、頭の中で繰り返される。

「話したくないなら、無理には聞かないよ」

 老女はそれ以上追及しなかった。

 代わりに、スライムへ視線を向ける。

「その子は、本当に怪我をしていたのかい?」

「はい。体がえぐれていて、動けないくらい弱っていました」

「それを、この子が治したのかね?」

 老女の視線が、リーフの手へ移った。

 リーフは昨日の傷を見た。

 傷口は、もうほとんど分からない。

「たぶん……」

 リーフが答えると、老女はスライムの前にしゃがみ込んだ。

「少し、触れてもいいかい?」

 スライムが、リーフの背後へ隠れる。

 リーフは振り返った。

「大丈夫だよ。たぶん、悪い人ではないから」

 自分でも、なぜそう言ったのか分からない。

 老女に怒られるかもしれない。

 槍を持った男に追い出されるかもしれない。

 それでも、今までの言葉や表情から、敵意がないことは感じ取れた。

 スライムはしばらく揺れていたが、ゆっくりと老女の前へ移動した。

 老女が指先で触れる。

 その瞬間、スライムの体の中に淡い光が灯った。

「おや……」

 老女の顔色が変わった。

 彼女は指を引っ込め、自分の手を見つめる。

「古い傷が、少し軽くなった」

「え?」

「このスライム、治癒の力を持っているね」

 門の前にいた村人たちが、一斉にざわついた。

 リーフはスライムを見つめる。

「治癒の力……」

「珍しい個体だよ。少なくとも、ただのスライムじゃない」

 老女は立ち上がり、門番の男を見た。

「槍を下げな。今のところ、この子に人を襲う気はない」

「ですが、魔物は魔物です」

「この子が人を襲えば、そのとき考えればいい。怪我を治せる魔物を、理由もなく追い払うほど、この村は裕福じゃないだろう」

 門番の男は、しばらく迷っていた。

 やがて槍の先を上げた。

「村の中で騒ぎを起こすな。魔物が暴れたら、すぐに外へ出てもらう」

「分かりました」

 リーフは深く頭を下げた。

「ありがとうございます」

 門番の男は、少し困ったように顔を背けた。

「……そんなに畏まらなくてもいい」

「ですが、入れていただいたので」

「お前、本当に子供か?」

 近くの村人が、思わず口にした。

 リーフは首を傾げる。

「はい。10歳です」

「10歳にしては、妙に言葉遣いが丁寧だな」

「家で、挨拶と礼儀はきちんとするよう教わりました」

「家っていうのは、ずいぶん立派な家みたいだね」

 その言葉に、リーフは黙った。

 老女が助けるように口を挟む。

「詮索はそのくらいにしておきな。腹を空かせた子供を、門の前で立たせておく気かい?」

 門番の男はため息をついた。

「エダばあさんの家で、薬草の整理でも手伝わせたらどうだ」

「そうさせてもらうよ」

 老女はリーフを見る。

「私はエダ。この村で薬師をしている。薬草を売るなら、まずうちへ来な」

「ありがとうございます、エダさん」

「さん付けかい」

「はい」

「本当に変わった子だね」

 エダは呆れたように言ったが、表情は少し柔らかかった。

 リーフは村の中へ足を踏み入れた。

 スライムも、その後ろからついてくる。

 村人たちの視線は、まだ警戒していた。

 けれど、槍を向けられてはいない。

 今は、それだけで十分だった。

 エダの家は、村の端にある小さな建物だった。

 壁には乾燥させた薬草が吊るされ、棚には瓶や布袋が並んでいる。

 家の中へ入ると、懐かしい薬草の匂いがした。

「そのスライムは、外で待たせるかい?」

 エダが尋ねる。

 リーフはスライムを見た。

 スライムは、リーフの靴に体を寄せている。

「できれば、一緒にいてもいいでしょうか」

「薬草を荒らさないならね」

「ありがとうございます」

 リーフはまた頭を下げた。

 エダは苦笑した。

「まずは、その薬草を棚へ並べな。終わったら、固いパンくらいは出してあげるよ」

「はい。よろしくお願いします」

 リーフは袖をまくった。

 屋敷では、使用人がしていた仕事だ。

 自分が手伝うことになるなど、考えたこともなかった。

 けれど、今は違う。

 自分で働かなければ、食べられない。

 リーフは薬草を1枚ずつ確かめ、教えられた通りに並べ始めた。

 その隣で、緑色のスライムが静かに揺れている。

 森の外での初めての仕事が、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。