メデューサの悩みとかぐや姫の鉄扇
ドラキュラ退治を終え、平和な日常に戻った桃太郎一行。
……のはずだったのですが。
かぐや姫は毎日ゴロゴロ。
サルはマッサージ係。
犬は枕。
キジは送風係。
桃太郎家の秩序は完全に崩壊していました。
そんな中、いつも明るく働いていたメデューサが、珍しく深刻な悩みを抱えていることが判明します。
“怪物としての呪い”。
それは彼女の心にずっと引っかかっていた問題でした。
今回はギャグ多めの日常回……と思いきや、少しだけ恋愛要素もあるかもしれません。
第9話、開幕です!
トランシルバニアでの激戦から帰還し、しばらく――。
桃太郎一行は再び備前で平和な日々を送っていた。
……少なくとも、表面上は。
「あ~暇だわぁ~」
縁側に寝転がったかぐや姫が、完全にやる気ゼロの声を出す。
「サル君、もっとちゃんと腰揉んで」
「はいはい……」
サルは半泣きだった。
しかも、ただ揉まされているだけではない。
「キジ、風弱いわよ」
「はいっ!」
キジは団扇で必死に扇いでいる。
さらに――。
「犬、枕の高さが悪い」
「俺、生き物なんですけど!?」
犬は頭を乗せられていた。
完全に家具扱いである。
桃太郎は洗濯物を抱えながら、その光景を見てため息を吐いた。
「おい、かぐや姫」
「なによ」
「少しはちゃんとしろ」
「嫌よ」
即答だった。
「お前、女の子たちの憧れなんだろ?」
「そうだけど?」
「その姿見られたら夢壊れるぞ」
「平気平気。人前ではちゃんとやるから」
プロ意識だけは高い。
桃太郎は頭を抱えた。
(地上に引き戻したの、失敗だったかもしれん……)
かぐや姫は寝返りを打ちながら言う。
「ねえ、どっか楽しい所連れて行ってよ」
「働け」
「嫌」
「即答すんな!」
そこへ、庭で洗濯物を干していたメデューサが見えた。
眼鏡をかけた美少女。
今ではすっかり桃太郎家に馴染んでいる。
しかも家事能力が高い。
洗濯。
掃除。
料理。
全部できる。
「少しはメデューサちゃん見習え」
桃太郎が言った。
「なぁ、メデューサちゃん」
「……」
しかし返事がない。
「メデューサちゃん?」
「あっ!」
ようやく反応した。
どうやら考え事をしていたらしい。
「どうした?」
桃太郎が近づく。
メデューサは少し困ったように笑った。
「いえ……ちょっと考え事してて」
「悩みか?」
「まあ……そんな感じ」
珍しい。
普段は割と落ち着いているメデューサが、今日はどこか元気がない。
桃太郎は少し真面目な顔になった。
「何かあったのか?」
メデューサは眼鏡に触れながら、小さく呟く。
「……このまま呪いが解けなかったらどうしようって」
「呪い?」
「私、本当は怪物だから」
空気が少し静かになった。
メデューサは無理に笑う。
「今は眼鏡のおかげで普通の姿になれてるけど……」
「別にそれでいいじゃん」
桃太郎は首を傾げた。
「眼鏡かけてれば普通に可愛いし」
「か、可愛い……」
メデューサの頬が少し赤くなる。
だが、彼女は視線を逸らした。
「でも……」
「?」
「それじゃ桃太郎さんが嫌かなって……」
桃太郎はきょとんとしていた。
「なんで?」
「えっ」
「いや、なんで?」
メデューサは絶句した。
かぐや姫がむくりと起き上がる。
「……あんた」
「ん?」
「本当に鈍感ね」
「は?」
次の瞬間。
バシィィン!!
「いってぇぇぇ!?」
桃太郎が絶叫した。
かぐや姫の扇子が、桃太郎の頭へ直撃したのである。
「痛っ!?」
桃太郎は頭を押さえて転げ回った。
「何すんだよ!!」
「気づいてあげなさいよ!!」
「何を!?」
「全部よ!!」
サルが呟く。
「なんか始まった……」
犬は桃太郎の頭を見て引いていた。
「旦那、その扇子鉄製じゃないです?」
「鉄扇よ」
かぐや姫が涼しい顔で答える。
「武器じゃねぇか!!」
桃太郎の頭には巨大なたんこぶができていた。
ようやく枕から解放された犬が、水で濡らした手拭いを持ってくる。
「旦那、大丈夫ですか?」
「痛ぇ……」
「完全に殺傷力ありましたぜ」
「月の姫って怖ぇ……」
サルが震える。
一方メデューサは、顔を真っ赤にして俯いていた。
「もう……かぐや姫ったら……」
桃太郎だけが状況を理解していない。
「???」
本当に鈍感だった。
しばらくして。
たんこぶを冷やしながら、桃太郎は考え込む。
「呪いかぁ……」
メデューサは怪物化の呪いを抱えている。
今は眼鏡で抑えているが、根本解決ではない。
「なんか方法ないのかな」
その時、犬が手を叩いた。
「旦那!」
「ん?」
「トランシルバニアのアナ王女なら、何か知ってるかもしれませんぜ!」
「アナ王女?」
桃太郎の脳裏に、美しく胸の大きな王女の姿が浮かぶ。
「あのボインの……」
「最低」
かぐや姫が即ツッコミした。
だが桃太郎はちょっと乗り気だった。
「たしかに西洋の呪いとか詳しそうだな!」
「絶対別の目的も入ってますよね?」
犬がニヤニヤする。
「入ってねぇ!」
「顔が緩んでますぜ」
「うるせぇ!」
すると、かぐや姫が飛び起きた。
「海外!?」
「おう」
「楽しそう!!」
目がキラキラしている。
「わたしも行く!!」
「絶対言うと思った」
サルが呆れる。
キジも苦笑した。
「また大騒ぎになりそうですね……」
メデューサは少し申し訳なさそうだった。
「でも、本当にいいの?」
「いいに決まってるだろ」
桃太郎は笑う。
「仲間なんだから」
メデューサは目を丸くした。
そして少しだけ嬉しそうに微笑む。
「……ありがとう」
かぐや姫はそれを見ながら、じーっと桃太郎を見ていた。
「……ほんと鈍感」
「だから何なんだよ!」
こうして――。
メデューサの呪いを解く手掛かりを探すため、桃太郎一行は再び海を渡ることになった。
しかし彼らはまだ知らない。
その旅が、再び世界規模の大騒動へ繋がっていくことを――。




