ドラキュラ城の渋柿作戦
長い旅路の末、ついにトランシルバニアへ辿り着いた桃太郎一行!
待っていたのは、美しくも孤独な王女・アナ。
そして、その背後に迫る吸血鬼の王――ドラキュラ。
世界を恐怖に陥れる最強の怪物を前に、桃太郎たちはついに最終決戦へ挑む!
……のですが、今回の作戦もやっぱりどこかおかしいです。
渋柿。
荷馬車。
そしてキビ団子。
果たして桃太郎一行は、ドラキュラ城へどう乗り込むのか――?
第6話、開幕です!
長い旅路の末――。
ついに桃太郎一行は、トランシルバニアへと辿り着いた。
空は薄暗く、昼間だというのに太陽の光は弱い。
黒い森。
霧に包まれた山々。
そして遠くには、不気味な古城が見えていた。
「うわぁ……」
サルが肩を震わせる。
「めちゃくちゃラスボスの国っぽい……」
「実際ラスボスの国ですからね」
ウィリアムが苦笑した。
そのまま一行は山道を進み、トランシルバニア王城へ到着する。
王城は古く、美しかった。
だが同時に、どこか寂しさも漂っている。
兵士の数は少なく、城下町にも活気がない。
それだけドラキュラによる被害が深刻なのだろう。
やがて大広間へ案内された桃太郎たちは、一人の女性と対面した。
「私が王女のアナです」
金色の髪。
透き通るような白い肌。
そして豊かな胸元。
気品と色気を兼ね備えた美女だった。
「今では王家も、わたくし一人になってしまいました」
その声には悲しみが混じっている。
「桃太郎さん、どうぞよろしくお願いします」
「あ、はい!」
桃太郎は妙に背筋を伸ばした。
「自分たち、やる気満々なんで!」
犬が小声で囁く。
「旦那、鼻の下伸びてます」
「うるせぇ!」
サルが呆れた。
「分かりやすすぎる……」
一方アナ王女は、メデューサへ視線を向けた。
「そちらの眼鏡の美しい方もお仲間かしら?」
一瞬、空気が止まる。
「あ、はい!」
桃太郎が慌てて答える。
「この子はメデュ……」
メデューサが少し首を傾げる。
桃太郎は即座に言い直した。
「メイプルちゃんです!」
「誰がメイプルちゃんよ」
メデューサがジト目になる。
しかし桃太郎は必死だった。
(西洋でメデューサなんて名前出したら絶対騒ぎになる!!)
ウィリアムも察して黙っていた。
実際、ギリシャ神話級モンスターが普通に味方にいるのは説明が面倒すぎる。
「まあ、素敵なお名前」
アナ王女は微笑んだ。
何とか誤魔化せたらしい。
桃太郎は心の中で安堵した。
「ところで桃太郎さん」
アナ王女が真剣な表情になる。
「ドラキュラ退治の作戦はあるのかしら?」
「あります!」
桃太郎は即答した。
「ではアナ王女!」
「はい?」
「このエプロンを着て、このレシピ通りにキビ団子を大量に作ってください!」
沈黙。
「……はい?」
数分後――。
アナ王女は厨房にいた。
しかも桃色のエプロン姿で。
胸元にはハートマーク。
「……どうしてこうなったのかしら」
王女は困惑していた。
一方、桃太郎と犬は離れた場所で頷き合っていた。
「旦那、考えましたね」
「ああ」
桃太郎は真顔だった。
「ピンクのエプロンにハートマーク。ベタだが最強だ」
「さすがですぜ」
「後で絵師に描いてもらおう」
「抜かりない」
ウィリアムは頭を抱えた。
「何やってるんですかあなたたち……」
だが桃太郎はドヤ顔だった。
「ウィリアムよ、安心しろ」
「嫌な予感しかしません」
「俺と犬で、アテネからここへ向かう途中に完璧な作戦を考えてある」
(またこの二人かよ……)
ウィリアムは遠い目になった。
しかし、これまでの旅も何だかんだ成功している。
不安しかないが、結果は出しているのだ。
だから今回も信じるしかなかった。
そして一時間後――。
サルが荷馬車を引いていた。
大量の柿を積み込んで。
「なんで俺がこんな役……」
「適任だからだ」
桃太郎が即答する。
「サルと柿はセットみたいなもんだろ」
「雑!!」
しかしサルは結局押し切られた。
やがて一行は、ドラキュラ城へ到着する。
巨大な黒い城。
コウモリが飛び回り、雷まで鳴っている。
「うわぁ……徹底してるなぁ……」
キジが引いていた。
サルは意を決して門を叩く。
「ドラキュラさーん!」
ギギギギ……。
重い門が開いた。
現れたのは、長身の貴族風の男。
黒いマント。
青白い肌。
赤い瞳。
明らかに強者。
「……何者だ」
低く美しい声だった。
「なんだこのサルは。何しに来た?」
サルは揉み手しながら近づく。
「実はですねぇ、桃太郎を裏切って、ドラキュラさん側につこうかと思いまして!」
「ほう?」
ドラキュラが目を細める。
「これは手土産の日本の柿です!」
サルは荷馬車を指差した。
「どうか納めてください!」
ドラキュラは呆れた顔をする。
「こういう時はトマトの一つでも持ってくるものだ」
「すみません!」
「気の利かない猿だ」
だがドラキュラは油断していた。
所詮は猿。
大した脅威ではない。
「まあいい。通れ」
荷馬車はそのまま城内へ入れられた。
ドラキュラは柿を一つ手に取る。
「日本の果実か……」
パクリ。
数秒後。
「ペェッ!!」
ドラキュラが吐き出した。
「な、何だこれは!?」
「渋柿です!」
サルが爆笑する。
「引っかかった引っかかった!」
ドラキュラの額に青筋が浮かぶ。
「貴様……!」
「俺ぁなぁ!」
サルはドヤ顔だった。
「サルかに合戦のせいで柿には一家言あるんだよ!!」
「知らんわ!!」
サルは荷台の柿を投げ始めた。
「うおりゃぁぁぁ!!」
ゴッ!
「痛っ!?」
「この猿ぅぅぅ!!」
ドラキュラは激怒した。
「皆の者!! 出てこい!!」
その瞬間。
城中から吸血鬼たちが現れる。
貴族風。
騎士風。
魔物のような姿の者までいる。
「終わったぁぁぁ!!」
サルが泣きそうになる。
だが、その時だった。
ガタン!!
柿の荷台が突然壊れた。
「今だぁぁぁ!!」
中から飛び出したのは――。
桃太郎!
犬!
キジ!
そしてメデューサ!
「何ぃ!?」
ドラキュラが驚愕する。
桃太郎は刀を抜いた。
「鬼退治専門家、桃太郎参上だ!!」
「どこに隠れていた!?」
「柿の下だよ!」
「雑すぎるだろ!!」
その瞬間、一気に乱戦が始まった。
犬が吸血鬼へ飛びかかる。
「うおおおお!!」
サルは柿を投げまくる。
「食らえ渋柿!!」
キジは空から急降下。
「目潰しぃぃぃ!!」
メデューサは眼鏡をクイッと上げた。
「……本気出していい?」
「城壊すなよ!」
「善処するわ」
吸血鬼軍団と桃太郎一行。
ついに最終決戦の幕が上がったのだった――。
第6話を読んでいただきありがとうございました!
今回はついにトランシルバニア編へ突入し、
アナ王女
ドラキュラ城
吸血鬼軍団
最終決戦前夜
など、“いよいよラスボス感”が強くなってきました。
……なのに作戦が“渋柿”です。
この作品らしさ全開ですね(笑)
特に今回は、
「サル=柿」
という昔話ネタをどうしても使いたくて、サル本人に渋柿特攻を担当してもらいました。
本人は嫌がっていましたが、たぶん適任です。
また、
桃太郎の美女耐性の低さ
犬のプロデューサー気質
ウィリアムの胃痛ポジション
メデューサの馴染み始めた感じ
など、仲間たちの空気感もかなり完成してきた気がします。
そして次回はいよいよ――
桃太郎VSドラキュラ。
吸血鬼の王との本格決戦が始まります!
ぜひ次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!




