酒呑童子と足つぼ地獄
出雲でヤマタノオロチを退治した桃太郎一行。
順調に都へ向かうかと思われたが、次なる峠では、再び厄介な噂が待っていた。
その名も――酒呑童子。
かつて源頼光と四天王が命懸けで倒したとされる伝説の鬼である。
しかし今回の桃太郎一行、まともに戦う気がありません。
果たして酒呑童子は、桃太郎たちの“新戦法”に耐えられるのか……?
第4話、開幕です!
出雲大社で必勝祈願を終えた桃太郎一行は、再び東へ向かっていた。
山道は険しく、霧も深い。
だが桃太郎は機嫌が良かった。
「やっぱ神社って落ち着くな」
「桃太郎さん、意外と信心深いですよね」
ウィリアムが言う。
「そりゃ鬼退治なんて仕事してるとな。神頼みくらいしたくなる」
「現実的なんですね」
「死にたくねぇからな」
その返答に、サルが苦笑した。
「英雄の台詞じゃないですよね」
「英雄だって死ぬのは嫌だ」
もっともである。
一方その頃――。
犬は峠道を歩きながら、妙にキメ顔をしていた。
「……」
「どうした犬」
「いや」
犬は遠くを見つめる。
「この霧、実に映画っぽいなと」
「まだ言ってるのか」
「絶対ここ、ポスター映えしますよ」
キジが羽を整えながら頷く。
「分かります。私も今かなり画になってます」
「お前ら旅の目的忘れてないか?」
「忘れてませんよ!」
二匹は同時に答えた。
「ドラキュラ退治からの世界的人気獲得でしょう!」
「妙に俗っぽいなぁ……」
ウィリアムは頭を抱えた。
しかし、そんな軽口も徐々に減っていく。
峠へ近づくにつれ、空気が重くなっていったからだ。
風が冷たい。
鳥の鳴き声も聞こえない。
木々の間から見える山道は薄暗く、まるで何かに見られているような感覚すらある。
「……どうしたウィリアム」
桃太郎が振り返った。
「さっきから顔色悪いぞ」
「え、ええ……」
ウィリアムは唾を飲み込む。
「実は、この辺りには嫌な噂がありまして……」
「噂?」
「酒呑童子です」
その名に、サルが顔をしかめた。
「うわ、また神話級ですか」
「有名なのか?」
ウィリアムが尋ねると、犬が説明する。
「昔、都を荒らしまくった鬼の親玉ですよ」
「鬼の親玉?」
「めちゃくちゃ強かったらしいです」
キジが羽を震わせた。
「確か、源頼光って武士と、その部下たちが命懸けで倒したとか」
「へぇ」
桃太郎は腕を組む。
「でも倒されたんだろ?」
「そのはずなんですが……」
ウィリアムは声を潜めた。
「最近、その酒呑童子が復活したという噂が都で広まっているんです」
沈黙。
そしてサルが叫んだ。
「また寄り道イベント発生したぁぁぁ!!」
「嫌そうだな」
「嫌ですよ!!」
サルは木にしがみついた。
「なんで旅するたびに伝説級ボスが湧くんですか!?」
「人気シリーズには強敵が必要なんだろ」
「メタ発言やめてください!」
するとウィリアムが少し申し訳なさそうに言った。
「実は私は、桃太郎さん以外にもドラキュラ退治の候補を考えていたんです」
「ほう?」
「金太郎さんとか、力太郎さんとか……」
その瞬間。
「やめとけ!!」
桃太郎が即答した。
「えっ」
「金太郎は今の時代アウトだ!」
「アウト?」
「あの裸みたいな格好。絶対セクハラ扱いされる」
「そ、そんな理由で!?」
「しかも熊と相撲取って喜んでる男だぞ。コンプラ審査通らねぇ」
「夢がない……!」
桃太郎はさらに続ける。
「力太郎も駄目だ」
「どうしてです?」
「あいつ、垢から生まれてるから衛生面が最悪だ」
ウィリアムは真顔になった。
「確かに嫌ですね……」
「だろ?」
桃太郎は胸を張る。
「その点、俺は桃から生まれてる。爽やかだ」
「いや、あなたもだいぶ変わりましたよね」
ウィリアムは思わず言った。
今の桃太郎は昔話の素朴な少年ではない。
長髪。
着流し。
妙に色気のある雰囲気。
完全に“モテる侍”方向へ進化している。
「世界進出を考えた結果だ」
「理由が全部俗っぽいなぁ……」
そんな話をしているうちに、一行は峠の奥へ辿り着いた。
そして――。
「……何だありゃ」
犬が呟く。
山奥のはずなのに、そこには巨大な屋敷が建っていた。
赤い提灯。
豪華な門。
奥からは宴会の笑い声まで聞こえてくる。
「どう見ても怪しいですね」
キジが即答した。
「完全に敵のアジトです」
桃太郎はニヤリと笑う。
「ここが酒呑童子の屋敷だな」
ウィリアムは地図を見ながら頷く。
「恐らく……」
桃太郎は少し考え込んだ。
「ところでウィリアム。昔、金太郎たちはどうやって酒呑童子を倒したんだ?」
「えっと……確か毒酒を飲ませて酔わせたところを、一斉攻撃したと」
その瞬間。
「うわぁ……」
桃太郎と犬が同時に引いた。
「何ですその反応」
「いや」
桃太郎は真顔だった。
「酒で酔わせてボコるって、子供向け英雄譚として最低じゃね?」
「夢壊さないでください!」
犬も頷く。
「エンタメ性がない」
「そこ!?」
「せっかくなら、もっとこう……盛り上がる戦いが必要でしょう」
すると桃太郎は急にニヤリと笑った。
「……よし」
「何か思いつきました?」
「ああ」
桃太郎と犬はコソコソ相談を始めた。
サルとキジは嫌な予感しかしない。
数分後――。
「できた!」
桃太郎が満足げに頷いた。
そこには、屋敷の前に大量の石が並べられていた。
しかも微妙に凹凸があり、表面がつるつるしている。
「……何これ」
サルが尋ねる。
「足つぼマットだ」
「何やってるんですか!?」
「鬼退治だ」
「絶対違う!!」
桃太郎たちは屋敷の玄関前に、びっしりと石を敷き詰めていく。
そして準備が終わると、堂々と玄関へ突入した。
バァン!!
「おう酒呑童子!!」
鬼たちが一斉に振り返る。
宴会場には大量の鬼がいた。
赤鬼。
青鬼。
筋骨隆々の怪物たち。
そして奥の玉座には――。
巨大な角を持つ鬼が座っていた。
「……誰だ貴様ら」
低い声が響く。
酒呑童子だ。
その威圧感だけで空気が震える。
だが桃太郎は平然としていた。
「鬼退治専門家だ」
「ほう?」
「あと、お前らの草履もらうぞ」
「は?」
次の瞬間。
桃太郎たちは鬼たちの草履を奪って逃げ出した。
「待てコラァァァ!!」
鬼たちは激怒。
そのまま裸足で玄関から飛び出す。
そして――。
「ぎゃあああああっ!?」
絶叫が響いた。
鬼たちは次々とその場に倒れ込む。
「足がァァァ!!」
「痛ぇぇぇぇ!!」
「なんだこの石ィィィ!!」
足つぼ地獄だった。
鬼たちは巨大な体重ゆえに刺激が倍増している。
悶絶。
転倒。
大混乱。
「よし!」
桃太郎が拳を握る。
「足つぼマット作戦成功!」
「最低だこの戦法!!」
ウィリアムが叫ぶ。
だが桃太郎一行は容赦しない。
「かかれぇぇぇ!!」
犬が鬼を吹き飛ばし、
サルが頭を蹴り、
キジが目潰しし、
桃太郎が豪快に叩き伏せる。
阿鼻叫喚だった。
数分後。
気づけば立っているのは、酒呑童子一人だけだった。
「ば、馬鹿な……」
酒呑童子は震えていた。
「こんな……こんな倒し方が……!」
「時代は頭脳戦だ」
桃太郎は刀を肩に担ぐ。
酒呑童子は土下座した。
「命だけは! 命だけはお助けください!」
その姿に、ウィリアムは少し驚いた。
桃太郎は無言で考え込む。
そして言った。
「よし。条件がある」
「は、はい!」
「人間から奪った財宝を全部返せ」
「返します!」
「あと、近隣の村全部回って――」
桃太郎はニヤリと笑った。
「“桃太郎の方が金太郎より強かった”って宣伝しろ」
「そこ!?」
キジが叫ぶ。
桃太郎は真顔だった。
「大事だろ」
「何のためのマウントなんですか!?」
「知名度戦争だ」
犬が頷く。
「確かに金太郎はライバルですからね」
「お前も乗るな!」
こうして酒呑童子は命を許され、その代わりに桃太郎の宣伝係となった。
峠を抜ける頃には、空は夕焼けに染まっていた。
「ようやく都か」
桃太郎は遠くを見つめる。
その先には、日本最大の都――京。
そしてさらに先には、西洋への旅が待っている。
「行くぞ」
桃太郎が歩き出す。
仲間たちもその後を追った。
鬼を倒し、
神話の怪物を退け、
それでも彼らの旅はまだ始まったばかりだった。
第4話を読んでいただきありがとうございました!
今回は日本最強クラスの鬼、『酒呑童子』を登場させてみました。
本来なら超シリアスで恐ろしい敵なのですが、この作品の桃太郎一行は毎回戦い方がおかしいので、まさかの“足つぼマット作戦”になりました(笑)
特に、
「鬼だから体重が重い→足つぼダメージ倍増」
という謎理論を思いついた瞬間、
「これは桃太郎一行なら絶対やる」
と確信しました。
また今回は、
桃太郎VS金太郎(勝手なライバル意識)
犬の映画脳
ウィリアムの常識人ポジション
サルとキジのツッコミ疲れ
など、一行の関係性もかなり賑やかになってきた気がします。
次回はいよいよ都編。
日本最大の都市で、桃太郎たちは何を見るのか。
そしてドラキュラ退治の旅は、少しずつ世界規模へと動き始めます。
ぜひ次回も楽しんでいただけたら嬉しいです!




