出雲に蘇る八つの災厄
ドラキュラ退治のため、西洋へ向かう桃太郎一行。
しかし長い旅路の途中、彼らは出雲の国で不穏な噂を耳にする。
――かつて神が倒したはずの怪物『ヤマタノオロチ』が復活した。
鬼退治の次は、まさかの神話級モンスター戦。
しかも今回も、桃太郎一行の戦い方はどこかおかしい……?
日本昔話オールスター冒険譚、第3話です!
備前を出発した桃太郎一行は、西へ向かう山道を歩いていた。
空は晴れ渡り、春風が草木を揺らしている。
旅としては悪くない。
……ただし、メンバーが騒がしい。
「疲れました……」
キジが翼をだらりと下げた。
「まだ半日しか歩いてねぇぞ」
桃太郎が呆れる。
「私は空を飛ぶタイプなんですよ! 徒歩向きじゃないんです!」
「じゃあ飛べばいいだろ」
「荷物あるじゃないですか!」
キジは背中の風呂敷を見せた。
中には衣装替え用のスカーフや羽の手入れ道具が入っている。
完全に旅を舐めていた。
「お前、本当に戦う気あるのか?」
「見た目も戦士の重要要素です!」
「うわ面倒くせぇ」
一方その頃――。
サルは木の実を食べながら枝を飛び回っていた。
「いやー、やっぱ旅って嫌ですねぇ」
「まだ始まったばっかだぞ」
「もう帰りたい」
「早ぇよ」
すると犬が豪快に笑った。
「ガハハハ! 旅ってのはこうでなくちゃな!」
「犬だけ元気すぎません?」
ウィリアムが引き気味に呟く。
犬は巨大な荷物を背負っているにも関わらず、まるで疲れていない。
しかも時々、意味もなく木を殴っている。
ドゴォッ!!
太い木が一本、真っ二つになった。
「なんで今殴ったんですか!?」
「肩慣らしだ!」
「怖い怖い怖い!」
ウィリアムは改めて思う。
この一行、絶対に普通じゃない。
そんな彼らだったが、目的地はちゃんと決めていた。
それは――出雲。
「ドラキュラ退治の前に、出雲大社で必勝祈願をしておきたい」
桃太郎がそう言い出したのだ。
「神頼みですか?」
ウィリアムが尋ねる。
「念のためだ」
桃太郎は腕を組む。
「鬼とは違う相手だからな。西洋の化け物相手に油断はできねぇ」
「意外と慎重なんですね」
「死にたくねぇからな」
その返答は妙に現実的だった。
そして数日後――。
一行はついに出雲の国へ辿り着いた。
「ここが出雲か……」
桃太郎は周囲を見回した。
「もっと賑やかな場所だと思ってたが……」
妙だった。
街に人がいない。
店は閉まり、道には荷車が放置されている。
風だけが静かに吹いていた。
サルが顔をしかめる。
「なんか嫌な感じですね」
「ええ……」
キジも珍しく真面目な顔になる。
「鳥の気配すら薄いです」
ウィリアムは小声で呟いた。
「まるで、死んだ街みたいだ……」
その時だった。
「旅のお人!」
突然、茶屋の戸が勢いよく開いた。
「早く中へ!」
恰幅の良い女将が、必死の形相で手招きしている。
「え?」
「いいから入んなさい!」
桃太郎たちが中へ入ると、女将は慌てて戸を閉め、鍵までかけた。
ガタガタと窓まで塞ぎ始める。
「おい女将」
桃太郎が眉をひそめた。
「何があった」
女将は青ざめた顔で答えた。
「知らないんですかい……?」
「何をだ」
「ヤマタノオロチですよ」
その名が出た瞬間、空気が変わった。
「ヤマタノオロチ……?」
ウィリアムは首を傾げる。
「日本の伝説に出てくる怪物だ」
桃太郎が説明した。
「八つの頭を持つ大蛇。昔、スサノオノミコトって神様が倒したって言われてる」
すると女将が震える声で言った。
「そいつが……復活したんですよ」
一同は黙った。
「ここ最近、夜になると現れて、人をさらっていくんです……」
「そんな馬鹿な」
キジが目を見開く。
「神話の怪物ですよ!?」
「でも本当なんです!」
女将は涙目になっていた。
「うちの息子も連れていかれました……!」
茶屋の空気が重くなる。
ウィリアムは拳を握った。
自分の国もドラキュラに苦しめられている。
だから分かる。
怪物に怯えて生きる人々の気持ちが。
「桃太郎さん」
犬が口を開く。
「どうします?」
桃太郎は静かに立ち上がった。
「決まってる」
その目には迷いがない。
「退治するぞ」
サルが頭を抱えた。
「ですよねぇぇぇぇ……」
「嫌なのか?」
「嫌ですよ! なんで旅の途中で神話級ボスと戦うんですか!」
「寄り道イベントだ」
「難易度高すぎません!?」
しかし犬は笑っていた。
「面白ぇじゃねぇか!」
「犬だけテンション上がってる!」
女将は信じられないものを見るような目をした。
「あ、あんたたち本当に戦う気なのかい……?」
「安心しろ」
桃太郎は不敵に笑う。
「俺たちは鬼退治の専門家だ」
数刻後――。
桃太郎一行は、女将から聞いた“地蔵峠”へ向かっていた。
空は曇り始め、辺りには不気味な霧が漂っている。
木々も枯れ、獣の気配すらない。
「完全にボスステージですね……」
キジが震える。
「帰りたい……」
「今さらか」
桃太郎は腰の刀を軽く鳴らした。
カチリ――。
その音だけで空気が張り詰める。
「おい、ヤマタノオロチ!」
桃太郎は峠へ向かって叫んだ。
「出てこい! この桃太郎様が相手してやる!」
直後――。
ゴゴゴゴゴゴ……!!
地面が揺れた。
霧の奥から、巨大な影が現れる。
それはまさに怪物だった。
八つの頭。
巨大な蛇の胴体。
真紅の瞳。
一つ一つの頭が家ほども大きい。
ウィリアムは息を呑んだ。
「こ、これが……ヤマタノオロチ……!」
八つの頭が同時に桃太郎を見下ろす。
『桃太郎だと?』
声が山に響いた。
『あのピンクのハッピを着て鬼退治していた、いかがわしい客引きみたいな奴か?』
一瞬、沈黙。
そして。
「この野郎ォ!!」
桃太郎がブチ切れた。
「誰が歌舞伎町の客引きだ!!」
刀を抜こうとする桃太郎。
しかし犬が慌てて止める。
「待ってください旦那!」
「あぁ!?」
「ここで瞬殺したらエンタメ性ゼロです!」
「何言ってんだお前!?」
「映画化を目指すなら盛り上がりが必要でしょう!」
犬は真剣だった。
「俺たちの目標はレッドカーペットを四人で歩くことじゃないですか!」
「……確かに」
桃太郎が冷静になる。
「ちょっとカッとなった」
サルが呆れた。
「そこなんだ……」
すると桃太郎はニヤリと笑った。
「よし。例の新フォーメーションで行くぞ」
「えっ」
サルとキジが嫌な顔をした。
「まさかアレをやるんですか!?」
「当然だ」
四人は円陣を組み、コソコソと話し始める。
ヤマタノオロチは鼻で笑った。
『何をしている小僧ども』
「作戦会議だ」
『無駄だ。貴様らなど我の餌――』
「行くぞ!!」
次の瞬間。
桃太郎たちは突然、ヤマタノオロチの周囲を“八の字”に走り始めた。
ぐるぐるぐるぐる――!!
「何だこいつら!?」
ウィリアムが困惑する。
しかも異常に速い。
犬が地面を蹴り、
サルが木を飛び、
キジが空から誘導し、
桃太郎が中心を駆ける。
結果――。
ヤマタノオロチの八本の首が、どんどん絡まり始めた。
『ぬっ!?』
『待て!』
『おい押すな!』
『絡まってる!!』
頭同士がぶつかり合い、完全に大混乱である。
そして――。
ギチギチギチギチ!!
首が固結び状態になった。
『ぐぇっ!?』
『く、苦しい!?』
『ま、待――』
ドォォォン!!
巨大なヤマタノオロチは、そのまま窒息して倒れた。
沈黙。
「……え?」
ウィリアムが固まる。
「勝ったぞ!」
桃太郎が親指を立てた。
「えぇ……」
伝説の怪物の最期としてはあまりに酷かった。
サルが胸を張る。
「これが桃太郎式集団戦法です!」
「頭悪すぎません!?」
「でも勝っただろ」
「それはそうですけど!」
キジは羽を整えながら言った。
「いやぁ、映像映えしましたね」
「映画化狙ってる場合か!」
こうして――。
神話の怪物・ヤマタノオロチは、意味不明なフォーメーションによって討伐されたのだった。
その後。
一行は無事に出雲大社へ到着した。
巨大なしめ縄を見上げ、ウィリアムは感動している。
「美しい場所ですね……」
「ああ」
桃太郎は静かに手を合わせた。
ドラキュラ退治。
この先の旅。
そして――。
仲間たちが無事であることを。
参拝を終えた桃太郎は振り返る。
「よし。次は都だ」
夕陽が、五人の背中を照らしていた。
こうして桃太郎一行は、再び旅路を進み始める。
西洋の怪物との戦いへ向けて――。
第3話を読んでいただきありがとうございました!
今回は、日本神話でも超有名な怪物『ヤマタノオロチ』を登場させてみました。
本来なら超強敵のはずなのですが、この作品の桃太郎一行は真正面から戦わないので、まさかの“首を絡ませて窒息”という力技(?)での決着になりました。
作者としては、
「神話級怪物なのに倒され方がひどい」
というギャップを書いていて楽しかったです(笑)
また今回は、
桃太郎の短気な部分
犬の映画化への異常な情熱
サルとキジのツッコミ役化
ウィリアムの苦労人ポジション
など、一行の空気感もかなり固まってきた気がします。
次回からはいよいよ都編へ。
日本最大の都で、桃太郎たちはどんな騒動に巻き込まれるのか――ぜひ楽しみにしていただければ嬉しいです!




